ノーベル化学賞にGoogle研究者ら たんぱく質解析用AI

ノーベル化学賞にGoogle研究者ら たんぱく質解析用AI
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『2024年10月9日 18:54 (2024年10月9日 21:23更新) [会員限定記事]

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石原純青木慎一

2024年ノーベル化学賞の受賞者(ノーベル財団の配信動画から)

スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2024年のノーベル化学賞を米グーグルの人工知能(AI)開発部門、グーグルディープマインドのデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏、米ワシントン大学のデービッド・ベーカー教授の英米3氏に授与すると発表した。たんぱく質の立体構造の高精度な予測や新たなたんぱく質を人工的に設計できるAI技術を開発し、生命科学の研究や創薬に革新をもたらした功績が評価された。

授賞理由はハサビス氏とジャンパー氏が「たんぱく質の構造予測」、ベーカー氏が「コンピューターによるたんぱく質の設計」。ハサビス氏は囲碁AI「アルファ碁」で有名になった旧ディープマインドの共同創業者で、現在はグーグルディープマインドの最高経営責任者(CEO)を務める。

8日発表のノーベル物理学賞に続き、AI技術が現代の科学研究に与える影響の大きさを象徴する節目となる。ハサビス氏とジャンパー氏はたんぱく質の立体構造を予測するAI「アルファフォールド」の開発を主導した。

人をはじめ生物の体では様々なたんぱく質が働き、あらゆる生命活動を支えている。たんぱく質の構造解析は生物学に欠かせない基礎研究であり、病気の仕組みの解明や治療法の開発といった医学の面でも重要だ。多くの薬は病気に関わるたんぱく質に結合して作用し、薬とたんぱく質の構造は鍵と鍵穴の関係にも例えられる。

たんぱく質はアミノ酸が鎖状に数十?数百個つながったもので、鎖が立体的に折り畳んだ構造をしている。アルファフォールドはアミノ酸の配列から、立体構造を高精度に予測する。ディープマインドは18年に初代のアルファフォールドを発表し、20年に登場した改良版「アルファフォールド2」の圧倒的な性能で科学界を驚かせた。

21年にアルファフォールドを無償公開すると世界で急速に利用が広がり、今や大学や企業の研究者にとって不可欠なツールとなった。従来、たんぱく質の複雑な構造をX線や電子顕微鏡を使って調べる実験は多くの時間と手間がかかり、費用もかさんだ。これまで研究者が構造を解明できたたんぱく質は約23万種類にとどまっていた。

アルファフォールドが突破口となり、構造を解明できた事例も増えている。さらにディープマインドは22年、2億種類以上のたんぱく質の構造予測データを公開した。研究者は膨大な予測データを手がかりにして研究を効率的に進めることができ、がんの治療薬候補を見つけた企業も出てきた。

ベーカー氏は新たなたんぱく質を人工的に設計する研究の第一人者だ。医薬品などに役立つたんぱく質を生み出すことを目指し、狙った構造や機能のたんぱく質になるアミノ酸配列を設計できる「ロゼッタフォールド」などのAI技術を開発してきた。

ハサビス氏らは米国で最も権威ある医学賞であるラスカー賞や科学界のアカデミー賞といわれる米ブレークスルー賞、カナダのガードナー国際賞を相次いで受賞し、ノーベル賞でも有力候補と目されていた。

授賞式は12月10日にストックホルムで開く。賞金の1100万スウェーデンクローナ(約1億6000万円)は半分をベーカー氏、もう半分をハサビス氏とジャンパー氏で分け合う。

Demis Hassabis 1976年英ロンドン生まれ。英ケンブリッジ大学でコンピューター科学を学び、2009年に英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンにて博士号を取得した。10年にディープマインド(現グーグルディープマインド)を共同創業。グーグルディープマインドの最高経営責任者(CEO)を務める

John M. Jumper 1985年米アーカンソー州リトルロック生まれ。2007年、米バンダービルト大学で理学の学士号を取得。英ケンブリッジ大学や企業を経て、17年に米シカゴ大学で理論化学の博士号を取得した。18年からディープマインド(現グーグルディープマインド)で勤務

David Baker 1962年米ワシントン州シアトル生まれ。米ハーバード大学を経て、89年に米カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得した。現在は米ワシントン大学の教授で、同大たんぱく質設計研究所の所長。複数のバイオスタートアップの設立にも携わる

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石原純
インペリアルカレッジロンドン 講師
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ひとこと解説 David Baker 教授は、僕がうちの大学にセミナーで呼びました。(Youtubeに上がっています。僕もタンパク質工学を研究しています。)
その時も、ノーベル賞はいつかは取るだろうと思いましたが、こんなに早くとるとは思いませんでした。コンピュータ上でできる強力な創薬ツールが開発されたので、実際に韓国政府と一緒にコロナに対する薬も生まれています。
心からおめでとうございます。
2024年10月9日 20:33 (2024年10月9日 20:34更新)
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青木慎一
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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ひとこと解説2日続けてのAI研究の受賞は驚きました。まさに変革を告げる受賞といえるでしょう。
 ただ、前日の物理学賞と比べ、化学賞は順当な顔ぶれです。たんぱく質の構造を予測するAIは近い将来に受賞するだろうとみられていました。
 ハサビス氏は世界トップの棋士を相次いで倒した囲碁AI「アルファ碁」の開発者でもあります。チェスの元世界王者で、ゲーム開発を手がけた後、大学院に入り直して脳科学と計算機の博士号を取得しました。複数の専門知識と興味があったからこそ、独創的な成果を出せたのでしょう。ひとつの道を究める日本的な思考とは反対側にいる人です。創造性を生む教育とは何か。日本は同氏の経歴に学ぶ点が多いはずです。
2024年10月9日 19:39 (2024年10月9日 19:44更新)
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