米大統領選討論会 バイデン氏苦戦、強まる高齢不安

米大統領選討論会 バイデン氏苦戦、強まる高齢不安
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『2024年6月28日 20:13 (2024年6月28日 22:30更新)

【ワシントン=坂口幸裕】27日に開かれた米大統領選テレビ討論会の第1回は民主党のバイデン大統領が不明瞭な発言を繰り返し苦戦した。有権者からの高齢不安が一段と強まる可能性がある。共和党のトランプ前大統領は持論を展開した。超大国の将来を見すえた議論は深まらない。

開始から10分ほどたった時だった。「我々はついにメディケア(高齢者向け公的医療保険)を破壊する」。バイデン氏は医療制度を拡充したと誇示する…

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『バイデン氏は医療制度を拡充したと誇示するときに数秒言葉をつまらせ、言い間違えた。

すかさずトランプ氏は「彼は正しい。メディケアを破壊しようとしている」と責め立てた。不法移民を念頭に米国に「数百万、数千万の人が入ってきて社会保障を壊すだろう」との主張を展開した。

バイデン氏は序盤から声がかすれ、精彩を欠いた。CNNが討論直後に発表した世論調査によると、共和党のトランプ氏が勝利したとの回答は67%、バイデン氏は33%だった。

2期目を全うすれば86歳になるバイデン氏の年齢に焦点が当たった。司会者が世界でもっとも過酷な仕事に耐えられるかとただした。

バイデン氏は自身が連邦議会の上院議員に初当選した当時に触れ「当選したのは史上2番目の若さだったが、今は私が最年長だ」と直接答えず、雇用増などの実績に話題を変えた。

トランプ氏は自ら認知機能のテストを受けたと明かし「(バイデン氏も)受けてほしい。あなたは(クリア)できない」と断じた。78歳のトランプ氏は攻める姿勢を崩さなかった。

米大統領は世界最強の軍事力を持つ米軍の最高司令官で、戦争の遂行や核兵器を使う最終判断を下す立場にある。かねて失言や記憶違いを繰り返してきたバイデン氏の認知力に改めて懸念が広がる可能性がある。

ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢も議題になった。バイデン氏は「ロシア侵略の影響は、ウクライナにとどまらない」と訴えた。日本や韓国を含む世界の50カ国がウクライナ支援を支持したと説明した。

トランプ氏は「プーチン(ロシア大統領)に尊敬される大統領がいたなら、ウクライナ侵略はなかっただろう」と提起した。自身が在任中は侵攻がなかったと吹聴し、北大西洋条約機構(NATO)諸国に「もっと資金を拠出させるべきだ」と迫った。

バイデン氏は「これほど愚かな話は聞いたことがない。この男はNATOから脱退したがっている。我々の強みは同盟関係にある」と反論した。

27日の討論を踏まえ、米メディアは民主関係者の話として「バイデン氏を候補にすべきだと唱えるのは難しい」(CNN)などと相次ぎ報じた。民主内はパニックになっていると伝えている。

バイデン氏は討論後、記者団に「自分としてよくやったと思う」と語った。声がかすれていたことには「喉に痛みがある」と明らかにした。

次回の討論会は9月10日に予定されている。世論調査によると、勝敗のカギを握る激戦州で両候補の支持率は拮抗している。無党派の有権者の心証が少しでも変われば勝敗に影響する。

すれ違い90分 物価・移民互いに批判

米民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が対決した27日のテレビ討論会は互いに90分間批判し合う展開となった。互いに「嘘つき」「重罪人」と呼び合い、肝心の政策論争はかみ合わなかった。

「高インフレ」責任論も空回り

「インフレは我々の国を滅ぼす」。トランプ氏は討論会の冒頭からたたみかけた。世論調査によるとバイデン政権の経済政策、特にインフレへの対応は評価が低い。

消費者物価上昇率は2022年の9%から直近24年5月の3%台まで鈍ったものの、価格が下がるわけではない。消費者にとってスーパーに並ぶ食品は高値のままだ。

「政権を引き継いだときに経済はすでに崩壊していた」。バイデン氏は21年1月の新政権発足時を振り返ったが、トランプ氏は「(バイデン氏に)引き継いだ時に9%のインフレはなかった」と反論した。

バイデン氏が医薬品の価格低下など、これまで訴えてきた実績を繰り返した。米メディアにはインフレ対応で新たに発信するとの予測もあったが、肩すかしとなった。言葉に詰まる場面もあり、議論は序盤から空回りした。

司会の質問無視、「移民問題」で持論展開

トランプ氏はしばしば司会の質問を無視し、「攻撃材料」である不法移民問題を持ち出した。南部国境における不法入国の急増は23年後半から政治問題化した。共和支持者だけでなく民主支持者からも犯罪の増加などを懸念する声がある。

トランプ氏は「我々は歴史上もっとも安全な国境をつくっていた」と胸を張り、バイデン氏が国境を「開けっぱなし」にしたと糾弾した。

「南米や中東だけでなく、世界中のあらゆるところからテロリストがやってくる」と挑発的に話すトランプ氏に、バイデン氏は「裏付けるデータはない。大げさに、ウソをついている」と怒りをあらわにする場面もあった。

バイデン政権も国境警備強化に取り組み、上院で超党派法案の合意までこぎ着けた。トランプ氏が「いま合意すれば極左の民主党への贈り物になる」と反発したため、法案が成立しなかった経緯がある。

バイデン氏は6月、議会を通さず難民申請を大幅に制限する大統領令を出した。討論会で一連の経緯を取り上げたが、討論会のルールで発言の回数が制限されていることもあり、トランプ氏が法案成立を阻んだ責任を追及するまでには至らなかった。

有罪評決のトランプ氏「悪いことしていない」

バイデン氏はトランプ氏の大統領としての資質を問いただそうとした。21年1月の連邦議会議事堂の襲撃事件を巡りトランプ氏は「(議会襲撃事件当日の)1月6日には不法移民はいなかった。税負担も低かった」といきなり話をそらした。

司会者に改めて問われ「私は平和的に、愛国的に(抗議活動をしてほしい)と言ったのだ」と答え、自分は止めようとしたと主張した。バイデン氏はトランプ氏が襲撃を止める努力を何もしなかったと非難した。

トランプ氏は不倫口止め料を巡る裁判で受けた有罪評決について司会者から問われたが、バイデン氏の次男が銃を不法に購入・所持して有罪評決を受けたことに話を変えた。

トランプ氏はさらに「私は何も悪いことをしていない」「ポルノ女優と性的関係をもってなどいない」と否定した。一連の裁判は政治的に仕組まれたものだとの従来の主張を繰り返した。

(ワシントン=高見浩輔、八十島綾平)

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