ノーベル平和賞に日本被団協 「核なき世界実現へ努力」

ノーベル平和賞に日本被団協 「核なき世界実現へ努力」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB07B700X01C24A0000000/

『2024年10月11日 18:04 (2024年10月11日 23:14更新)

think!
多様な観点からニュースを考える
鶴岡路人さん他3名の投稿
鶴岡路人村上芽福井健策

【ロンドン=湯前宗太郎】ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、2024年のノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与すると発表した。日本被団協は広島と長崎の被爆者の全国組織で、原爆投下の11年後の1956年に結成された。核兵器の非人道性を訴える草の根運動が評価された。

【関連記事】日本被団協とはどんな団体? 56年に長崎で結成

日本の平和賞受賞は1974年の佐藤栄作元首相以来、50年ぶり。佐藤元首相は非核三原則の宣言や核拡散防止条約(NPT)に署名したことなどが評価された。

ノーベル賞委員会のフリードネス委員長は日本被団協への授賞理由として「核兵器のない世界を実現するための努力」と「核兵器が二度と使われてはならないことを目撃証言を通じて示してきたこと」を挙げた。

日本被団協は約70年にわたり、核兵器の廃絶を世界に訴えてきた。被爆体験の証言や原爆の写真展の開催など世界各地で地道な活動を継続。核兵器の開発や保有などを法的に禁止する核兵器禁止条約の交渉では、日本被団協が中心となり約300万人分の署名を集めて採択を後押しした。

被団協のノーベル平和賞受賞が決まり、取材に応じる被爆者の川野浩一さん(11日午後、長崎市)=共同

核兵器禁止条約は2021年1月に発効した。フリードネス氏は、被爆者の地道な努力によって核兵器の使用は道徳的に許されないとする「核のタブー」という国際規範が醸成されたと指摘した。「全ての被爆者に敬意を表したい」と語った。

授賞発表を受け、日本被団協の箕牧智之代表委員は「引き続き核兵器廃絶、恒久平和の実現を世界の皆さんに訴えていきたい」と話した。「廃絶に一段と弾みがついた。口で訴えるだけでなく、大きな賞を頂くことで発言力も一段と上がる」とも強調した。

09年には「核兵器なき世界」を掲げた米国のオバマ元大統領も平和賞を受賞した。ノーベル賞委員会は17年にも非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に平和賞を授与するなど核廃絶・核軍縮の運動を後押ししてきた。

ただ、22年2月のロシアのウクライナ侵略以降、ロシアは核の威嚇を繰り返している。中国は核戦力を強化し、北朝鮮も核開発の手を緩めていない。足元では事実上の核保有国であるイスラエルと核開発を継続するイランとの対立が深刻化する。

核軍縮を目指す国際的な取り組みも停滞している。22年8月には15年に続き、NPT再検討会議が最終文書を採択できずに決裂した。

フリードネス氏は「核兵器使用に対するタブーが圧力にさらされていることは憂慮すべきことだ」と警鐘を鳴らした。

授賞式は12月10日にオスロで開く。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億6000万円)。24年の平和賞候補には197人と89団体の推薦があった。

2024年ノーベル平和賞は日本被団協の受賞が決まった=ノーベル平和賞の公式X(旧ツイッター)の投稿から

【関連記事】

・被爆地「世界情勢に警鐘」 日本被団協にノーベル平和賞
・核兵器の脅威訴え続けた70年 被爆実相に光当てる平和賞
・「平和へ大きな力」機運に期待 被爆者、核廃絶誓い新た
・被爆地「世界情勢に警鐘」 日本被団協にノーベル平和賞

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

鶴岡路人のアバター
鶴岡路人
慶應義塾大学総合政策学部 准教授
コメントメニュー

分析・考察 まずは日本被団協のノーベル平和賞の受賞、おめでとうございます。核軍縮・核廃絶の機運が世界で停滞するなかで、特に意義がある。ただ、この記事でも一部触れられているように、ノーベル委員会が強調する授与理由が注目される。核兵器使用時の惨状を見せつけることで、「核使用のタブー化(nuclear taboo)」という国際的規範の成立に貢献した、この規範の土台が揺らぐなかで、いまそれを強調する必要があるという論理だ。核廃絶や核軍縮とは若干違う観点であることは興味深い。その意味でノーベル委員会は現実主義的で、核兵器を「なくす」よりも「使わせない」ことがより喫緊の課題だという見方が示されたといえる。
2024年10月11日 19:08
いいね
188

村上芽のアバター
村上芽
日本総合研究所創発戦略センター チーフスペシャリスト
コメントメニュー

ひとこと解説 平和賞の候補には、公的な機関や政治家、民間では教育機関なども含め、かなり多様な団体や個人があがります。その中で、1956年の設立から現在に続く被団協の活動に、今年という年にスポットライトが当たったこと、ノーベル賞委員会もやるなあ、とまず感じました。一方、被団協の活動をよく知っている人がどれだけいるか、自分も含め、これを機会に増えるであろう報道を通じて学び直す義務があると感じました。
2024年10月11日 18:46
いいね
208

福井健策のアバター
福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
コメントメニュー

分析・考察 今夏は、とても久しぶりに長崎の原爆資料館を訪れました。さまざまな国の人々が、熱心に展示に見入っていました。
各地の戦争が拡大を続け、そこで指導者たちによって核の使用や原発への攻撃が当たり前のように脅しの手段にされた年。この出口も希望もない核のチキンレースが加速した年に、68年間、営々と核兵器の悲惨さを世界で訴え続けた被団協の皆さんが受賞されたこと。皆さんが仰るとおり、これはゴールではなく、スタートですね。
心から、おめでとうございます。
2024年10月11日 19:14 (2024年10月11日 21:31更新)
いいね
133

小玉祥司のアバター
小玉祥司
日本経済新聞社 編集委員
コメントメニュー

別の視点 ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用条件の変更を提案して核兵器の使用を示唆し、イスラエルの閣僚が核兵器使用に言及する今だからこそ、被団協へのノーベル平和賞は意義がある授与だと思います。50年前の佐藤栄作首相への平和賞が非核三原則が対象だったことと併せて、日本の立ち位置を考える機会になるのではないでしょうか。
2024年10月11日 19:09 』