〈西バルカンはなぜEU加盟に進まない?〉

〈西バルカンはなぜEU加盟に進まない?〉
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/34084

『フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのトニー・バーバーが、5月14日付け論説‘Defiant regional leaders resist the road map to EU membership’において、欧州連合(EU)は西バルカンなどへの拡大を目指しているが、セルビアやジョージアなど、地域の指導者にはEU加盟の進路を進むどころか、反対方向を指向する者があることを解説している。要旨は次の通り。
(Jacek Kadaj/gettyimages)

 昨年8月、欧州理事会議長のシャルル・ミシェルは、EUは2030年までには拡大の用意が整っているべきだと述べた。当時ですら、それは楽観的に聞こえた。

 今や、幾つかの加盟候補国は、加盟の基準を充たすどころか、反対方向を指し示す傾向を露わにしている。

 バルカンの加盟候補国は、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ(但し、潜在的候補国)、モンテネグロ、北マケドニア、およびセルビアである。この他にジョージア、モルドバ、ウクライナも候補国である。トルコも少なくとも理論的には候補国である。

 加盟を申請する国は、自由な市場経済はもとより、民主主義、法の支配、EUの外交政策との整合性について、一定の基準を充たさねばならない。セルビアは、EU加盟の基準を意図的に充たさないことを選択した国の例である。

 5月7~8日、セルビアは習近平の訪問を得て、北京と「共に分ち合う将来(shared future)」の追求に合意した。また、ブチッチ大統領は新たな政府を任命したが、それにはロシアとの近さゆえに米国の制裁対象となっている2人の閣僚が含まれる。

 ブチッチの行動は是正されることはないだろう。実は、セルビアではEU加盟に対する支持は他のどのバルカンの候補国よりも低い。ブチッチは、ロシアと中国におもねる一方、EU加盟を支持しているように装い、一つの外国がもう一つの外国と争うように仕向けるというセルビアの伝統を演じている。

 北マケドニアでは、5月8日の大統領選挙と議会選挙で右派のナショナリストの勢力が勝ったことで、この国のEU加盟の展望は後退することとなった。北マケドニアの加盟条件の一つは言語、アイデンティティ、歴史に関連するブルガリアの諸々の要求を充たすことである。この国の新しい政府はこれらの譲歩に反対だ。

 ボスニアの民族別の政党の間の抗争は国の機関を麻痺させており、EU加盟には1992~95年の戦争当時からほとんど近づいていない。』

『ジョージアの独裁的指導者ビジナ・イワニシヴィリは極度に反民主主義の方向に動いた。その結果、5月14日、「外国のエージェント」に関するロシア流儀の法案が、大規模な街頭の抗議デモにもかかわらず、可決され、また、EUのルールと相容れない税制の変更が可決された。

 EU拡大が困難に陥っているのは、この地域がロシアと中国の干渉に晒されていることもその理由である。しかし、幾つかの国がEU加盟あるいは加盟に必要とされる措置に疑念を抱く執拗な勢力に牛耳られていることが、もう一つの理由である。EUの民主主義の価値や経済支援ではこれら障害の克服には十分でないかも知れない。

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EU加盟へ進まない各国の事情

 EUが欧州の安全と繁栄のために拡大が望ましく必要と考えたことは正しい。しかし、意図的に加盟の可能性を破壊しかねない行動に出る国があろうと予期した向きはあまりなかったかも知れない。

 5月8日の中国とセルビアの首脳の共同声明には、「新時代の未来を共有するセルビア・中国共同体の構築」に合意したとある。これはEUに対する決別の辞と読める。

 また、セルビアは台湾に関する中国の立場をそのまま支持しており、武力統一も含めて支持しているとも受け取れる。EU加盟の展望はセルビアが中国に傾斜することの歯止めには何らなり得ていない。

 両国は昨年10月に自由貿易協定(対象にミサイル、戦車、爆弾など武器も含まれている)に署名したが、共同声明はそれを履行すべきことを確認している。しかし、EUでは加盟国が独自に貿易協定を結ぶことはあり得ず、EUの制度と相容れない。

 そもそも、セルビアはブチッチ大統領の強権的支配の下にあり、民主的制度が適正に機能しておらず、EUとは体質的に相容れない。ブチッチが本当にEU加盟を望んでいるのか疑問だ。EU加盟を支持している国民は33%にとどまるとの昨年6月の世論調査もある。

 北マケドニアでは、5月8日の議会選挙と大統領選挙の結果、右派ナショナリストの政党VMROが勝利し政権が交代したが、同党の新大統領が12日の就任式で、国名を故意に「北マケドニア」ではなく「マケドニア」と呼んだ。国名の変更はギリシャがこの国を加盟候補国と認めるための条件であり、両国は18年に北マケドニアに改称することで合意したものである。

 当時、稀な合意として国際的に称賛された経緯があるが、VMROはこの合意に反対して来た。ギリシャは強く反発している。』

『もう一つは、この論説にあるブルガリアの諸要求(ブルガリアは憲法を改正して北マケドニアにおけるブルガリア系少数民族の存在に言及することを要求している)である。これにもVMROは反対であり、恐らく、難航は必至である。

 ジョージアの問題は、5月14日に与党「ジョージアの夢」が議会での採決を強行した「外国のエージェント」法である。この法案は、資金の20%超を外国に頼る市民団体とメディアに司法省に登録することを義務付けるものである。

 この法案を主導した親露派のオリガルヒで「ジョージアの夢」の陰の指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの狙いは、クレムリンの手法に倣い、これを弾圧に用いて10月に予定される選挙を有利に展開するための布石であろうともみられ、これが市民の大規模な街頭の抗議運動を引き起こした。EUは、この法案はEUの中核的な規範と価値と相容れず、ジョージアのEU加盟の展望にとって脅威となることを警告しており、加盟プロセスは凍結されざるを得ないであろう。

 それがむしろイヴァニシヴィリの狙いだったのではないかとの憶測もある。しかし、国民の89%はEU加盟支持である。
中国とロシアの影響だけではない

 この論説は、西バルカンなどEUが拡大を目指す地域が殊更に難しい地域であることの理由として、ロシアと中国による干渉、およびEU加盟に疑念を抱く執拗な勢力の存在、の二つに末段で言及している。あえて追加すれば、西バルカンでは民族が複雑に入り組んでいるために、相互の善隣関係が殊更に難しいことがあろう。

 EUは、西バルカンの諸国が加盟を達成する前でも、EUの恩恵を実感出来るよう、加盟に必要な改革を進める諸国に60億ユーロの投資資金を用意する計画を進めているが、どれほどの効果を持ち得るかは見通し難い。』