ノーベル物理学賞、広がる受賞分野 AIや計算科学も
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『2024年10月8日 21:01 [会員限定記事]
2021年のノーベル物理学賞受賞者の真鍋淑郎氏㊧と、ジェフリー・ヒントン氏=田中克佳撮影
2024年のノーベル物理学賞を「人工知能(AI)研究のゴッドファーザー」と呼ばれるトロント大学(カナダ)のジェフリー・ヒントン名誉教授らが受賞することが決まった。AIによって人類の「知の探求」が加速する時代を象徴する動きだ。100年以上の伝統を持つノーベル賞の受賞分野を広げようとする選考委員会の変化を感じさせる。
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8日の記者会見で選考委は共同受賞するヒントン氏と米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド氏について「2人が貢献したAIの技術革新と発展は、他の物理学の大きな推進力となっている」とたたえた。具体例として物質に質量をもたらす「ヒッグス粒子」の発見や重力波の検出、ブラックホール観測などの成果を挙げた。
ノーベル物理学賞はこれまで物質の性質を追究する物性や、極微の世界で起こる物理現象を説明する量子力学と素粒子物理学、宇宙論の分野が受賞の対象になってきた。選考委が物理学研究におけるAIの貢献を強調したのは、AI研究が物理学賞の受賞テーマとなることに説明が必要だと意識したためとみられる。
ただ、ノーベル物理学賞の受賞対象が広がる兆しは3年前にもあった。21年の受賞者であるプリンストン大の真鍋淑郎氏らが選ばれた際にも、科学界では「サプライズ」と受け止められた。同氏が先鞭(せんべん)をつけた計算機を使って気候変動をシミュレーション(模擬実験)する「気候モデル」は、物理学賞の対象外とみられていたからだ。
ノーベル賞の科学分野は物理学賞と生理学・医学賞、化学賞の3つしかないが、科学研究のフロンティアでは複数の学問の融合や連携が活発だ。アルフレッド・ノーベルは「人類に最も大きく貢献した科学者に贈る」という遺言を残した。真に革新的な研究をたたえる賞であり続けるために、ノーベル賞は変化を模索しているのだろう。
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