米海兵隊副司令、黒海と紅海から得た海洋拒否に関する4つの教訓

米海兵隊副司令、黒海と紅海から得た海洋拒否に関する4つの教訓
https://grandfleet.info/us-related/4-lessons-on-maritime-denial-learned-from-the-black-and-red-seas/

『米海兵隊の副司令を務めるクリストファー・マホーニー中将はDefense Newsに寄稿した中で「黒海と紅海から4つの海洋拒否に関する教訓を得た」「この2つは地政学的な背景が異なるものの、陸上戦力が海上作戦で決定的な役割を果たすと証明した」と指摘した。

参考:Four lessons on sea denial from the Black and Red seas
戦闘における勝ち負けは流動的だが「戦いを通じて学ぶ」という姿勢は不変であるべき

ウクライナ軍は2024年2月1日早朝、無人水上艇6隻によって黒海艦隊のミサイル艇イヴァノヴェツの破壊に、その前日に米海軍の駆逐艦もフーシ派が発射した無人機3機と対艦弾道ミサイルを撃墜することに成功したが、この2つの事例は地政学的な背景が異なるものの「双方とも陸上戦力が海上作戦で決定的な役割を果たす」と証明した。水陸両用部隊として世界屈指の米海兵隊が「ハイエンドの対艦兵器」と「無人機兵器」を海上阻止に用いれば「どの様な結果を得られるのか」は言うまでもないだろう。

出典:U.S. Navy photo Petty Officer 2nd Class Jacob Ma

火薬が発明されて以降、陸上戦力は沿岸海域の支配を目指す海上戦力に挑んできたが、この20年間で長距離攻撃兵器のコストは大きく値下がりしてしまい、多くの国家や組織に普及してしてしまったことで沿岸海域での優位性は陸上戦力に傾きつつある。

ウクライナ軍は小規模で分散した沿岸部隊、軍用及び商用センサー、無人水上艇、無人航空機、長距離ミサイルを組み合わせて黒海艦隊に深刻な損害(潜水艦を含む24隻)をもたらした。ウクライナ軍は1隻も戦闘艦を保有していないにも関わらず、陸上を拠点とする部隊だけで黒海艦隊の1/3(トン数)を排除し、ロシア側に数十億ドルの損失をもたらし、オデーサを含む黒海に面した拠点の海上封鎖を解除し、商用輸送にとって不可欠な海上輸送ルートを作り出した。

ウクライナ軍と同様に無人機と長距離攻撃兵器に依存しているフーシ派は紅海を航行する軍艦と商船を攻撃し、国際的な物流の流れを妨害し続けているが、この攻撃で海に沈んだ船は殆どなく、ここには今後の政策や何にリソースを投資するのか検討するのに重要な教訓が隠れている。

最も明白な教訓は「相対的な力関係」が重要な点で、紅海における連合軍とフーシ派の力の差は、黒海におけるウクライナ軍とロシア軍の差よりも遥かに大きく、黒海艦隊を攻撃するウクライナ軍の装備は充実し、NATOが提供する技術と情報に支援されているが、フーシ派には同等の支援もないまま世界最高の海軍力=米空母打撃群と連合軍の駆逐艦やフリゲート艦と対峙している。

出典:Photo by Petty Officer 1st Class Ryan Seelbach

第二の教訓は「軍事作戦の成功の尺度は撃沈した艦艇の数では測れない」という点で、この指数を用いるならウクライナのスコアカードは明らかだ。逆に客観的な評価を用いるならフーシ派の軍事作戦は国際的な物流コストを押し上げ、国際的なフーシ派の知名度を高めていると言え、最も重要なことは余裕のない米海軍の艦艇運用を圧迫している=相当量の戦力を紅海に拘束している部分だろう。

第三の教訓は「沿岸海域の陸上戦力と交戦するにはコストがかかる」という点で、米海軍は2023年11月以降に450回以上の攻撃を実施し、200以上のドローンとミサイルを迎撃した。米海軍は全ての能力で敵を上回ることが出来るものの、その殆どは標的の価値よりも高価な手段によるものだ。フーシ派の自爆型無人機(約2,000ドル)を迎撃する対空ミサイルの中には数百万ドルもするものがある。紅海の作戦コストは幸いにも許容範囲内に収まっているが、無人機の生産量は急増しており、これを大量使用する敵と対峙すれば高価な迎撃手段や予算は直ぐ枯渇してしまうだろう。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class William McCann/Released

最後の教訓は「沿岸海域の陸上戦力を特定して破壊するのが難しい=生存性が高い」という点で、ロシア軍はウクライナ軍の沿岸部隊を決定的に攻撃しておらず、艦艇をクリミアからノヴォロシスクに移動させることで「脅威」から距離を取ることに終始している。逆に米軍や連合軍は積極的にフーシ派の拠点を空爆し、無人機、ミサイル、運搬手段、発射拠点を破壊したが、それでもフーシ派の攻撃を封じ込められずにいる。

黒海におけるウクライナの成功と紅海の戦いが続く中で重要なのは「一時的な熱狂」を「謙虚さ」で抑え込むことだ。戦闘における勝ち負けは流動的だが「戦いを通じて学ぶ」という姿勢は不変であるべきだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Colby A. Mothershead
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 19  』

『 無印
2024年 6月 19日

返信 引用 

>「沿岸海域の陸上戦力を特定して破壊するのが難しい=生存性が高い」

日本も採るべき戦略の一つでしょうけど、中国があの長い沿岸からドカドカミサイルやらドローン撃ってきたら手の打ちようが無いな…
8

    jimama
    2024年 6月 19日
    返信 引用 

逆もまたしかりというか日本にこそああいうドローン兵器って向いてそうですけどね
射線とかもミサイルほど気にしなくていいし、何なら島とかの裏から回り込ませてもいい、シャヘド並の射程が実現できれば九州の山中から東シナ海全域覆えるぐらいまではあるし
何より安い、あと運搬が楽(軽トラでいいし)
18
        通りがかりさん
        2024年 6月 19日
        返信 引用 

    水上、半潜水ドローンも合わせて艦船接近拒否も良いと思います。
    ただ、悪天候時にどう優勢がつくかは読めないですね。凌波性とか皆無でしょうから使用不能かも
    5
    イーロンマスク
    2024年 6月 19日
    返信 引用 

10年前の時点で地下長城と呼ばれる全長5000キロにもわたる地下トンネル網があるわけで
先制攻撃や空爆によって破壊しつくすのは無理だろうな
5
      
    2024年 6月 20日
    返信 引用 

 基本、日本に近ければ日本有利。中国に近ければ中国有利という話なんだろうけど。
 難しいのは尖閣諸島。さらに石垣島辺り。空母など海軍を使った離島防衛は金食い虫になりかねない点が難しい。
11
        落ち着け
        2024年 6月 20日
        返信 引用 

    これに尽きると思う。
    価格的に陸並みの物量を確保出来ない空と海においては、高価値目標に対するA2/ADが既に確立してしまった。
    弾が続く限り、陸の優位は動かない。

    従って、どれだけ弾を確保していかに分散配置するのか、逆にいかに無駄遣いをさせて消耗させるか、と言うアプローチになるのかなと思う(米空軍のACEとか米軍のミサイル防衛のIAMDとかもこの流れかと)
    この意味で九州あたりは比較的安定した防衛ができると思う(それなりに広い面積の各地に配備&補給可能だし、安価なドローン類は大陸から届かない)。
    南西諸島は、、、
    どうやっても持久力に限界がある(艦船は弾数が少なく限界が近いし、陸上も絶対的な面積が少なく分散配置しようにも限界がある)ので、金に糸目をかけずに(それでも損耗を前提にすれば有人の艦船や航空機よりは安くなる)長距離兵器を備えるしかないのでは?

    とは言え、陸上並みの物量(数万の漁船)で来られると、あっという間に飽和しそうではある。
    一人っ子世代が2世代も続けば、人間の命も高くなると思うが。。。
    8