<トランプよ、どこへ行く?>TikTok登録数で人気誇示、政権担当時の 「中国企業排除」の強硬姿勢はどこへ行ったのか?
キース・クラック Keith Krach( 米国務省国務次官:経済成長・エネルギー・環境担当)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/34074
『米国のトランプ前米大統領が大統領選の選挙活動として、中国系動画投稿サイトTikTok(ティックトック)のアカウントを6月1日に開設し、わずか4日間で登録者が540万人を超えたと人気を誇示した。バイデン陣営は2月からティックトックの使用している。
トランプ政権時、国務次官を務めたキース・クラック氏は小誌の取材の取材に対し、中国のハイテク企業排除の必要性を強調していた。
そうした米国の姿はどこにいったのか? トランプよ、答えてほしい。
(2020年10月20日に掲載した「激化する米中5G戦争 米国はこうして勝利する」を再掲します)
中国との対決姿勢を強めてきた米トランプ政権は、安全保障上の脅威となる中国企業を排除してきた。2018年8月には、華為技術(ファーウェイ)など複数の中国企業からの政府調達を禁止。同年5月には実質的にファーウェイへの米国製品の販売を禁止した。20年8月には、米国の技術・ソフトウェアを用いて米国外で製造された製品の同社への販売も禁止した。米国は、通信インフラの一部を中国企業が握れば、機密情報などが漏洩する恐れがあると懸念する。
米国は外交施設に関する5Gの情報経路のすべてからファーウェイやZTEを排除する (REUTERS/AFLO)
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5G標準化に取り組んできた東京工業大学工学院の阪口啓教授は「中国企業が5Gなどの通信機器の開発に関わっても秘匿性の高い情報を読み取ることはできない。
ただ、アプリケーションやクラウドなどの情報インフラまで関わると、理論上は情報を取得することが可能になる」と指摘する。
一方で中国企業は、5Gを筆頭に先端技術の開発や標準化にも大きくかかわってきた。米国は中国企業を排除してどのように5G、ひいては6Gの技術開発を行っていくのか。米国務省国務次官のキース・クラック氏に聞いた。
── 米国はなぜ、ファーウェイなど中国企業への制裁を強化するのか。
中国共産党は長期的利益を見据えて必要な行動をとっており、真剣勝負をしている。
特に困るのが、中国側が自国は「ルールを超越する存在」だと信じていることだ。
中国共産党は何年もの間、中国のテクノロジーを購入するよう企業や他国に圧力をかけている。
それは、国家情報法(中国の国家情報活動に関する法律)の下、中国のすべての国営企業や民間企業、そして中国国民は、求められればあらゆる情報や専有技術、知的財産、データを中国共産党、人民解放軍、または政府へ引き渡さなければならず、従わなければ代償を伴うということを分かっているからだ。
ファーウェイや中興通訊(ZTE)といった信用できない、ハイリスクの事業者、またそのアプリやクラウド、ケーブルなどのあらゆる関連製品はともに、重要なアプリケーションやインフラを破壊もしくは兵器化する、あるいは中国軍のテクノロジー分野を進歩させる能力を、中国共産党が実権を握る権威主義政府に提供している。
米国においてファーウェイが、銀行詐欺、有線通信不正行為、制裁措置への違反、米国のテクノロジー企業6社の知的財産の不正使用などで、起訴されていることは少しも驚くべきことではない。
また、ファーウェイがドイツテレコムの子会社である、米国のT−モバイルの知的財産を盗用したことは周知の事実だ。
ヨーロッパや他の足掛かりを得た地域において、中国が同様の手口を使っていることが分かっている。
中国共産党は、ファーウェイ、TikTok、WeChatなどの中国企業や彼らが持つテクノロジーを組織的に用いて、世界のデータを取り込んでいる。
世界の市民はその危険性に気づき、嫌な気持ちを味わっている。
各国政府の指導者やグローバル企業のCEOは、中国共産党による嫌がらせに立ち向かう政治的意思を有している。米国では現在、これは超党派で見解が一致している問題の一つだ。
こうした危険性を考慮し、世界各国の政府や企業は「誰を信頼して重要な個人情報と知的財産を託せばよいのか」と自問することが増えている。
本年以降、その答えに迷いはなくなるはずだ。
新型コロナウイルスの流行の発生を隠蔽していたこと、香港の自由を骨抜きにしていること、新疆ウイグル自治区に対し、容赦ない抑圧政策を貫いていることなど中国共産党の悪質な行動を見て見ぬふりはできない。
こうした悪事が行えるのは、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』の中で「ビッグ・ブラザー」として表現した、監視国家が世界の数十億人の行動を追跡しているためである。』
『また、一方通行の中国の「グレート・ファイアーウォール」が展開されているためでもある。
この大規模な情報検閲システムは、中国共産党が活用するデータを通過させるが、真実が国内へ入ってくることはなく、また国外へ出ていくのはプロパガンダだけだ。
ファーウェイは、中国共産党の悪質な活動を行うためのツールとなっている。
その他のテクノロジー企業は同じ機能を持つシステムの一部をなしており、個別に、もしくはシステムの一部に統合されて役割を果たしている。
民主的なチェック・アンド・バランス機能がなく、人権やプライバシー、国際規範を尊重しない権威主義政府によって操作、妨害、支配されうるネットワークの危険性について、米国は非常に懸念している。
米国の安全保障上の懸念は、単に産業スパイ、政治スパイだけにはとどまらない。
ファーウェイやZTEといった、信用できない、ハイリスク事業者のおかげで、中国共産党が指揮する権威主義政府は、重要アプリとインフラを破壊あるいは武器化する、もしくは人民解放軍のテクノロジー分野を進歩させる能力と機会を得ている。
米国は昨今、ファーウェイが米国及び日本をはじめとする同盟国やパートナー国に対して、その技術をますます簡単には利用できないようにしている。
その第一歩として、2020年4月、ポンペオ米国務長官は「5Gクリーン・パス」を宣言した。
これにより国務省は、米国の外交施設が入手または保管するいかなる情報も、信用できる機器を介して受け取ることを義務付け、ファーウェイやZTEの機器を介することは一切認めないとした。
── 中国の5G技術について、米国はどのような懸念を抱いているのか。
5Gはデータへのアクセスと管理の手法を変革することになる。
5Gでは、それ以前の世代とは異なり、機密情報がネットワーク中で保存され、解析される。
つまり、ファーウェイ、ZTE、その他の信用できない事業者に5Gネットワークのいかなる部分もコントロールさせるのは安全でないということだ。
信用できない事業者が、ソフトウェア・アップデートやパッチを提供することで、悪質なコードが埋め込まれたり、データが抜き取られたりする可能性がある。
5Gが広がると、情報はネットワーク中に保存され、解析されるようになる (VCG/GETTYIMAGES)
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ファーウェイは中国共産党軍事当局とつながっており、共産党のスパイ活動に関与し、他国の競合相手から知的財産を盗んできた。
そして、世界中でその腐敗した慣習が咎められている。
ファーウェイとZTEは、世界有数の大手市場である、中国国内市場への参入において優遇されており、電気通信産業分野での公正な競争が妨げられている。同時に、中国以外の競合相手の知的財産を盗用して利益を得ている。
ファーウェイをはじめ、中国の大手企業の多くは、中国共産党が活用し、また他国へ輸出する監視テクノロジーを開発することで、強制労働を含む人権侵害を助長している。だからこそ、そうした企業が排除され影響を及ぼさない、「クリーンな」サプライチェーンを維持することが重要だ。』
『── 中国は、米国に依存しない独自のサプライチェーンを構築しようとしているが、こうした動きは米国の技術開発にとって脅威となるか。
中国は何年もの間、米国及び日本のテクノロジーからの自立を試みている。
この取り組みのための中国の原則は、相互的でない共生関係で、次の要素 ── 一方的なジョイント・ベンチャー、知的財産の盗用、買収、サイバー・ハッキング、強制的なテクノロジー移転、財政面での誘惑、欺瞞、そして中国の目的に適う場合に限り順守する合意 ── を統合した戦略から成る。
米国は、国際的なイノベーションを主導している。調査・研究に最も投資し、最も多くのベンチャー・キャピタルを惹きつけ、最も多くの上級学位(修士号以上)を授与し、そしてハイテク製造分野で最大の製造国となっている。米国は世界中の同盟国・パートナー国と緊密に連携・協力することにより、競争力を維持し、最先端を担う地位を維持する。また、同盟国・パートナー国と共に、米国のテクノロジーに対する中国関連のリスクを低減する措置をとっている。
米国政府は、多くの同盟国・パートナー国とともに、サプライチェーンの中国への過剰集中がもたらす国家安全保障上の脆弱性を低減するための措置をとっている。中国国内のいくつかの組織に対し、米国が課している制裁は、ルールに基づく国際秩序、また何より米国の国家安全保障と外交政策における利益に関して、越えてはならない一線を越える行動に基づくものだ。
── 中国は、「デジタル・シルクロード」戦略及び「中国標準2035」を導入することで、テクノロジーと標準化に対する支配力を強めている。
標準化を支配しようとする中国に立ち向かう方法は、信用の原則の基礎をなす、包括的な一連のデジタルトラスト基準を強く求めることだ。
これには、透明性、互恵性、法の支配、知的財産、人権、国家主権の尊重が含まれる。
そのため、米国は志をともにする民主主義国と協力し、データ・プライバシー、保全、人権、信頼できる連携に対する長期的脅威に対処するための、包括的なアプローチである「5Gクリーン・ネットワーク」を開発した。
米国の「5Gクリーン・パス」イニシアティブでは、5Gインフラの設計・構築・実行のための「EU 5Gツールボックス」の開発における、欧州連合(EU)加盟国の業績を歓迎している。
日本とその他の同志国、および民間企業が、(コンピューターや通信の)標準化団体との関わりにおいて、米国政府と協力することが重要だ。たとえば、米国と、カナダ、オランダ、スウェーデン、英国といったパートナー国は協力して、20年2月に開催された、国連専門機関である国際電気通信連合(ITU)の電気通信産業の会合で、中国による新技術「New IP」の提案が通るのを阻止した。
「5Gクリーン・ネットワーク」は、国際的に受け入れられたデジタルトラスト基準に根差すものであり、複数年にわたる持続的戦略の実行の象徴で、信頼できるパートナーとの連携の上に成立している。さらに追加的な「クリーン・イニシアティブ」を組み込んで、携帯端末、アプリ、クラウド型システム、海底ケーブルを守ることで、システム全体を網羅している。
これが火付け役となり、5Gネットワークの利用にあたり、各国や企業が次々と「クリーンな」事業者を選んでいった。より多くの国や企業がクリーンな事業者を利用して、5Gネットワークを構築するのにともない、5Gの波はクリーンで信頼できる事業者へと向かっている。ファーウェイが中国共産党の監視国家の一翼を担い、また人権侵害のツールとなっていることに皆が気づき始め、同社との契約は減少している。
中国政府は自国の計画を推し進めるため、多国間での協議の場、特に国際連合とITUへの注目を高めている。同時に、中国は「一帯一路」と連携させた「デジタル・シルクロード」戦略を拠り所とし、中国のICT関連機器とサービスの販売をより多くの国で進めようとしている。 』
『── 6G実用化をめぐる覇権争いが始まっている。米国内での6Gの開発状況や中国の6G開発・研究に対抗する米国の計画や戦略とは?
テクノロジーの進化は続いていく。6Gは、IoTの新たな活用領域の変革を起こし、ほぼ瞬時に大容量通信を処理することによって、ネットワークエッジ(通信ネットワークの末端領域)を再定義する。米国と同志国は、近い将来、産業ネットワークにおけるこのような通信と人工知能(AI)の融合に関して、取り組みを主導していくだろう。サイバーの世界が、遠隔医療から自律化にいたるまで、物理的な世界に埋め込まれていることから、保全が引き続き最重要課題となるだろう。
現在、6Gの規格については国際的な標準化団体で立ち上げられているところであり、産業用IoT、輸送分野向けIoT、さらには家庭用IoTを含む、IoT分野などで、目を見張るような新たな応用を可能にするだろう。米国は、日本をはじめとした同志国との、6Gに関する研究・開発協力の強化を期待している。それを通じて確実に、共通の民主主義の価値観と基準に沿って、これらのエンジニアリング標準規格が策定・実行され、また相互の国家安全保障を確保される。
その一方で、我々皆が経済的機会から利益を得られるようにしたいと考えている。5G及び6Gに関して、中国は、国際的な標準化団体において、非常に強硬的に活動を拡大しており、中国企業が占有するアルゴリズムや特許に有利な形での標準化を採択させようとしている。米国は、日本政府、そして日本の優れたエンジニア企業と協力し、6Gに関して標準化団体を操ろうとする中国の取り組みに対抗せねばならない。
── 英国とフランスは、ファーウェイ製品の排除を決めた。その一方、多くの日本企業、特に製造業では、中国の市場と機器・部品に頼るところが大きい。日本政府と日本企業に対して、期待することは何か?
日本政府は、自国の電気通信ネットワークにおいて、ファーウェイやZTEのような信用できない事業者の製品を使用することのリスクを十分承知している。
加えて(中国を排除した)「5Gクリーン・ネットワーク」を維持するため、電気通信事業者の選択にあたり、多くの欧州諸国よりも慎重な姿勢を示した。
その結果、日本の携帯電話事業者大手4社─NTTドコモ、楽天、ソフトバンク、KDDI─は、自社事業ではファーウェイ及びZTEの製品を使わないと断言できた。
米国政府は、同志国とともに、企業のサプライチェーンが中国に過剰集中していることに起因する、国家安全保障上の脆弱性を低減するための措置をとっている。
たとえば、世界最大の半導体製造工場である台湾のTSMCに中国ではなく米国内に次の最新製造施設を建設するよう説得することに貢献した。
日本の多国籍企業が生産ネットワークを中国以外へ展開させられるよう、日本政府は2450億円のファンドを立ち上げた。経済産業省は何年にもわたり、中国への生産拠点集中によるリスクを低減するための取り組みを行っている。
優れた日本企業には、中国以外の投資先として米国を加えることを勧めたい。そうすれば米国で、日本の重要な知的財産を守ることができる。』
『── 米国政府は在ヒューストン中国総領事館を閉鎖し、中国人従業員と学生が米国の企業や大学で諜報活動を行っていると指摘した。テクノロジー盗用のリスクを米国はどのように見ているか、またこのリスクにどのように対応するのか。
中国政府は、米国の雇用と国家安全保障を犠牲にし、自国の将来の経済成長と軍の近代化の原動力となる産業を手中に収めるため、全政府的アプローチを用いて、米国の知的財産を違法に入手している。
中国政府は、軍民両用の一連の主要テクノロジーを選定し、人民解放軍への所属を公にしている者も含む、中国の大学院研究者に米国、欧州、オーストラリア、日本の大学に留学し研究することを奨励している 。
米国は現在、米国で行う研究における機密技術関連プログラムから人民解放軍所属の大学院生を除外し、他の研究者に行わせようとしている。
中国は、ただ人民解放軍の増強のために知的財産を盗用しているわけではない。将来の産業全体を構築するために、他国のテクノロジーを使用しようとしている。
たとえば、中国国内の高速鉄道(HSR)網は、元々は日本とドイツのテクノロジーを取り入れて作られた。だが今や、中国企業は世界中のHSRの契約を独占しようとしている。
── 米国の中央情報局(CIA)と英国の秘密情報部(MI6)は、機密情報や諜報活動で得た情報を民間企業、大学ともやりとりしている。現時点では、日本にこれらに匹敵する情報機関は存在せず、それにより諜報活動への対策が遅れている。米国から何か日本への助言はあるか。
米国は、産業保全 、サイバーセキュリティ、また情報保全の法的枠組みを強化する、日本政府の取り組みを歓迎しており、こうした取り組みが情報共有の拡大につながることを期待している。
米国は、日本政府および米国企業と提携している日本企業と、経済安全保障や中国がもたらすリスクに関して、より多くの情報や政策アイデアを共有したいと考えている。
それを熱望していると言ってもいい。
これは特に量子計算、AI、自律走行車、医用生体工学、宇宙といった、新たなテクノロジー分野で求められており、米国は調査・研究において日本人専門家との協力を望んでいる。また、5Gの分野でも同じく、日本との連携を強化し、クリーンで、安全かつ信頼できる5Gネットワークの構築を日米両国のために推進していきたいと考えている。』