ウクライナメディア、1日20時間もの停電が現実になりつつある
https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/ukrainian-media-20-hour-blackouts-a-day-becoming-a-reality/
『2024.06.12
Kyiv Independentはウクライナ最大のエネルギー企業=DTEKの取材を通じて「1日20時間もの停電に直面する最悪のシナリオが現実になりつつある」「国際金融機関はオリガルヒ所有のDTEKに融資しない」「これが火力発電所の復旧を難しくさせている」と報じている。
参考:Worst-case scenario in Ukraine’s energy system ‘very close to realistic,’ largest private energy company says
参考:Cash-Strapped Ukraine Plans to Sell State Assets to Help Fund War Effort
ロシアがウクライナの戦争資金調達を妨害するならホテル・ウクライナやショッピングモールを攻撃するかもしれない
ロシア軍は3月22日、29日、4月11日、27日、5月8日、6月1日にウクライナのエネルギーインフラへ自爆型無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイル、極超音速ミサイルを発射、この攻撃で大規模な火力発電所と水力発電所の全てが甚大な損傷を受けるか施設自体が完全に破壊されてしまい、ウクライナは3月以降の攻撃で9.2GW相当の発電能力を失ってしまった。
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
この9.2GWという数字は「政府発表」ではなく「駐ウクライナ・EU大使」が言及したものに過ぎなかったが、ゼレンスキー大統領は11日の復興会議で「昨年冬のエネルギー消費量はピーク時18GWで、その半分がロシア軍の攻撃で破壊された」と述べたため「9GW相当の発電能力を失った」と間接的に認めたことになり、Kyiv Independentはウクライナ最大のエネルギー企業=DTEKの取材を通じて「1日20時間もの停電に直面する最悪のシナリオが現実になりつつある」と報じている。
“DTEKで取締役を務めるドミトロ・サハルク氏は今後の電力見通しについて「防空システムの迎撃弾不足と修理資金の不足が解消されず、ロシア軍のミサイル攻撃が続くと約25%の電力不足に陥り、本格的な暖房シーンズが始まる11月には大規模な工場、12月には防衛企業、2025年1月には上下水道などの重要インフラで影響が出始め、国民は1日あたり20時間もの停電に直面するかもしれない。この最悪なシナリオは現在の状況に最も近く、我々は最悪なシナリオがもたらす結果に突き進んでいる」と述べた”
‼️ Trypilska TPP has been completely destroyed by an overnight Russian strike, Interfax-Ukraine reports, citing Centrenergo. pic.twitter.com/nOZM63sG8f
— NEXTA (@nexta_tv) April 11, 2024
“さらに「最も最良なのは防空システムの迎撃弾が供給され、ロシア軍のミサイル攻撃が適切に阻止され、電力輸入が増加し、DTEKとCentrenergo(国営のエネルギー企業で総電力生産量におけるシェアは約8%/火力発電の総電力生産量におけるシェアは約18%)の損傷した発電所が修理できるシナリオで、この場合なら大手企業は操業を続けられるものの、依然として約12%の電力不足が発生するため、国民は1日あたり10時間程度の停電に直面するかもしれない」と述べたが、想定よりも攻撃の頻度が少なければ「停電の時間は短くなる」とも付け加えている”
“どのシナリオで冬を迎えるにしても可能な限り発電設備を増やす必要があり、この取り組みの中で小規模発電は殆ど意味をなさない。国内はガスタービン発電機が3基ほど稼働しているものの、1基あたりの発電量は75MWに過ぎず、我々が失った発電能力からすれば比べ物にならないほど小さい。再生可能エネルギーも検討中だが大規模な発電量を今冬までに確保できない。従って冬を乗り越えられるかどうかは損傷した発電所を修理できるかどうかにかかっている”
出典:Press-office/ATTRIBUTION-SHAREALIKE 2.0 GENERIC
“最も即効性の高い施策は中東欧の古い発電所から設備をウクライナに移転することで、DTEKは既に職員を派遣して修理に必要な機器をウクライナに移送し始めているが、最大の問題は修理資金の調達を妨げる当社のオーナー=リナト・アクメトフの存在だ。
欧州復興開発銀行や国際金融公社といった国際金融機関はオリガルヒ(新興財閥)が所有するDTEKには融資を行わない方針で、欧州復興開発銀行の総裁はKyiv Independentの取材に「ウクライナで共に仕事をする相手を厳選している」「オリガルヒと一緒に仕事をしない」と述べたことがある”
“サハルク氏は欧州復興開発銀行がDTEKへの融資に消極的なことについて「これは緊急事態だ。被害を受けた火力発電所と水力発電所を修理しなければ、これからやって来る冬を乗り切る方法はない。ウクライナを助けるのであれば政治的な駆け引きを続けている場合ではない」と述べ、オリガルヒを問題視する前に事態の深刻さを直視すべきだと訴えた”
出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin
ゼレンスキー大統領が要請した防空システムの追加供給(7セット)にはドイツと米国がパトリオットシステムを1セットづつ、イタリアがSAMP/Tを提供する予定で、ここにドイツが検討しているパトリオットシステム追加提供(単独3セット目)とオランダの取り組み分を加えると5セット分になるが、仮に7セット分の追加供給が実現しても迎撃弾が不足すれば意味がない。
ウクライナはパトリオットシステムとSAMP/Tを計4セット運用中だが迎撃弾不足に陥っており、7セット分の追加供給が実現すると必要な迎撃弾も増えるため、これが安定供給できるのかどうかが「損傷した発電所の修理ペース」に大きな影響を及ぼし、さらに火力発電の総電力生産量に大きな割合を占めるDTEKへの資金供給も問題だ。
出典:Jorge Franganillo/ATTRIBUTION 2.0 GENERIC
オリガルヒの問題で国際金融機関からの資金供給が難しいなら、ウクライナが自己財源から資金供給すればいいと思うが、New York Timesは12日「ウクライナの国防予算は約50億ドルの不足に直面しており、これを穴埋めするため国営企業の売却を計画しているが、戦争リスクを加味すると侵攻前の値札よりも低い価格で売却しなければならない上、実際に活動している国営企業は約3,100社の半分以下、利益を上げているのは全体の15%に過ぎない」と指摘。
さらに「過去の国営企業売却は計画が杜撰で市場価格よりも安価でオリガルヒに売却されたり、不利な市場環境や国有企業の債務支払を巡って何年も法的紛争に巻き込まれた。ウクライナ当局は国営企業の売却で海外からの投資を呼び込み『雇用増』と『税収増』を期待しているが、同時に『戦争中のウクライナに新たな投資家を誘致するのは困難だろう』とも認めている。
さらに売却を予定していたCentrenergoの発電所もロシアのミサイル攻撃で破壊されてしまい、もう売却できる国営企業は余り残っていない」と報じている。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
欧米の財政支援で「ウクライナは資金不足に陥っていない」と思いがちだが、財政支援の資金は軍事分野に使用することが禁じられている。
つまり非軍事分野の支出を欧米の財政支援で賄いながら、軍事分野の支出=国防予算に税収の全てを注ぎ込んでいるものの「それでも約50億ドルの資金不足に陥っている」という意味で、欧米の軍事支援も資金提供ではないため動員費用などは自国の財源で賄わなければならない。
ザルジニー総司令官が提案した45万人~50万人の追加動員をゼレンスキー大統領が拒否したのも「動員費用(5000億フリヴニャ=約2兆円)」が原因と言われており、ウクライナが直面している電力不足は国内企業の経済活動に影響を及ぼすため来年の資金不足は更に拡大するだろう。
出典:KAN Development ロシアのオリガルヒから株式を没収して国有財産になったキーウ最大のショッピングモール Ocean Plaza
因みにNew York Timesは「今年の夏にホテル・ウクライナや巨大なショッピングモールなど約20社の国営企業を競売にかける予定」と報じており、ロシアがウクライナの戦争資金調達を妨害するならホテル・ウクライナ(最低入札価格は2,500万ドル)やショッピングモールを攻撃するかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:TpyxaNews
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投稿者: 航空万能論GF管理人 ウクライナ戦況 コメント: 33 』
『 名無し
2024年 6月 12日
返信 引用
90年代に好き放題暴れ回ったロシアのオリガルヒはプーチンに叩き潰され、一応形は残っているものの政治的影響力は喪失しロシア政府の軍門に下りましたが、ウクライナの場合はそうした粛清が行われなかったため2010年代以降もオリガルヒが大統領や州知事になるレベルであり、経済の8割以上を独占しさらには私設軍隊まで保有するなどやりたい放題でゼレンスキーも事実上何もできませんでしたからね
正直ソ連時代からの汚職と独立以降のオリガルヒによる金権政治が戦時中にも関わらず現在進行形で続く目を覆いたくなるような腐敗の数々と、碌に総力戦体制の構築も出来ない行政能力の低さに繋がっていると思いますし
52
ふくちゃん
2024年 6月 12日
返信 引用
正直、これでウクライナの腐敗指数がロシアよりマシな順位になってるのが、理解できません。
16
うくらいだ
2024年 6月 13日
返信 引用
むしろロシアに編入された方がまだまともだったんじゃないか
5 』
『 古銭
2024年 6月 12日
返信 引用
大打撃を受けた後に電力輸出の利益に対する八割課税を撤回しても、企業は防空の懸念が払拭されるまで設備再建に全力で挑む気にはならないでしょう。民間がEU圏内での蓄電所建設等を優先しているのも当然と言えば当然です。
短期的には迎撃弾まで含めた防空の充実は不可能だと考えると、地方は切り捨てつつ現在進めている原発の増設や建設再開の計画を長期計画で進めるしかないのかなと。
去年米国が要求した改革案において、電気・ガス料金の自由化の開始は一年以内の目標だったと記憶していますが、現状を見る限り困難そうですね。
10
通りがかりさん
2024年 6月 12日
返信 引用
今の感じであればウラン鉱山は保持できそうではあるのですが、すでに米企業に権利を売ってる所もあるのが問題かもしれません。
また莫大な費用のかかる建設がアメリカ(可能性では日本も)なので外貨建てで費用回収まで何年かかるか分かったものじゃないですね。
最終的に損にはならないでしょうが色々厳しいですね。
5
うくらいだ
2024年 6月 13日
返信 引用
日本の郵政民営化でもアメリカの要望でしたね
電気ガスの自由化ですか
アメリカ資本でも入りたいんですかね?
2 』
『 もへもへ
2024年 6月 12日
返信 引用
自ら負担するのは軍事分野だけで、他は援助で埋められるのにそれでも足りてないってのは自らの国力を大きく超えた戦い方をしてるということなので、この状態を全土奪還まであと数年は維持するというのは財政的にかなり厳しいのではないかと。
なので、近い内に軍事分野でも援助金で充足して財政は完全に援助金で賄うようになり納税の負担や資金面の上限がなくなったことでさらに大量動員が出来るように変わるのでは無いでしょうか。
9
名無し
2024年 6月 12日
返信 引用
そんなお荷物国家、どこの国も絶縁するやろ
17
2024年 6月 13日
返信 引用
国庫が全部外国頼りとか、国として存在が危ういわ
3 』
『 たむごん
2024年 6月 12日
返信 引用
企業売却は、リスクプレミアムが加味されます。
買収資金の資金調達は、その国のリスク(国債金利など)に、上乗せした金利で調達します。
戦争中は、保険が免責になったりするなどの特殊事情もあるため、ウクライナ国営企業の売却は格安になってしまいます。
例えば、ウクライナのホテルを買収後、通常保険の引き受け手がいない可能性も考慮するため、まともな売買が成立せずに格安になってしまいます…
11
paxai
2024年 6月 12日
返信 引用
Готель Україна 16階建て375部屋あって四つ星 目の前が独立広場という超好立地。
最低入札価格の2500万ドルが最終価格になるとは思わないが・・・安いよなあ。
7
たむごん
2024年 6月 12日
返信 引用
やはり土地もセットか分かりませんが、信じられないくらい格安ですね。
高さ規制、容積率規制を存じ上げませんが、再開発まで考えれば垂涎の物件なのになあと。
(平時にありえない安さとして)1泊1万円前後で満室、1日400万円と仮定しても、年間約15億円ですからね。
戦争中の、格安払下げが悔やまれます…
2
paxai
2024年 6月 12日
返信 引用
一人朝食抜きなら 税込みで41ユーロ(大体7000円)とのこと。物価考えても安いかな?
そして思ったが付加価値税20%って高くね?+外国人観光税80UAH/日(310円)も追加でかかるし。
税収足りてない感が全面に出てるわ。
4
たむごん
2024年 6月 12日
返信 引用
情報ありがとうございます。
ロシア人や中国人が多そうですが、今後どうなりますかね。
中華資本、日本と同じようになる事があり得るだろうなと。
付加価値税、内需を捨ててるような税率ですね。
推測ですが、汚職が多い国ということは、表に出さない取引が多いのでしょう。
5 』
『 ホテルラウンジ
2024年 6月 12日
返信 引用
面白い記事ですね。管理人さんありがとうございます。
オルガリヒの問題が仮に彼らに金を渡しても修理の実効性があるか疑わしいのであれば、ウクライナ政府に西側から更なる追加資金支援をすべきですね。
簡単に資金を更に出せとサラリと私は主張していますが、この発電所の件は
ウクライナへの支援が途切れるということはどういうことが起こるのかがこの発電量減少で見えてきたわけです。
今後アメリカが支援を日よるようなことがあれば、再び発電所防空に穴が開き、発電量が減ります。
この発電所修理で発生する膨大な費用は、支援を中断した事で発生した余計な費用ととらえることが出来ますので
支援を継続していたら発生しなかったか、大幅に低減された額になっていた費用です。
今後支援は戦争終結まで終わらせてはいけませんし、中断するなら膨大な追加費用になって帰ってくる事をアメリカおよび西側は自覚すべきです。
で、まず取り組むべきは「これ以上の発電量の減少を防ぐ」を徹底して取り組むべきですね。
次にどう防ぐかという部分では迎撃ミサイルの充実という手が第一ですが、これは迎撃ミサイルの生産量の問題もありますし
迎撃仕切れないケースもあると思いますので実績的に非常に有効ですが確実ではありません。
ですので3月に破壊されまくってるときの記事でも言いましたが、モスクワとレニングラードの発電所をつぶせばいいんです。
これをすれは相互破壊になりますので、今後ロシアは弾があってもウクライナの発電所に打ち込むことはありません。
モスクワの停電は反プーチンの世論につながるからです。
プーチンは独裁者なんでロシアの国家継続性より自分の政権の延命が優先されますので、必ずウクライナへの追加の発電所攻撃は止まるでしょう。
その手段としてウクライナの長距離ドローンとアメリカ等々の長距離ミサイルがありますが、ウクライナのドローンでは不十分なのであればアメリカが許可を出すべきですね。
というか、「これ以上ウクライナの発電所をロシアが狙った場合、アメリカがモスクワ・レニングラードへ供給する発電所に限って攻撃許可を出す」とアナウンスすれば十分と思いますよ。
これでウクライナの電力問題はこれ以上は悪くなることはなくなるはずです。
3
2024年 6月 13日
返信 引用
乾坤一擲な案ですね。すごーい。ウクライナへミサイルが飛ぶ代わりにキューバから飛ぶことになりそうですね。
3 』