仏2回投票制、極右台頭阻む 有権者に忌避感「差別公然」

仏2回投票制、極右台頭阻む 有権者に忌避感「差別公然」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR0805F0Y4A700C2000000/

『2024年7月8日 20:10

【パリ=北松円香、渡辺夏奈】7日に投開票されたフランスの国民議会(下院、定数577)決選投票では当初予想から一転し、極右政党の国民連合(RN)が第3勢力に沈んだ。多数派の強い忌避感と、フランス独自の2段階投票制が台頭を阻んだ形だ。

「移民を排除する極右には反対だ。阻止するため、好きではないが与党連合に投票した」。パリのビジネスマン、ラシドさん(40)は話した。

映画監督の女性(21)は「極右は人…

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『映画監督の女性(21)は「極右は人種差別を公然と口にする。経済政策は一見魅力的だが、許してはいけない」と批判した。RNは反ユダヤ主義を掲げた国民戦線(FN)が前身だ。ルペン氏ら指導部はイメージ改善を図るが「思想は変わっていない。標的がイスラム教徒になっただけだ」と語った。

6月30日の1回目投票で首位となったRNは今回、獲得議席数で左派連合の新人民戦線(NFP)、マクロン大統領率いる中道の与党連合のいずれにも及ばず第3勢力にとどまった。

一時は過半数をうかがい、首相輩出の可能性があるとみられたRNの失速の背景には、下院選で採用される2段階投票がある。1回目で過半数を確保した候補がいない場合、上位候補に絞り込んで決選投票が行われる。いわば民意を凝縮する仕組みだ。

第1回の投票後、マクロン氏は「民主主義勢力が団結するときだ」と強調し、対極右で左派連合と協力する方針を示した。両勢力は200以上の選挙区で候補者を一本化し「極右対その他」の構図を作った。

有権者も呼びかけに応じた。投票率は66.6%と、第1回投票に続き歴史的な水準となった。RNには固定支持者が多く、投票率の上昇は不利に働きやすい。

もっとも、マクロン氏の与党連合も得票を伸ばせず、第2勢力にとどまった。極右の台頭を危惧する有権者の票はNFP(182議席)に流れた格好だ。

有権者の間には政府がインフレで生活が苦しくなる国民に寄り添ってこなかったとの不満がある。2023年に実施した年金改革も反発を招いた。年金の受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げ、各地で抗議デモが起きた。

左派連合と極右はいずれも改革の見直しを公約に掲げる。NFPは最低賃金の引き上げなども打ち出し、庶民に寄り添う姿勢を強調した。

会社員の女性(59)は「生活費はどんどん高くなっている。(労働力としての)移民は問題の解決につながらない」とマクロン氏を批判した。

第3勢力にとどまったRNの議席数は143と、解散前(88議席)からは大きく伸びた。パリ在住のジェラルドさん(74)は極右に投票した。「エリート層は人々の声に耳を傾けてこなかった」と現政権を批判し、極右の支持拡大に理解を示す。

政治学者のジェローム・フーケ氏はこの20年、産院や裁判所、中央銀行の支店などの集約化と歩調を合わせるように地方で極右の支持が伸びたと指摘する。日常的に使う公共サービスではなくても、拠点が消えた町では国から見放された喪失感が強まるという。

「極右か反極右か」が争点になった選挙後の社会の分断が深まる可能性もある。決選投票後にはパリなどで一部の有権者が暴動を起こし、多くの警官が出動して抑え込む事態になった。』