中東の地政学の歴史的変遷

中東の地政学の歴史的変遷

庄司潤一郎; 石津朋之. 地政学原論 (日本経済新聞出版) . 日経BP. Kindle 版.

『中東地域はまるで地層のように歴史が層となって積み重なっている。

歴史の最深部で古層を成すのは、エジプト、メソポタミア文明である。

その上にシュメール、アッシリアの都市国家やアケメネス朝、ササン朝ペルシア等のオリエントの統一王朝などの帝国という歴史の新層が、積み重なった。

やがて「エルサレムの丘陵」ではユダヤ教、キリスト教が、さらに時代は下ってアラビア半島でイスラム教が誕生し、これらの一神教を信奉する部族、民族、国家の興亡が「エルサレムの丘陵」を中心に繰り広げられ、歴史の層がさらに積み重ねられていく。  

その闘争の過程で、バビロン捕囚によってユダヤ人は「エルサレムの丘陵」から追放され、世界各地に離散してユダヤ教徒として生きていく。

キリスト教は392年にローマ帝国で国教化され勢力を拡大していく。

7世紀に勃興したイスラム勢力はウマイヤ朝、アッバース朝等のイスラム帝国を建設し、その後ビザンツ帝国、フランク王国などキリスト教勢力を圧倒していく。

15世紀以降海洋を制し新大陸を開拓したスペイン、ポルトガルの拡大を契機にキリスト勢力が興隆し、経済力、軍事力でイスラム勢力を圧倒していく。

やがて19世紀の産業革命を経て大国となった大英帝国やフランス、ロシア等の西洋列強の力の前にイスラム国家オスマン帝国は第一次世界大戦で解体、滅亡した。

第一次世界大戦後の戦後処理で中東地域は、イギリスおよびフランスの帝国主義国家によって切断され、数多くの被保護国や植民地国家が誕生した。

そして中東地域の歴史の表層には、国境線によって切断・包囲された文明、宗教、宗派、民族の対立が刻み込まれた。  

第二次世界大戦後、中東地域の歴史の表層に刻まれた対立は、米ソ冷戦という氷河に覆われた。

1989年に冷戦が終わると氷河は溶け、歴史の表層が露になった。

そして今再び歴史の表層に刻み込まれたさまざまな対立が中東地域各地で、時に武力紛争として露出してきたのである。

庄司潤一郎; 石津朋之. 地政学原論 (日本経済新聞出版) . 日経BP. Kindle 版. 』