中国、世界と一線画す水素大国へ インテグラル中西氏

中国、世界と一線画す水素大国へ インテグラル中西氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1169W0R10C24A6000000/

『2024年6月17日 10:00

中国の水素エネルギー産業が急速に発展している。中央政府は産業サプライチェーンの構築を国家の重要戦略として位置付け、各地の地方政府も製造、貯蔵、輸送、利用の各方面で産業育成を加速している。今後の技術水準や市場はどう動くのか。中国の新エネルギー調査会社、インテグラルの中西豪総経理に聞いた。

――中国の水素関連の代表的な展示会「2024国際水素エネルギー・燃料電池車大会(FCVC)」が6月上旬に上海で…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『――中国の水素関連の代表的な展示会「2024国際水素エネルギー・燃料電池車大会(FCVC)」が6月上旬に上海で開催されました。

「FCVCはもともと燃料電池車や電池を中心とした展示会だったが、今年は水電解領域の化学系や材料系の企業による出展が増えていた。より幅広い水素エネルギー産業全体をカバーする展示会としてレベルがあがったと感じた」

――中国の燃料電池のレベルをどうみますか。

「中国の燃料電池は2018年ごろが黎明(れいめい)期だった。李克強首相(当時)が日本で技術を視察したことなどをきっかけに国家戦略における重要技術に位置づけられた。当初はほとんど輸入部品に頼っていたが、補助金などを背景にこの3年ほどで国産部品の技術開発が進み、次々とプレーヤーが育ってきた」

インテグラルの中西豪総経理

「燃料電池の基幹部品であるスタックなどは、まだ日本や欧米に比べて出力や耐久性において一定の差がある。しかし中国国内の燃料電池車(FCV)の需要は商用車が中心で、300キロメートル程度の短い距離による低速での物流が基本となる。トヨタ自動車の『ミライ』のような乗用車で求められる加速や運動性といった高いパフォーマンスは必要なく、中国の国産部品でも十分に需要を満たせる」

「今後、大型トラックなどでの長距離走行の実証実験が始まれば、今の国産部品では出力や耐久性が足りないことが課題となるだろう」

――水電解装置など水素の生産における技術力はどうでしょうか。

「中国の水電解装置における主流はALK(アルカリ型)で、もともと欧州が強い分野だ。中国が使っている触媒は旧世代のニッケル触媒で、欧州などで使用されるニッケル合金触媒などに比べると効率が悪い。ただ、中国の装置は圧倒的に価格が安い。水素ユーザーにしてみれば、トータルの水素製造コストが安ければ電解装置の効率が多少悪くても構わない」

「これは太陽光パネルの構図と似ている。中国製品は当初は発電効率が低かったが、製品価格が安くてトータルの発電コストを抑えることができることから、世界で需要を伸ばした。中国のALK水電解装置もすでに中東、アジアや欧州などへの輸出や現地生産の検討が始まっている」

中国の国産燃料電池エンジンを熱心にみる人々

――中国は水素大国になり得るのでしょうか。

「2030年に中国におけるグリーン水素需要は数百万トンレベルが見込まれる。欧州や北米、オーストラリアでもその目標に達するのはかなり先となるだろう。こうした巨大な内需を背景に産業や技術をスケールアップしていけるという点で中国には圧倒的な優位性がある。オーストラリアなども低コストの水素をつくることはできるが、内需がないため輸出せざるを得ない」

「加えて中国にはFCVにとどまらず、アンモニアやメタノール、鉄鋼、石炭石油化学製品など多様で安定した分野で水素の需要があるのも強みだ。FCVだけでは数百万トンレベルの需要は生み出せない。小規模な実証実験段階にとどまる他国に比べ、中国は一段も二段もフェーズが違う」

(聞き手は中国総局長 桃井裕理)』