バイデン氏、難民申請を大幅制限 選挙にらみ大統領令

バイデン氏、難民申請を大幅制限 選挙にらみ大統領令
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『2024年6月5日 1:00 (2024年6月5日 5:16更新)

【ワシントン=芦塚智子】バイデン米大統領は4日、南西部のメキシコ国境から流入する不法越境者が一定数を超えた場合、国境封鎖に近い措置を可能にする大統領令を発表した。不法移民の増加は11月の大統領選の大きな争点の一つで、共和党の攻撃をかわし、無党派を取り込む狙いがある。

大統領令は米南西部の国境で1週間の不法越境者の数が1日平均2500人を超えると発効する。不法越境者は難民申請を受理せず、メキシコや本国に即時送還する。1日平均1500人を下回れば受理を再開する。単独で越境した子供や人身売買の犠牲者などは例外とする。

バイデン氏は演説で、事前に申請して検問所に来るなど、正規の手続きを取る者は引き続き難民申請が可能だと強調した。国境警備隊や難民審査にあたる職員らの増員に必要な予算の承認を議会に求めた。

「私は移民が国の血統を毒しているなどと言うことは決してしない。決して国境で子供を家族から引き離したり、信教を理由に入国を禁止したりしない」と述べ、大統領選での再対決が決まっているトランプ前大統領の発言や前政権の政策との違いを力説した。

2月に連邦議会上院が超党派で同様の内容の法案に合意したものの、野党・共和党の反対で可決できなかった経緯がある。

トランプ氏は上院で与野党が協議中だった1月、SNSに「いま合意すれば極左の民主党への贈り物になる。国境を安全にしたいなら、唯一の希望はトランプへの投票だ」と投稿。協議を棚上げするよう共和指導部に迫り、交渉は頓挫した。有権者の批判が強い国境問題を争点に残したい思惑があったとみられる。

バイデン氏は演説で「共和党議員は合意を破棄した。ドナルド・トランプがそうしろといったからだ」と述べ、共和とトランプ氏を批判した。「共和は私に選択の余地を与えなかった」と語り、大統領令を決断したのは共和の非協力のせいだと主張した。

大統領令の実効性には疑問の声もある。難民申請の権利を定めた連邦法に違反する可能性があり、人権団体は訴訟を起こす構えだ。前政権が2018年に同様の措置を導入した際には訴訟を受けて裁判所が施行を差し止めた。また議会の予算措置がなければ実行は困難との指摘もある。

こうした問題を承知で大統領令発表に踏み切った背景には、政権の国境政策への国民の不満の高まりがある。

米ギャラップ社が4月に実施した世論調査では、米国が直面する最も重要な問題として移民問題を挙げた米国民が27%と最も多く、経済やインフレを上回った。またAP通信の3月の世論調査によると、バイデン氏の国境政策を支持しない人が69%に上った。

トランプ氏は4日にSNSに投稿した動画で、バイデン氏の大統領令は「(不法移民の)侵略を悪化させる」とし、6月27日の大統領候補討論会を前にした「ショー」だと批判した。

バイデン氏がひそかに多数の不法移民に恩赦を与えており、各国で犯罪率が低下しているのは米国に犯罪者を送り込んでいるからだとの根拠のない主張を展開。「私は大統領就任初日に国境を封鎖し、侵略を止め、ジョー・バイデンの不法外国人を本国に送り返す」と強調した。

共和のジョンソン下院議長もX(旧ツイッター)で「(バイデン氏が)本当に開放状態の国境を懸念しているなら、ずっと前に行動していただろう」と述べ、大統領令は遅きに失したと非難した。

民主のリベラル派や人権団体も反発する。民主党左派のジャヤパル下院議員はXに「大統領令には非常に失望している」と投稿した。人権団体のアメリカ自由人権協会(ACLU)は「トランプ政権の難民入国禁止と同じ方法を取っている。法廷で争う」と表明した。

21年のバイデン政権発足後、不法移民が増加した。税関・国境取締局(CBP)の統計によると、4月にメキシコ国境付近で拘束された不法越境者の数は約18万人だった。30万人を突破し過去最多を更新した23年12月に比べると減ったが、依然として高い水準となっている。

不法入国した人々の多くは、米国内の保護施設に送られる。保護施設の収容能力が不足し、ニューヨークなどの主要都市では公共施設が使われる事態も起きた。

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