[FT]戦争終結望むトランプ氏 ウクライナに欧州軍駐留も

[FT]戦争終結望むトランプ氏 ウクライナに欧州軍駐留も
フォーリン・エディター アレック・ラッセル
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2568O0V21C24A1000000/

『2024年11月27日 0:00 (2024年11月27日 9:38更新) [会員限定記事]
think!
多様な観点からニュースを考える
鶴岡路人さんの投稿
鶴岡路人
Financial Times
大半の時間を待機することに費やし、短い発作的な活動が時々あるというのは古くからある軍隊の決まり文句だ。外交についても同じことが言える。

米ニューヨーク市にあるトランプタワーで会談するトランプ氏㊨とウクライナのゼレンスキー大統領=ロイター

この1年間、ウクライナ戦争のすべての当事者が米大統領選の結果を待っていた。トランプ前大統領の圧勝はこの中途半端な状態に終止符を打ち、戦争の終局についての検討作業に拍車をかけた。

トランプ氏はかねて戦争を終わらせることが優先事項だと主張してきた。合意への道筋について妥当な疑問がどれほどあろうとも、米国の同盟国は、これがトランプ氏の守りたい約束だと考えている。

欧州連合(EU)の本部があるベルギーのブリュッセルでは2025年に停戦もしくは何らかの形での合意が実現するとの期待が高まっている。欧州諸国にとっての課題はそのプロセスをいかに受け入れ可能な結末に導くかだ。

米国の圧倒的な軍事力はトランプ氏にこのプロセスを指揮する支配的な発言権を与えるが、欧州諸国も影響力を持つ。各国はただ、その力を行使すればいいだけだ。

一部の国は依然として、受け入れられる唯一の結果はロシア軍が1991年の旧ソ連崩壊時の国境線まで撤収することだと気高く主張するだろう。ウクライナと支援国の大半にとって、正式な国境線変更を黙って受け入れることは論外だ。

だが、ウクライナや欧米政府は次第に、実現の可能性が最も高い結果について共通の見解ができてきた。国境問題を無期限に先送りして紛争を凍結させるのだ。

トランプ氏が国家安全保障担当の大統領補佐官に起用するマイク・ウォルツ下院議員に近い関係者や次期米政権の外交政策チームに入っている他のメンバーは、暫定的な国境について合意した朝鮮半島の管理ライン(北緯38度線)の形態が信頼に足る一つのシナリオだと語っている。

極めて重要な問題は、そうした合意をどのように強制するかだ。そしてもちろん、戦況がロシアに有利な方向に傾いている今、いかにしてプーチン大統領を交渉のテーブルに着かせるかだ。

合意の監視と強制についてトランプ氏の側近は、同氏が米兵を一人たりとも配備しないと断言している。国連安全保障理事会の膠着状態を考えると、90年代の常とう手段だった国連軍の動員も論外だ。

その結果残るのは欧州であり、北大西洋条約機構(NATO)経由で結成する米軍抜きの部隊か、欧州独自の部隊しかない。欧州の潜在的な影響力が効果を発揮するのはここだ。

エストニアのツアフクナ外相は11月中旬に沈黙を破り、欧州は和平合意を支えるためにウクライナに部隊を派遣する準備をしておくべきだとフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。

英国の政治用語を使うなら、ツアフクナ氏は世論の反応を探るために「観測気球をあげていた」。2日後になってもまだ気球はあがっていた。欧州諸国はこれに同意する可能性があり、その方法について検討し始めているとみられる。

今回は特定の条件の下でしか部隊を動員しないと主張できることから、交渉のテーブルで発言権を持てると欧州の外交官は考えている。そのような保証がなければ、プーチン氏が合意の条件に違反するリスクが大きすぎ、大半の政府首脳は派兵に同意できないだろう。

ウクライナにとっては、トランプ氏がプーチン氏の条件に基づくお粗末な合意を迫る悪夢のシナリオがまだ残る。

ただ欧州の首脳は今、慎重な楽観論を抱いている。トランプ氏はロシアがウクライナを踏みにじるのをただ傍観する大統領にはなりたくないはずだ、と。

欧州のある高官は「トランプ氏はこれを解決したいが、どんな代償を払ってもいいとは思っていない」と指摘する。「ウクライナの降伏であってはならない」し、アフガニスタンの騒乱のような大失態であってもならない。

ウクライナによるNATO加盟の確約には及ばないものの、トランプ氏は何らかの安全保障に合意すると見られている。トランプ氏の取り巻きの間で持ち上がっている一つの案は、プーチン氏が合意の条件を破った場合に米国が戦いに再び関与すると宣言することだ。

少なくとも理論上は、プーチン氏は14年に始まったウクライナ東部紛争での停戦と和平を定めたはずのミンスク合意でやったように、合意をほごにすることは許されない。ウクライナの長期的なEU加盟に向けた道のりを強調する案もまだ残っている。

これらはすべて、プーチン氏を従わせられるという考えの上に成り立っている。一見すると、戦争が激化する可能性はかつてないほど懸念される。

ウクライナに対してロシア領への長射程兵器の使用を認めるという西側諸国の決断は、現在のウクライナとその支援国のキャッチフレーズである「力による平和」を改めて浮き彫りにした。

このフレーズは2世紀の古代ローマ帝国皇帝ハドリアヌスが最初に使ったとされている。21世紀のウクライナでは、ロシアに対するこれ以上ない圧力を象徴している。

ウォルツ氏は9月、ロシア政府に圧力をかける方法はほかにもあり、石油に依存するロシア経済を弱体化させるために安い米国産石油を市場に放出することもその一つだと筆者に語った。ムチだけでなく、アメも重要になる。

大半のことがまだ不透明なままだ。中国に対し、ロシアに圧力をかけるよう働きかけることができるのか。制裁はどうするのか。そして何より、ロシアは合意に関心がないかもしれない。

だが、目先は膠着状態が打破された。トランプ氏が指名した閣僚候補の多くは米国の同盟国からあきれ顔で迎えられたが、ウォルツ氏と国務長官に指名されたマルコ・ルビオ上院議員は違った。

欧州の当局者たちは、トランプ氏が1期目で欧州諸国に防衛費増額を強いたのは正しい判断だったと認めている。

今や、戦争を終結させる最善の方法に意識を集中させるのは正しいのではないかとあえて問う人もいる。

By Alec Russell

(2024年11月21日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2024. All Rights Reserved. FT and Financial Times are trademarks of the Financial Times Ltd. Not to be redistributed, copied, or modified in any way. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translation and the Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

NIKKEI FT the World

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

鶴岡路人のアバター
鶴岡路人
慶應義塾大学総合政策学部 准教授
コメントメニュー

ひとこと解説 トランプ当選を受けて事態が急速に動き始めた。欧州にとっては、いかに自らの利益に沿う結果を実現できるかが焦点だ。そのために第1のテコは、この記事にもあるように、「ロシアの勝利」も「アフガニスタンのような敗退」も、「力による平和」を掲げるトランプ政権は受け入れられないだろう、と米国のプライドをくすぐることである。第2は、ウクライナへの経済支援や武器支援、さらには部隊派遣で米国の負担を軽減させることだ。これは、まさにトランプ政権が欲しているものだ。米国の影響力は絶大だが、「米国第一」を標榜し、自らの負担を避けたい大統領であるがゆえに、欧州が影響力を及ぼす余地が生じるかもしれない。
2024年11月27日 1:42
いいね
25 』