タイ人労働者、再びイスラエルへ 「貧困よりまし」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS115IP0R10C24A6000000/
『2024年6月17日 14:11
タイ政府がイスラエルへの労働者派遣を再び拡大する方針だ。パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの交戦では多くのタイ人が巻き込まれたが、出稼ぎ希望者は絶えない。根底にはタイ国内にとどまっていては抜け出せない貧困問題がある。
タイのピパット労相は5月末にイスラエルを訪問し、タイの農業従事者の受け入れ枠を従来の年6000人から3倍超の2万人に拡大するよう求めた。「イスラエル側は好意的…
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『「イスラエル側は好意的な反応を示した」(ピパット氏)といい、実現に向けて詳細を詰める方針だ。
イスラエルは農業分野で多くの外国人労働者を活用してきた。農業が盛んなタイ出身者は「関連スキルが高く、重宝されてきた」(タイ政府関係者)経緯がある。
独調査会社スタティスタによると、2022年時点のイスラエルの外国人労働者に占めるタイ人の割合は2割強と国籍別で最多だった。
2023年10月にイスラエルとハマスの交戦が始まると、タイ政府は労働者の派遣を停止した。戦闘前まで約3万人いたタイ人労働者のうち、約1万人が24年5月末までに帰国した。大半が農業や建設業に従事していたため、現在のイスラエルはこれらの分野で人手不足が深刻になっている。
戦闘では多くのタイ人労働者が巻き込まれ、60人近くの死傷者を出した。人質とされた人も約30人おり、現在も数人が拘束されている。それにもかかわらず、帰国したタイ人のなかには再びイスラエルへの渡航を目指す人がいる。
タイ東北部ナコンパノム県のブッディーさん(41)もその一人だ。12年からイスラエル中部の農園で働いていた。昨年10月、トマトの苗木の植え替え作業中にハマスの戦闘員に拘束され、両手を縛られた状態でトラックに乗せられてガザに拉致された。
身柄を拘束されている間に死を覚悟する瞬間もあった。目隠し用の布袋を自身の頭にかぶせられ、背後で戦闘員が拳銃の引き金を引く音が聞こえた。大切にしてきた仏像のお守りに心の中でひたすら祈ったという。
ブッディーさんは人質生活の恐怖体験から、いまも不眠に悩まされている(4日、タイ・ナコンパノム県)
ブッディーさんは昨年11月に解放されたが、いまでも当時の恐怖体験がフラッシュバックするという。それでも「体が許す限り、イスラエルでまた働きたい」と語る。現地で働けばタイの8〜14倍の収入を得られるためだ。
帰国後はゴム農園で働いているが、雨の日は樹液を採取できず、収入の安定しない日々を送る。1日の収入は平均160バーツ(約700円)程度だ。「死ぬのは怖いが、イスラエルなら食べ物には困らない。貧乏よりましだ」と話す。
タイ東北部は国内で最も貧しい地域とされる。農業以外の産業がなく、インフラ整備も不十分なためだ。ハマスの人質となったタイ人の多くはこの地方の出身者が多かった。
同県で農業を営むソムヨンさん(35)は地元に妻(30)と長男(5)を残し、初めてのイスラエルへの出稼ぎを決意した。「家族に会えないのはさみしいが、子どもの将来のためだ。心の準備はできている」と語った。
(タイ東北部ナコンパノム県で、井上航介)
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