米大統領選 なかなか勝敗は決まらない?大激戦を制するのは?
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241028/k10014621781000.html
『2024年10月28日 18時56分
民主党のハリス副大統領対共和党のトランプ前大統領。大激戦を制するのはどちらか。
過去の選挙結果を分析してみると、ある傾向とヒントが見えてきました。
何が勝敗を決するか。そしてその先に何があるのでしょうか。
「きっ抗極まれり」
「民主党と共和党、それぞれの支持基盤のきっ抗が極まった選挙」
そう表現したのはアメリカ社会の変化を見つめる慶應義塾大学の渡辺靖教授です。
渡辺教授
「両党はともに自動的に45%前後の票は取れるので、残る10%程度の票をめぐる争いになる。今の時代、もはや地滑り的勝利というのは考えにくい」
慶應義塾大学 渡辺靖教授
両党とも地盤となる州を固め、激戦州を中心に残り数%の票の取り合いだという今回の選挙。
ではその激戦州は今、どのような状況になっているのか。どんな要素が選挙に影響するのか。
過去の選挙結果とアメリカ社会の現状を数値化したデータを見比べました。
統計データを徹底分析
分析に用いたのはアメリカ国勢調査局による人口や経済状況などの統計データ。
前回2020年の大統領選挙の結果で照らし合わせてみると、いくつかの要素で民主党、共和党それぞれの得票率との間に一定の関連性があることがわかりました。
その要素とは、学歴、収入、そして職業。
この3つの要素について民主党の得票率が高い州、共和党の得票率が高い州それぞれとの間で、ある傾向がありました。
まず、学歴。
大学卒業以上の学歴を持つ人の割合が高い州ほど民主党候補の得票率が相対的に高く、その割合が低い州ほど共和党候補の得票率が高いという傾向が見られました。
収入では、世帯あたりの年収の平均が高い州ほど民主党候補の得票率が相対的に高く、共和党候補の得票率が低くなっていました。
そして職業。
農林漁業、建設、設備メンテナンスの仕事をしている人の割合が高い州では、共和党候補の得票率が相対的に高く、民主党候補の得票率が低い傾向がみられ、IT、工学、科学関連の仕事をしている人の割合が高い州ではその反対の傾向が見られました。
こうした傾向は2016年の選挙でも見られましたが、2020年の選挙ではより顕著になっていました。
渡辺教授
「州によってさまざまな要素がありますが、大まかな傾向として、その州のなりわいは非常に大きいと思います。
どのような州でも農村部、都市部がありますが、農村部、つまり第1次産業の地域では共和党の、また都市部になればなるほど民主党の牙城になるという傾向があります」
移り変わる激戦州
では激戦州はどうなっているのか。
過去の選挙結果を詳しく見てみると、その激戦州は移り変わってきたことがわかりました。
1988
1992
1996
2000
2004
2008
2012
2016
2020
民主党
0-5% 5-10% 10-20% 20-30% 30%超
共和党
0-5% 5-10% 10-20% 20-30% 30%超
黄色い枠の州は前回と勝利した候補の政党が変わったところ
かつてその代表格とされた中西部オハイオ州やアイオワ州、南部フロリダ州。
近年、共和党の得票率が高まる傾向が見て取れます。
渡辺教授
「オハイオ、アイオワでは第1次もしくは2次産業の割合が高く、第3次、4次産業に移っていかないと若い層と高学歴の人たちが州に入ってこなくなる。また従来からの住民は高齢化し、基本的には白人中心の社会になる。
フロリダは快適な気候を好んで全米各地から比較的裕福で高齢な人たちが移り住んでいる。価値観もやや保守的な傾向があり、従来に比べるとより共和党寄りになってきている」
激戦州7州はどこ?
かつての激戦州がそうではなくなるなか、新たに激戦州と認識されるようになった州では何が起きているのか。
今回の選挙では東部ペンシルベニア州、中西部ミシガン州、ウィスコンシン州、南部ノースカロライナ州、ジョージア州、西部アリゾナ州、ネバダ州の7州が激戦州に位置づけられています。
このうちペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州は「ラストベルト=さびついた工業地帯」に位置し、民主党の強固な地盤「ブルーウォール=青い壁」の一角とされてきました。
一方、残りの4州は温暖な地域「サンベルト」に位置し、ジョージアとアリゾナは共和党の地盤「レッドシー=赤い海」の一角ともみられてきました。
人口動態と産業が要因?
民主党寄りだった州と共和党寄りだった州がなぜ激戦州になったのか。
アメリカ国勢調査局のデータなどを分析したところ、人口動態や産業構造に特徴が見られました。
それぞれの州の2010年と2023年での人口の増加率を比較したところ、全米の平均は8%。これに対し、ラストベルトの3州では1~3%と低くなっていた一方、サンベルトのアリゾナでは15%、ジョージアでは13%と高くなっていました。
また2023年時点での人種の構成を比較すると、州の人口に占める白人の割合が全米の平均で57%だったのに対し、ラストベルトの3州は72~78%と高い一方、サンベルトのアリゾナは52%、ジョージアは48%と低くなっていました。
このことからサンベルトの2州ではラストベルトの3州より相対的に人口の増加率が高く、人種の多様化が進んでいると言えそうです。
学歴の傾向は
また民主、共和両党の得票率と一定の関連性が見られた学歴、収入、職業の3要素の統計データを可視化したところ、これらの5州はいずれも、大学卒業以上の学歴を持つ人の割合、世帯あたりの年収の平均、IT・工学・科学関連の仕事をしている人の割合が全米各州を比較したグラフの中央近くに位置していました。
このうち学歴に関連してアメリカの公共ラジオ「NPR」は、ラストベルトの3州では2024年の時点で大学卒業の資格を持たない白人の層が全体の50%以上を占める最大の有権者層になっているとしています。
一方、サンベルトの2州では有権者に占める大学卒業の資格を持たない白人の層の割合が2008年の40%台から2024年には33%に減少しているということです。
産業構造の変化も
産業に目を向けると、自動車や鉄鋼など重工業の中心でかつては全米の製造業の雇用の50%以上を占めていたとされるラストベルトの3州では、これらの産業が衰退した今も第2次産業で働く人の割合が全米の平均よりも高くなっています。
一方、サンベルトの2州では先端企業の立地が進んでいます。
アリゾナでは2020年以降、40の半導体関連企業が事業を拡大したり新たに進出したりし、ジョージアではこの10年あまりでIT・工学・科学関連の就労人口がおよそ2倍に増加しています。
アリゾナ州の州都フェニックス
渡辺教授
「ラストベルトの一部の州では産業の衰退で、人の流入が少ない。
一方、サンベルトでは気候が暑いということもあり、かつては人が暮らしたり働いたりするには厳しかったが、エアコンの普及や土地も税金も安いということで、第3次、第4次産業が進出し、それに伴い若い人や高学歴の人が移り住んでいる。
こうした人たちはいわゆる多様性とか変化について前向きに捉えようとする傾向が強く、リベラル寄りになってきている」
激戦州のカギは
人口動態や産業構造の変化の影響も受けながら移り変わる激戦州。
データの分析からはこれらの激戦州は全米の各州の「中間」、つまり民主党と共和党の支持層が混在してきっ抗している姿が浮かび上がってきます。
では勝負を決する要因とは何なのか。
指摘されるのは無党派層であり、「アンディサイデッド=態度を決めていない投票者」、「スイングボーター=揺れる投票者」と呼ばれる選挙によって支持政党を変える人の存在です。
無党派層は民主党、共和党どちらの支持層でもないという意味で「インディペンデント(Independent)」と呼ばれ、全米で増加傾向にあります。
アメリカのギャラップ社の毎月のアンケート調査によると民主党、共和党の支持層は2004年は30~35%で推移していたのが、2023年は25~30%の間と減少しているのに対し、無党派層は30~40%から40前後~50%近くに増えています。
両候補にとってはこの層をどれだけ引き寄せられるのかが勝利に向けた大きなカギとなります。
その先に何が
また投票が迫るなか懸念されているのが、なかなか勝敗が決まらないという事態です。
渡辺教授は僅差であればあるほど票の再集計などになって投開票日には結果が出ない可能性があり、場合によっては1月になっても大統領が決まらないといった事態もあり得ると指摘します。
渡辺教授
「僅差で勝負がついたとしても負けた方は納得がいかないと思う。きっ抗した選挙の結果、どちらが大統領になっても、対立構造は続いていくと思う」
大激戦の先に何が待ち受けているのか。
いよいよ目が離せない状況が続きそうです。
ITプロ海外・機動展開プロジェクト記者
濱本 こずえ
2009年入局 函館局、大阪局、国際部などを経て現所属
関心分野は、アメリカ、中国、ITテクノロジー
機動展開プロジェクト記者
齋藤 直哉
2010年入局 岡山局・福岡局などを経て2024年から現所属
ソーシャルデータの分析などデジタルツールを活用した取材に取り組む
機動展開プロジェクト記者
井上 直樹
2021年入局 熊本日日新聞、西日本新聞、グーグルなどでデジタル技術を使った調査報道やメディアが連携するプロジェクトの企画・運営に携わる 』