嫉妬論~民主社会に渦巻く情念を解剖する~

嫉妬論~民主社会に渦巻く情念を解剖する~ (光文社新書) Kindle版
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『嫉妬感情にまつわる物語には事欠かない。古典から現代劇まで、あるいは子どものおとぎ話から落語まで、この感情は人間のおろかさと不合理を演出し、物語に一筋縄ではいかない深みを与えることで、登場人物にとっても思わぬ方向へと彼らを誘う。それにしても、私たちはなぜこうも嫉妬に狂うのだろう。この情念は嫉妬の相手のみならず、嫉妬者自身をも破滅させるというのに――。(「プロローグ」より)政治思想の観点から考察。』
『著者について

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山本 圭
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山本 圭

山本圭(やまもと・けい)

1981年,京都府生まれ。立命館大学法学部准教授.名古屋大学大学院国際言語文化研究科単位取得退学,博士(学術).岡山大学大学院教育学研究科専任講師などを経て,現職.専攻は,現代政治理論,民主主義論.

◉著書『不審者のデモクラシー―ラクラウの政治思想』(岩波書店,2016年) 『アンタゴニズムス―ポピュリズム〈以後〉の民主主義』(共和国,2020年)

◉共編著『ポスト代表制の政治学』(ナカニシヤ出版,2015年) 『〈つながり〉の現代思想』(明石書店,2018年) 『政治において正しいとはどういうことか』(勁草書房,2019年) 『共生社会の再構築II』(法律文化社,2019年)

◉訳書『現代革命の新たな考察』(エルネスト・ラクラウ著,法政大学出版局,2014年) 『ラカニアン・レフト』(ヤニス・スタヴラカキス著,岩波書店,2017年,共訳) 『左派ポピュリズムのために』(シャンタル・ムフ著,明石書店,2019年,共訳)、ほか。』

『OhTakkeyT
5つ星のうち5.0 世の中、昔からこの感情に悩まされていた。
2024年4月3日に日本でレビュー済み

自分が嫉妬している思いは人には決して知られたくないのと同時に、自分でも認めたくない好意。
この厄介な感情を掘り下げた一冊。嫉妬に狂う時、自分はおかしいのではないかと思うが、意外と普通なんだなと安心できた。人の嫉妬心をうまく利用しようとする現代社会に対して、ちょっと利用されてるなと、俯瞰的に見ることが重要だと感じた。目の前しか見えなくなった時、また読み返したい一冊。

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Inoo Tanaka / 田中猪夫
5つ星のうち4.0 著者の深い教養を感じさせる1冊!
2024年2月27日に日本でレビュー済み
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本書は嫉妬についてを、思想史から、個人から、政治から、社会から考察している。筆者の専門が現代政治理論であるため、個人の嫉妬を政治や社会に広めて考察してい点が面白い。

 嫉妬は疲れを知らない。キリスト教の「7つの大罪」の「憤怒」「大食」はある程度発散すると落ち着くものだが、嫉妬だけは違う。ほどほどの嫉妬で晴れることはない。旧約聖書のカインとアベルの物語は「暴力のはじまり」ではなく「嫉妬のはじまり」とも言える。さらに、SNS時代は嫉妬を助長する「休暇嫉妬」という言葉まで生んだ。そのためスイスの観光地ベルギューンでは写真撮影を禁止したのだ。

 嫉妬論の世界では、良性嫉妬と悪性嫉妬の2つの嫉妬がある。良性嫉妬は隣人へ敵対的な感情をもつことなく、優れた隣人への賞賛や憧れを表す、悪性嫉妬は隣人への敵意をもった感情で、これに支配されると嫉妬者は相手の破滅を望み、自分自身もその感情に苦しみ、破滅するさえある。

 嫉妬に特徴的なことは、他人がもっているものを自分がもっていないという状況に苦しみ、他人がそれを失うことを切望することだ。自分をより高みに引き上げるのではなく、他人の足を引っ張ることで溜飲(りゅういん)を下げる。

 カントは嫉妬を次のように定義した。

「他人の幸福が自分の幸福を少しも損なうわけではないのに、他人の幸福をみるのに苦痛を伴うという性癖」

 嫉妬の対象となるのは、自分と関係のない無縁の誰かではなく、何らかの観点から嫉妬者に近しい人物だ。自分よりほんの少し待遇がよい人を妬む。給与で言うと、15%程度という差が嫉妬を生むという調査結果もある。

 さらに「下方嫉妬」という存在がある。通常嫉妬感情は自分より優れた人に向けられるが、生活保護受給者に対するスティグマ(偏見、差別)のような下方嫉妬感情もあるのだ。

 自分が感じる満足の絶対量ではなく、他人と比較することで生じる不満や欠乏感のことを、社会学や社会心理学では「相対的剥奪」と呼ぶ。それは「マタイによる福音書」の「ぶどう園の労働者」で示されている。
 ぶどう園の主人は、9時から働く労働者、労働力が足らないので12時、15時、17時と、それぞれ1デナリオンで労働者を雇った。それは労働契約であったにも関わらず、9時から働いた労働者は労働時間の違いから給与に不満を抱いた。

 「相対的剥奪」を感じるには次の条件が満たされる必要がある。(このことは動物行動学者であるドゥ・ヴァールのオマキザルの実験が有名)

1)Aは、あるものXを所有していない
2)Aは、Xを所有している他の人物Bを見る
3)Aは、Xを所有したいと思っている
4)Aは、Xをもつ可能性が自分にもあったと思っている

 ジェラシーと嫉妬は違う。ジェラシーが防御的であるとすれば、嫉妬は攻撃的だ。社会学者のは、嫉妬に「獲得」、ジェラシーには「保持」を対応させ、獲得が問題とされるならば嫉妬、保持が問題であるならばジェラシーと分類できるとしている。

 アメリカの人類学者ジョージ・フォスターによると、嫉妬を防ぐには次の4つの方法があるという。

1)隠匿:妬みの対象になるものを隠す
2)否認:他者からの称賛やお世辞に対し謙遜するなど
3)賄賂:旅行先で購入するお土産やレストランのチップ
4)共有:自らの財や幸福をシェアする

 また、嫉妬が社会に活かされた例として、嫉妬は制度との相性がよく、累進課税制度や相続税は公正な制度という意味で、人々の嫉妬心からその正当性を担保していると言える。
 嫉妬のエネルギーは社会を堕落させる方向に働くだけでなく、不正を告発したり、不平等を正したり、世直しのエネルギーとして発散されることもある。さらに、嫉妬は政治的に中立的で、それは保守政治や自由主義に向くこともあれば、社会主義の政府に向くこともある。

 社会的な嫉妬の論考として、嫉妬に免疫のある社会とは、多元的な価値に寛容な社会もその一つだとしている。価値観が一元化してしまうと、人々のあいだの差異や優劣が可視化されてしまう。そうすると、誰が誰より優れているかの序列が明確になってしまい、社会は嫉妬で満ちてしまう。たとえばSNSのフォロワー数には、そうした一元化する作用が含まれている。

 個人的な自由、経済的な自由の双方を重視するリバタリアニズムの思想家であるロバート・ノージックは次のように言う。

「社会が自尊心の格差を回避するもっとも見込みのある方法は、諸次元の共通のウェイトづけをもたないことであり、その場合その社会は、さまざまな次元とウェイトづけの多様に異なったいくつものリストをもつことになるだろう。」

 個人的な嫉妬を防ぐ方法として、哲学者の三木清は「物を作れ」という。物を作ることで自信が生まれ、それが個性になるというのだ。作品作りに没頭すれば、他人との距離が生まれ、おのずと比較から遠ざかることになるだろう。創作を通じて培われた詩人や個性は卑屈さを癒やし、個人的な満足をもたらすこともあるだろう。これは嫉妬の母である比較を拒絶し、おのれの特異性に到達する道である。しかし、モーツァルトの作品に魅了され、妬みに狂ったのは同じ作曲家のサリエリであったように、作品作りへの没頭は嫉妬に一時的な解決をもたらすだけで、それを終わらせるものではなさそうだ。

 嫉妬についてを、社会と個人について非常にコンパクトにまとめてあり、会社経営からマネジメント、あるいは商品開発から販売マーケティングに役立つ貴重なコンテンツに仕立て上げてある。著者の深い教養を感じさせる1冊だ。

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ブント
5つ星のうち4.0 平等は人間をしあわせにするか
2024年4月29日に日本でレビュー済み

最初は退屈だった。古今東西の哲学者の嫉妬に関する論述を並べるだけにみえた。しかし近代になり、平等を保証するかのような民主主義国家でむしろ市民どおしの妬み合い、足の引っ張りあいが激化するのに触れてから、嫉妬が社会構造の中でとらえられて、問題の重要さが際立ってきた。筆者は答えを与えてはくれない。質問は読者に投げかけられている。
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FAT
5つ星のうち4.0 平等思想と嫉妬は、コインの裏表
2024年2月26日に日本でレビュー済み
市民と市民の間の対立があおられ、熟議が成立しなくなっている現在の「民主主義国家」「民主主義自治体」において、その原因の一つとして「嫉妬」を直視しなければならないと論じらている。他方で、その「嫉妬」が実効的な平等化、所得再分化の施策に繋がらないということの遠因についても論じられている。
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桜を見る会司会者
5つ星のうち1.0 なんか読みづらい
2024年5月27日に日本でレビュー済み
82までは、よくある嫉妬についてのまとめ。斜め読み可能。次は一気に読みづらい哲学者のまとめ。ここで読む気がうせて、購入には至らなかった。言葉のチョイスも偏差値65以上向け。『終焉せる幸運』

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