ロシア・北朝鮮、軍事色強める 金正恩氏「同盟水準に」

ロシア・北朝鮮、軍事色強める 金正恩氏「同盟水準に」
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『【ソウル=甲原潤之介】ロシアと北朝鮮が19日、包括的な協力を規定する新条約を締結すると合意した。ロ朝の軍事上の結束強化は国連安全保障理事会が科してきた北朝鮮制裁に違反し、北朝鮮の核・ミサイル開発を加速しかねない。日本や韓国には安全保障上の脅威が増す。

ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が結んだ新条約は「包括的戦略パートナーシップに関する条約」と名付けた。「包括的」と…

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『「包括的」と入れた部分に「軍事から経済まで」という意味合いを込めたとみられる。
北朝鮮とソ連が1961年に締結した「友好協力相互援助条約」は有事における防衛義務を規定する軍事同盟だった。冷戦後のロ朝が2000年に結んだ「友好善隣協力条約」は国家間の一般的な友好関係を規定しただけで、軍事色は弱かった。

プーチン氏は一方が攻撃された場合の「相互支援」を新条約に規定したと述べ「軍事技術協力を排除しない」と説明した。金正恩氏は「同盟関係」にまで言及した。

新条約に防衛義務まで明記したかは不透明だが、軍事面での協力を念頭においた点で、新たな両国関係を築いたといえる。

韓国とロシアは両国関係を「戦略的協力パートナーシップ関係」と規定し「包括的」の文言を使っていない。韓国統一研究院の玄承洙(ヒョン・スンス)先任研究委員は「北朝鮮とは『包括的』の文言を入れることで、ロシアは韓国より北朝鮮の方が軍事的に重要だとにおわせている」と指摘する。

両国が接近したのは2022年のロシアのウクライナ侵略がきっかけだ。ロシアは戦争の長期化で大量の弾薬を要した。欧米諸国の対ロ制裁に加わらない「友好国」のなかで、弾薬の生産力や在庫を持つ国の一つが北朝鮮だった。北朝鮮は韓国と休戦中で、軍事開発や生産活動に力を注ぐ。

防衛省防衛研究所の兵頭慎治・研究幹事は「戦場は火力の勝負なので、兵器の質より量が重要になる場合がある。旧ソ連の砲弾を大量に備蓄しているのは北朝鮮だけで、北朝鮮からの武器供与は非常に有効だ」と話す。

北朝鮮は06年に初めて核実験に踏み切って以降、国連安保理の制裁を科され続けている。北朝鮮への戦車や戦闘用航空機などの兵器供与は禁じられる。弾道ミサイルに関する資材輸出や武器製造の技術支援も許されていない。

ロシアは安保理の常任理事国として、米欧や中国とともに制裁の枠組みをつくってきた。プーチン氏はこの立場を転換し「安保理による北朝鮮への制裁は見直されるべきだ」と主張した。

19日、平壌で会談した後の調印式で写真撮影に臨むロシアのプーチン大統領㊧と北朝鮮の金正恩総書記=ロイター

ロシアが北朝鮮の包囲網から外れて公然と軍事支援を始めれば、日本や韓国は対応を迫られる。

北朝鮮は核や弾道ミサイルの開発を独自に進める一方、戦闘機や艦艇、偵察能力などは日米韓に劣っていた。21年に策定した国防5カ年計画で戦術核や原子力潜水艦、衛星、無人偵察機などの開発を盛り込んだが、ミサイルに比べ技術の進展は遅かった。

南山大の平岩俊司教授は「北朝鮮は戦術核などに関する技術でロシアの協力がほしい。ロシアから技術提供を受けているのではないかと国際社会に思わせるだけでも意味がある」とみる。

北朝鮮によるロシアへの弾薬支援はウクライナでの戦争を長期化させる恐れがある。同時にロシアから北朝鮮への軍事支援は北東アジアの安保環境を悪化させかねない。

日本と韓国にとっては北方の脅威の増大を意味する。中国と台湾の対立という南方のリスクに備え、北方の軍事衝突も防ぐ二正面の抑止力向上が不可欠になる。日韓の防衛協力の必要性はいっそう高まる。

韓国は中国への働きかけを重視する。ロ朝首脳会談の前日に開かれた中韓の外交安保対話で、韓国側はロ朝会談に懸念を表明し「ロシアと北朝鮮の軍事協力で朝鮮半島の緊張が高まれば中国の利益に反する」と呼びかけた。

中国は静観している。中国外務省によると、中国は外交安保対話で北朝鮮問題について自らが建設的役割を果たすと表明した。一方、ロ朝の関係については「友好的な隣国として交流、協力、関係を発展するのは正常なことだ」と述べた。

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