欧州議会選挙 フランスの右翼「国民連合」はなぜ第1党になったのか

欧州議会選挙 フランスの右翼「国民連合」はなぜ第1党になったのか
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『2024年06月24日

欧州統合派の目指す路線

 欧州議会選挙(6月)で極右が躍進し、フランスではマリーヌ・ルペン(ル・ペン)氏の国民連合(RN)が第一党になった(現党首はジョルダン・バルデラ)。

政権与党が軒並み不振だったなかで大躍進したのは、メローニ首相を出す「イタリアの同胞」(極右でファシストの系統)だけだった。

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 欧州連合(EU)はベルギーのブリュッセルに事務局があり、欧州議会はフランスのストラスブール、欧州裁判所はルクセンブルクと分散している。欧州中央銀行はドイツのフランクフルトでライン川沿いの仏独国境、カトリックとプロテスタントの境界に位置する。
 欧州議会は5年任期で、国ごとの比例代表。最低は6議席で、最大はドイツの96議席だ。
極右・環境派・左派を排除して、ドイツのCDUなど保守派の「欧州人民党(EPP)」、マクロン大統領与党など中道の「欧州刷新(Renew)」、ショルツ首相のドイツ社民党の「社会・民主主義進歩連盟(S&D)」の三者連合で主導権をとっている。

 彼ら欧州統合派のめざすのは、(1)欧州統合の深化と自由貿易、(2)NATOの重視とウクライナ支援や中国への警戒、(3)移民・難民への寛容と断固としたテロ対策、(4)財政規律の維持とそのための年金制度の改革、(5)地球環境問題への取り組み、(6)新型コロナワクチンの半強制的な接種、(7)LGBTや中絶に見られる穏健リベラルの社会・宗教観、などだ。逆に言うと、極右や左派はこのような路線に懐疑的なのである。

仏独の右派と左派
マリーヌ・ルペン

マリーヌ・ルペン氏の公式Instagram(@marine_lepen)より(他の写真を見る)

 政党を右派と左派という言い方で分類するのはフランスから始まった。

 フランス革命時の王党派と共和派の対立が起源だが、20世紀後半、フランスではドゴール派が右派、社会党と共産党が左派で、ほかに極右、中道派、極左が小勢力としてあり、のちに環境派も伸びた。

決選投票で決まる小選挙区二回投票制なので、極右は支持率が高くとも議席獲得は難しかった。

 ドイツではワイマール共和国時代の中道右派諸政党がキリスト教民主党(CDU)として糾合され、社民党が左派を代表した。

ナチスと共産党は禁止され、中間政党として自由民主党があった。

比例代表制だが、得票率5%未満は議席がとれないので小政党は存在感がなかった。

 また、欧州には右にも左にも大衆迎合のポピュリスト政党が多く、反エリート、反グローバリズムや反欧州統合、中小企業保護、反腐敗、直接民主主義、減税などを主張してきた。

フランスでは農民や商店主などによる暴動も盛んなため、社会的にも大目に見られていた。

 右派の場合は反移民が主要な主張になってきたが、多くの場合は二大政党を脅かすものではなかった。しかし、冷戦終了のころから状況が変わってきた。

 フランスでは1958年のドゴール復帰から、愛国主義のドゴール派(現共和党)と社共など左派の対立となり、ドゴールは国民投票を好んで不満のはけ口にしていたのだが、1970年代後半からドゴール派やそれと共闘する中道派(ジスカールデスタン大統領)の連合が欧州統合推進にまわり、やはり欧州統合推進派の社会党(ミッテラン大統領)と中道票を争ったので、政治地図の右側に空白ができた。』

『仏政治地図の空白に入った極右

 そこで台頭したのが、極右のジャン=マリー・ルペンが率いる国民戦線(FN。RNの前身)である。1989年の大統領選挙では約15%の得票率となり、やがて欧州議会にも進出した。

 大統領候補が娘のマリーヌ・ルペンに交替した2012年からは、「脱悪魔」という穏健化路線を推進して極右色を消した。EU離脱は言わなくなったし、NATO離脱もトーンダウンした。

 さらに、社会党内閣の閣僚ながら自由経済派であるマクロンが2016年に中道派結集の新政党(日本でいえば国民民主党と公明党と維新と自民党の宏池会、それに環境派を糾合したような党)を創り、2017年には大統領に当選、2022年には再選した。決選投票の相手はいずれもマリーヌ・ルペンだ。

 このため、右派の共和党も不振となり、左派では、社会党が弱体化し、共産党は消滅寸前で、ポピュリスト的な「不服従のフランス」が台頭した。

 今回の欧州議会選挙でRNは31%を獲得して30議席(7増)と、大統領与党13議席(10減)や社会党13議席(7増)、不服従のフランス9議席(3増)、共和党6議席(2減)を大きく引き離した。

 一方、ドイツでは、社民党がシュレーダー首相のときに保守化したので、2005年に社民党左派や旧東独与党から「左派党」が生まれた。

また、ユーロ導入と移民の増加をコール首相やメルケル首相が推進したのに反発して「ドイツのための選択肢(AfD)」が2013年に設立された。

 いずれも国会でも議席を獲得し、今回の欧州議会選挙ではCDU・CDSが30%で29議席(増減なし)、AfDは16%で15議席(4増)、社民党14議席(2減)、緑の党12議席(9減)、ポピュリストの極左新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」6議席、自民党5議席(増減なし)、左派党3議席(2減)、その他11議席だった。

 緑の党は、デアボック外相がウクライナ紛争で極端にタカ派色を出したのと、化石燃料を使う暖房設備の設置禁止など極端な政策が禍した。

EU統合がもたらした豊かさと暴走

マリーヌ・ルペン

マリーヌ・ルペン氏の公式Instagram(@marine_lepen)より(他の写真を見る)

 EUでは、シェンゲン協定による国境の開放が1995年から始まった。

統一通貨ユーロは1999年から会計通貨に、2002年からは同通貨の紙幣とコインも使用開始となり、各国は厳しい財政規律を求められた。

 結果、移動は自由だし、どこでも働けるようになった。物価は安くなり消費生活も改善された。

各国は愚かな支出ができなくなったが、政府に予算要求しても健全財政の壁を勝手に越えられなくなり、人々はブリュッセルの官僚たちに民主主義が乗っ取られたと感じた。

 統合は人々を豊かにしたが、理想主義が暴走して、かえってコスト無視になったり、安全が損なわれたりすることも多かった。

厳しすぎる環境規制はコスト上昇になる。食品安全規制のせいで伝統産品の製造が禁止され、移民や難民の増加は治安を脅かす。

 加えて労働者保護や年金が手厚いフランスは、マクロン大統領がこれをドイツ並みにしようとして左右両方からの抵抗が起きた。農業大国だけに食品流通の自由化への抵抗も大きい。

 ドイツはロシアの天然ガスをパイプラインで輸入し、エネルギー価格の上昇を招かずに環境対策を進めてきたが、ウクライナ紛争で輸入をストップさせられた。』

『極右のほうが首尾一貫

 無秩序な移民・難民はヨーロッパのためにも出身国のためにもならない。

ウクライナ紛争は国際法的にはロシアが悪いが、ロシアの庭先であるウクライナまでNATOやEUに入れたら安定した平和は実現しない。

仏独両国は加入に否定的だったはずが、きちんといわないから戦争が起き、経済破綻を招いて極右を扶けた。

 大衆の要求に応えるために右も左もよく似た要求をするが、左派は外国人対策や環境対策でのリベラルな路線を放棄できないから、極右のほうが首尾一貫している。

 EU統合はいまさら後戻り出来ないし、英国のブレグジット(EU離脱)が経済にマイナスだったと見本を見せたので、極右も強く主張しなくなった。

 フランスのRNはルペン父娘の交代のあと、「脱悪魔化」を進めた。娘が父を党から追い出して、その由来を別にすれば、なぜ極右なのかと言いうる党になった。

逆にフランスの共和党やドイツのCDUは、左派との対抗上、左に寄りすぎ失敗した。

 日本、英国、米国では国会に議席を持つ極右政党がない。

仏独でいう極右は自民党・保守党・共和党のなかにいる。

最近は、米国のトランプ大統領は極右的な政策をかなり実施したし、英国では国民投票でEUから脱退した。

 仏独では、保守政党がもう少し極右政党の政策を取り込むとか、組織を切り崩して穏健派を迎え入れるべきだろう。20%や30%の国民を「極右思想の持ち主」と言って体制外に追いやるのは無理がある。

フランス総選挙の行方は

ジョルダン・バルデラ

ジョルダン・バルデラ氏の公式Instagram(@Jordanbardella)より(他の写真を見る)

 欧州議会選挙での極右勢力の勝利を見て、マクロン大統領は奇襲で国民議会(下院)を解散した。6月30日と7月7日(※ 奇しくも、都知事選と同日だ)に総選挙が行われる。

 世論調査では、過半数289に対してRNが250、マクロン与党と左派連合が130ずつくらい。マクロンは、RNが第一党でも単独過半数を取らなかったらバルバラRN党首を首相にするのは拒み、左派連合にも渡さず綱渡りで乗り切るつもりだ。

 穏健な社会党から極左までの左派連合(新人民戦線)が成立したが、政策が極右以上にポピュリスト的積極財政なので経済界も驚いた。マクロンも極右より左派連合を攻撃し始め、過半数を取る政党がなければ非常事態宣言をする噂まで出て、混沌としてきた。

 はたして、7月26日のパリ五輪開会式のときの首相はだれだろうか。

 マリーヌ・ルペンはますます中道化しているし、極右のイタリアのメローニ首相がそこそこうまくやっているのを人々は見ている。たとえ総選挙は切り抜けても、2027年の大統領選挙では今度こそ悪夢が実現する可能性は消えない。

八幡和郎(やわた・かずお)
評論家。1951年滋賀県生まれ。東大法学部卒。通産省に入り、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任。徳島文理大学教授。著書に『365日でわかる世界史』『日本人ための英仏独三国志』『世界史が面白くなる首都誕生の謎』など。

デイリー新潮編集部 』