[FT]欧州、移民政策にジレンマ 極右伸長で

[FT]欧州、移民政策にジレンマ 極右伸長で
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『2024年6月19日 0:00

欧州議会選挙の熱気がほぼ冷め、結果から読み取れることが明らかになってきた。要するに欧州議会は大幅に右傾化するが、極右や保守強硬派が欧州連合(EU)の諸機関の権力を握るわけではない。

実際の影響を受けるのはもちろん個々の加盟国だ。中道政権のフランスやドイツがそうで、反移民を掲げる右派ポピュリスト(大衆迎合主義者)政党からの脅威が高まっている。
たとえ現政権が権力を維持できても、ポピュリスト的な主張…

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『ルッテ首相率いるオランダや保守党政権下の英国(EUの加盟国だった時も離脱後も)では、中道右派政権が移民に厳しい政策を打ち出さざるを得なくなった。

右派の台頭で、欧州諸国は必要な外国人労働力をいかに確保するかという真の移民・難民危機に対処するのが難しくなる。

イタリアのメローニ首相はこれまで難民申請者に対し厳格な指導者を演じることで、何とか国民の注意が大規模な移民流入に向かないようにしてきた。7月4日の総選挙で当然のことながら有権者にノーを突きつけられようとしている英保守党には、この戦略はもう通用しない。

効果上がらぬ「ブルーカード」制度

EUは(あえて箔をつけた言い方をすれば)「難民制度」を策定した。非人道的なうえ違法で、同時に効果もない代物だ。加盟国は自国にやってきた人々を国境の外や海上へ違法に押し返している。あるいは北アフリカの強権主義国にお金を払い、劣悪な刑務所に収容したり砂漠に置き去りにしたりしている。

制度は機能すらしていない。2023年は地中海経由でイタリアの海岸に流れ着いた人が15万人以上に上り、前年に比べ73%増加した。

EUの難民政策が政治的な色彩を帯びているのは、欧州国境・沿岸警備隊(フロンテックス)の事務局長を務めたファブリス・レジェリ氏の転身に如実に表れている。

フロンテックスは難民を押し返す行為を隠蔽し、助長しているとまで批判された。同氏は人権問題と不正行為をめぐるスキャンダルで辞任を余儀なくされた後、突如、欧州議会選にマリーヌ・ルペン氏の仏極右政党「国民連合(RN)」の候補者として登場した。

移民労働者に対する欧州諸国のニーズはいや増すばかりだ。EUでは充足できていない求人の割合を示す欠員率が10年代にじわじわ上昇していたが、新型コロナウイルス禍で跳ね上がり、いまだにコロナ前の水準には戻っていない。

人手不足がとりわけ深刻なのはベルギーやオランダ、オーストリア、ドイツなど。反移民を掲げる政党の力が強い。EU全域でみると、建設やSTEM(科学、技術、工学、数学)と呼ばれる分野での不足が目立つ。どちらも脱炭素社会への移行(グリーントランジション)を進めるうえで欠かせない領域だ。

EUは出稼ぎ労働者と仕事を結びつけ、労働市場を効率化する仕組みを域内につくろうとしている。難民政策ほど悪質ではないが、効果の乏しさは似たり寄ったりだ。

EUは高度専門職人材向けに「ブルーカード」と呼ばれる労働ビザ制度を導入した。ところが許可証は22年には8万2000枚しか発行されなかった。しかもその77%はドイツ一国によるものだ。雇用は依然、主に国が責任をもって確保するものと捉えられている。

英ルワンダ移送計画は失敗

一貫性のある計画が何ら存在しない以上、労働力不足に悩みながらも、有権者の移民への険しい目も気になる国がベストシナリオを描くとすればどうなるか。甚だしい偽善を続けつつ、最善の結果が出るよう期待するというものになるだろう。

各国政府は長年ひそかに大勢の外国人労働者を受け入れる一方、不法移民や難民申請者にはこれ見よがしの敵対的な対応をとってきた。

排外主義的な感情が高まってきたことで、この矛盾が拡大した。

有権者に正直に説明する気はないが、自国のあらゆる産業が回らなくなるのも困る。こんな考えなら政府が打てる手はほとんどない。

保守党の首相が不運にも相次ぎ交代した英国では、同時に相反することをしようとしてきた。

主に介護分野の就労ビザと大学の学生ビザを相当数発行しながら、不法移民をアフリカのルワンダへ強制移送する非人間的かつ非現実的な計画を推し進めている。後者の移送計画はこれまでのところ、完全な失敗だ。

政府は移民に関する右派からの批判に応えるには、学生と介護労働者の数を絞らざるを得ないと考えた。

世界トップクラスの国内の大学にしわ寄せがいくのも承知のうえでだ。結局、保守党は経済でも移民問題でも国民の信用を得られなかった。

メローニ氏、豊かな工業地帯に支持基盤

メローニ氏は「二枚舌戦略」をうまく進めてきた。

首相に選出された22年から25年にかけ、非EU出身者向けの就労許可証の発行枚数を2倍に増やす方針だが、今も世論調査で支持率が高い。

同氏が率いる極右「イタリアの同胞(FDI)」も欧州議会選で高い得票率を得た。

メローニ氏にとって幸いなのは、就労許可証の増加が少なくとも支持基盤からは歓迎されていることだ。

フランスのRNや「ドイツのための選択肢(AfD)」など他国のポピュリスト・反移民政党は、経済が振るわない地域の若者から支持を集める。

メローニ氏の中核支持層は豊かな工業地帯が広がるイタリア北部に多い。現地の企業は競争力が高く、労働者を必要としている。

それでも同氏は移民問題で批判を浴びる。6月上旬、イタリアの就労ビザ制度が犯罪集団に悪用されていると認めた。

欧州で極右や保守強硬派がさらに地盤を広げれば、労働力不足がもたらす政治課題が一段と深刻になる。

RNやAfDは(政府の)解決策は問題を悪化させるだけだと主張している。

排外主義的な偏見に屈すれば、人手不足への対応が難しくなり、将来の欧州の成長力や競争力に禍根を残すという見方が強まるだけだ。

By Alan Beattie

(2024年6月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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