タイ上院選9日開始 14年クーデター後初、民主化進む?

タイ上院選9日開始 14年クーデター後初、民主化進む?
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『2024年6月9日 5:00

タイで2014年に起きた軍事クーデター後初となる上院選挙が9日に始まる。上院はこれまで国軍の実質的な支配下にあり、国政の行方を左右するほどの力を振るってきた。今回の選挙から議員の選出方法が変わる。タイの政治は変わるのか、3つのポイントでまとめた。
・しくみは?
・経緯は?
・民主化進む?

(1)しくみは?

タイ議会は上院と下院の二院制。今回の上院選は5年の任期満了に伴う選挙となる。これまでは国軍が指名…

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『これまでは国軍が指名した議員250人で構成されていたが、医師や農家など20の職業団体から各10人の代表を立候補者の互選で決める。200議席を争う。

投開票は6月中に郡、県、国の単位で計3回実施し、最後まで勝ち抜いた候補者が当選となる。当選者の正式結果は7月2日に発表される。

議員の選出方式を立候補者同士の互選としたのは、上院に対する政党や政治家の影響力を排除する目的からだ。だが国民に投票権がなく「民主的な選挙とは呼べない」(民主派の最大野党「前進党」のチャイタワット党首)との批判は根強くある。

選挙管理委員会によると、立候補者は少なくとも4万6000人にのぼる。政党所属者は制度上、立候補できないが、上院での主導権を狙う各党は自党の支持者を送り込んでいるもようだ。

新しい上院議員は国会での首相指名選挙に参加できなくなる以外、従来と役割は変わらない。重要法案の審議権、裁判所や選挙管理委員会といった独立機関の人事などが主な任務となる。

(2)経緯は?
これまでの上院は14年に発足した軍事政権が指名した議員で占め、国軍が政治に関与する手段として利用された。昨年7月には首相指名権を乱用し、下院選で最多の議席を獲得した前進党のピター党首(当時)の首相就任を阻止した。

今回の上院選は、14年のクーデターで発足した軍政が完全な民政移管を「演出」する狙いがある。しかし国民による直接選挙ではなく、職業団体ごとの互選方式が採用された背景には、国軍と対立関係にあったタクシン元首相派の存在がある。

国軍と対立関係にあったタクシン元首相=AP

タクシン氏は01?06年に首相を務めた。低額医療制度の導入で低所得層から絶大な人気を博したが、金権政治が横行。1997年制定の憲法下で行われた上院選では与党政治家の親族が上院議員になる例が続出し、反タクシン派は「国会独裁」と非難した。

国軍は今回、こうした反省を踏まえ、政治家や公務員の親族の立候補を禁止するなど細かい規制を設けた。互選方式なら「国際社会の批判はかわしつつ、国民の投票は制限し、民主派の台頭は防げるとの読みもある」(バンコクの外交筋)ようだ。

(3)民主化進む?

国軍が上院選の前後にどのような対応をとるかで今後の民主化の針路は決まる。上院選が不正などを指摘されることなく円滑に終われば、国軍の政治への影響力は弱まる公算が大きい。ただ国軍が選挙手続きの不備などを理由に選挙無効を訴える観測もある。

上院選ではタクシン派「タイ貢献党」などの非国軍系政党の支持層が多数派を占めると予想される。国軍は非国軍系政党へのけん制とみられる動きをとっている。

昨年9月に発足した政権のセター首相は貢献党の所属だが、国軍系政党と連立を組んでいる。両勢力の主導権争いは続いており、5月には国軍系の上院議員40人がセター首相の解職を要求。訴えを受理した憲法裁判所が解職命令の是非を審議している。

国軍の影響下にある憲法裁は以前、対立するタクシン派の首相が料理番組に出演したことが首相の副業禁止規定違反に当たるとして解職に追い込んだ。

一方、野党の前進党も選挙公約が違憲だとして解党処分の瀬戸際にある。今回の上院選の結果が国軍に不利なものになれば、こうした強硬策をとる恐れがある。

英誌エコノミストがまとめた23年世界の民主主義指数で、タイは167カ国・地域中63位だった。前回の55位から順位を落とし、現政権を「欠陥がある民主主義」と表現した。国軍が民主化に逆行した行動をとれば国のイメージをさらに損なうことになる。

タイと日本はつながりが深い。タイに進出した日系企業の拠点数は約6000と、中国や米国に次いで3番目に多い。タイが再び政情不安に陥れば、少なからず日本にも影響が及ぶおそれがある。

(バンコク=井上航介)

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