マスク氏「規制なき世界」へ賭け トランプ氏を全力支援
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『2024年10月25日 5:00 [会員限定記事]
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小野亮さんの投稿
小野亮
マスク氏㊨は規制緩和の実現へトランプ氏の勝利に賭けている(5日、ペンシルベニア州)=ロイター
【シリコンバレー=山田遼太郎】米起業家のイーロン・マスク氏が11月の米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領を全力で後押ししている。トランプ氏とタッグを組むことで大幅な規制緩和を進めるのが狙いで、政権入りも視野に入れる。テスラや宇宙開発のスペースXを率いる富豪の影響力が高まれば、米国の競争政策が修正を迫られる可能性もある。
「トランプ氏が負けたら終わり」
「これは米国と西洋文明の運命を決める選挙だ」。マスク氏は17日、激戦州の一つ東部ペンシルベニアで語った。有権者登録を急ぐよう聴衆に呼びかけると、締め切りの21日まで同州に張り付いて連日、住民の質問に答える対話集会を開いた。
企業経営者が自ら遊説して回るだけでも異例だ。さらに、設立したスーパーPAC(政治活動委員会)を通じ、言論の自由と銃所持の権利への支持を表明した激戦州の有権者を毎日無作為に1人選び、100万ドル(約1億5000万円)を配ると発表した。
票の買収とも映り、米司法省はさっそく連邦法に違反している可能性があると警告した。マスク氏としてみれば、そうした騒ぎになることは承知のうえで話題づくりを優先したとも受け取れる。マスク氏はこのスーパーPACに7?9月の3カ月で7500万ドルを献金している。
2022年に買収したX(旧ツイッター)でも2億人のフォロワーに向け、トランプ氏支持と民主党批判の投稿を絶え間なく続ける。
自身の資金力、知名度をフル活用し、トランプ氏の勝利に賭けている。「彼(トランプ氏)が負けたら私は終わりだ」と話すほどだ。
電気自動車(EV)大手のテスラを最高経営責任者(CEO)として率いるマスク氏はEVに有利な環境政策を掲げる民主党に献金もしてきた。20年までオバマ、クリントン、バイデンと3回続けて民主党の大統領候補を支持したと明かしている。
今回は一転し、7月の銃撃事件直後にトランプ氏への支持を公言した。
「米国は縛り付けられた巨人」
転換の背景には、新型コロナウイルス禍での民主党主導の外出制限や事業への規制に不満を強めたことがある。自身の子の一人が出生時の性別と異なる性自認を持つトランスジェンダーで、マスク氏との関係が悪化したことが、性的少数者の権利を擁護するリベラル派への嫌悪につながったとの見方もある。
マスク氏自身は、トランプ氏を支援する大きな理由は規制緩和だと説明する。「米国は無数の小さな糸で縛り付けられた巨人だ。トランプ氏なら束縛を断ち切ることができる」と集会で強調した。
航空当局が海洋生物への影響に懸念を示し、スペースXのロケット打ち上げが遅れた例を挙げ、規制が増えれば「人類の火星到達は不可能になる」と主張した。マスク氏は企業活動や新技術の開発を後押しする「賢明な規制」が必要だと訴える。
自身の発案で政権入りする構想も浮上する。トランプ氏はマスク氏を「政府効率化委員会」のトップに据えると表明した。実現すれば政府支出を削減する過程で、当局の権限を減らし、規制緩和を進めるとの見方がある。
ルールづくりへの関与を通じ、自らに利益誘導を図るのではないかという懸念は拭えない。恩恵を受ける筆頭がスペースXだ。政府との取引が多く、ロケット打ち上げ頻度の増加や、衛星通信「スターリンク」の受注につなげられる。
マスク氏と同氏が率いる企業は当局の監督を受ける立場だ。テスラは自社EVの運転支援機能の事故などで政府の調査を受ける。自動運転の展開にも州や連邦当局の承認が必要だ。およそ6兆円を投じたXの買収を巡っても米証券取引委員会(SEC)が調べている。
マスク氏が当局の予算などに影響力を持てば、同氏や各社への監視が緩みかねない。経営者は政権入りに際して企業の役職を引くのが通例だが、マスク氏は兼務する意向を示している。
「能力主義」に引き寄せられる白人男性
マスク氏は自らの信条を「メリトクラシー(meritocracy)」という言葉で表現する。能力主義などと訳されることが多い。個人の能力や努力に報いる社会という意味にもなるが、エリートによる支配の肯定にもつながりかねない。
マスク氏はペンシルベニアの遊説でも「才能と勤勉さのみで人々の成功が決まるべきだ」と力説した。政府部門にもこの発想を持ち込み、結果が出ない職員は解雇するという。不法移民がバイデン政権下で厚遇されているとの批判や、DEI(多様性、公平性、包摂性)に基づく人材登用への反感もこの文脈に通じる。
マスク氏の考えには、リベラル派に権利を奪われたと感じる白人男性らが共鳴している。同氏はトランプ氏の敗北が米国の民主主義を脅かすと聴衆をあおる。資産35兆円強と世界首位の富豪であるマスク氏と不法移民や少数派擁護に不満を抱く層の一見すると奇妙な結びつきが、最終盤を迎えた選挙戦を揺さぶっている。
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小野亮
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル
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別の視点イーロン・マスク氏に関するこうした記事を読むたびに、アイン・ランドが書いた小説「肩をすくめるアトラス」に出てくる鉄鋼王、ハンク・リアーデンを思い出す。「肩をすくめるアトラス」は、成功した産業家をターゲットにした様々な規制が制定されていく社会の末路を描いた小説。格差是正や包摂的社会の構築の重要性は増すばかりだが、先端技術の推進や個人の自由、市場の力を尊重する姿勢とのバランスも必要だと感じさせる一冊だ。
2024年10月25日 7:53
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