ロシア軍も補充兵の供給に問題、契約軍人を募集するコストが跳ね上がる

ロシア軍も補充兵の供給に問題、契約軍人を募集するコストが跳ね上がる
https://grandfleet.info/russia-related/the-russian-military-is-also-having-trouble-supplying-replacement-troops-and-the-costs-of-recruiting-contract-soldiers-are-soaring/

『2024.06.29

ロシアはウクライナとの戦争に必要な人的資源を「不人気な予備役の強制動員」ではなく「契約軍人の募集」を通じて供給しているものの、当初のボーナス額で契約に応じるロシア人が居なくなり、契約軍人の募集にかかるコストは大幅に上昇している。

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ロシアの契約軍人募集にかかるコストが急速に上昇しており、今後も上昇する可能性が高い

ロシア軍の人員構成は契約軍人と義務的徴兵(年2回/1年半~2年)で招集された兵士で構成され、ウクライナ侵攻のような国外作戦に義務的徴兵で招集された兵士の動員は禁じられており、プーチン大統領は不足する侵攻戦力を補充するため2022年9月に部分的動員(義務的徴兵を終えた予備役30万人の強制動員)を実施したが、余りも不評だったため契約軍人の動員(直接契約に基づく義務的徴兵を終えた予備役の動員)に切り替えた。

出典:Минобороны России

ウクライナ侵攻作戦への参加を前提にした契約軍人の募集には「契約締結ボーナス」が設定され、2023年8月時点の地域ボーナス額は最高10万ルーブルだったが、人々を戦争に駆り立てるためボーナス額はどんどん増加され、タタールスタン共和国では5月末「共和国独自のボーナスを50.5万ルーブルまで引き上げる」「都市、地方自治体、企業からの支援金を加えるとボーナス額は70万ルーブルに達する」「これはロシア国防省が支給する一時金に加算される」と発表。

サマラ州も6月21日「州独自のボーナスを15万ルーブルから100万ルーブルに増額する」と発表、ロシアの動員状況=契約軍人の動向を監視しているウクライナ人(Evgeny Istrebin)も「ロシア人は戦争に行きたがらず、各地方の首長らは割り当てられた契約軍人の供給数を達成するため競うようにボーナスを増額している。そうでなければ首長らは深刻な問題に直面するからだ」と指摘。

国防省との契約を締結したロシア人に支払われるボーナス

地域 国防省ボーナス 地域ボーナス その他ボーナス 総額

クラスノダール地区 19.5万₽ 100.0万₽ 45.0万₽ 164.5万₽
トゥアプセ地区 19.5万₽ 100.0万₽ 30.0万₽ 149.5万₽
マイコープ地区 19.5万₽ 100.0万₽ 30.5万₽ 150.0万₽
カラチャ・チェルケスイ共和国 19.5万₽ 130.5万₽ – 150.0万₽
サンクトペテルブルク 19.5万₽ 70.0万₽ 40.5万₽ 130.0万₽
サラマ州 19.5万₽ 100.0万₽ – 119.5万₽
クラスノダール地方 19.5万₽ 100.0万₽ – 119.5万₽
ロストフ州 19.5万₽ 100.0万₽ – 119.5万₽
レニングラード州 19.5万₽ 50.5万₽ 40.0万₽ 110.0万₽
ニジニ・ノヴゴロド州 19.5万₽ 50.0万₽ 30.5万₽ 100.0万₽
カバルダ・バルカル共和国 19.5万₽ 80.5万₽ – 100.0万₽
ノリリスク 19.5万₽ 30.0万₽ 50.5万₽ 100.0万₽
モスクワ州 19.5万₽ 80.5万₽ – 100.0万₽
サハリン州 19.5万₽ 80.0万₽ – 99.5万₽

ウクライナ人が運営するDEEP STATEも「クラスノダール地方のボーナス額は164.5万ルーブル=約300万円だ」「少なくとも13の地域や州でボーナス額が100万ルーブル=約187万円を越えた」「一部地域ではボーナス額が10倍になった」「これらの数字はロシア軍の損失が安定したものであると示唆し、従来のアプローチで損失をカバーする契約軍人の供給が難しいこと、供給量を確保するのにボーナスを大幅に増やさなければならないことを物語っている」と報告した。

ロシアは政治的に不人気な強制動員ではなく契約を通じた契約軍人の動員、囚人動員、有罪判決が下される前の被告人動員、市民権を取得した移民、市民権を持たない不法移民、国外での違法な傭兵募集などで必要な人的資源を確保しており、メドヴェージェフ元大統領も昨年10月「1月1日から10月25日までに約38.5万人(契約軍人30.5万人+ストームZのような志願兵8万人)が軍に入隊した」「毎日1,600人以上が軍との契約に署名している」と明かしたことがある。

出典:Дмитрий Медведев

メドヴェージェフ元大統領が言及した数字が事実なら「契約軍人を月3万人ほど獲得している」という意味で、米当局者も「ロシアは月2.5万人~3万人の兵士を獲得している」と言及しており、ここから予想されるのは「契約軍人の募集コストが急速に跳ね上がっている」という点だろう。

更に興味深いのはロシア連邦国家統計庁(Rosstat)が発表した2023年の人口統計データで、Meduzaは28日「2022年と同様に若者の超過死亡者数が急増している」「2023年の超過死亡者数(男性)は2022年と比較してほぼ2倍になった」「2022年の超過死亡者数は推定2.4万人、2023年の超過死亡者数は推定4万人で、2年間の戦争で死亡した人数は推定6.4万人だ」「相続登録簿(RND)のデータに基づく人的損失の研究では2年間の戦争で6.6万人~8.8万人のロシア人男性が死亡したと推定され、その中間値は7.5万人だ」と言及した。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0

多少の誤差はあるもののRosstatとRNDの数値は似通っており、ロシア軍は2023年までの戦いで推定6.4万人~7.5万人の兵士を失っている可能性がある。この数値が絶対に正しいという訳では無いが、ロシア政府が公式に発表しているデータに基づいた推計なので「何の根拠もない数値」よりはマシなはずだ。

因みにゼレンスキー大統領は自軍の戦死者数について今年2月「3.1万人(死亡が確定した数字で行方不明で生死が判明していない兵士の数は含まれていない)」と言及したが、ロシア側が自軍の戦死者数に言及したのは2022年9月(5,937人)が最後で、これを更新できないのは「人的損害について何らかの問題がある」と見るべきだろう。

出典:Путь Домой 部分的動員で駆り出された兵士の復員を求めるロシア人

攻勢を続けるロシア軍の人的損失がウクライナ軍よりも少ないなら「月3万人もの兵士を動員し続ける理由」が不明で、もしロシア軍の人的損失がウクライナ軍よりも少なく、これだけの兵士を動員し続けていれば部分的動員で招集された兵士の復員を行う位の余裕があっても不思議ではない。

個人的には「ウクライナ軍もロシア軍も人的損害や人的供給の面で異なる問題を抱えている」と思っている。

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※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России
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投稿者: 航空万能論GF管理人 ロシア関連 コメント: 26  』