中国「月の裏」再着陸、安保に直結 資源情報や技術蓄積
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG30AQT0Q4A530C2000000/






(※ wikiより)
『2024年6月2日 17:00
世界で唯一、月の裏側に無人探査機を送り込んだ実績を持つ中国が、再び着陸に成功した。地球と通信しにくい裏側は、表側と比べ着陸の難度が高い。地球から見えにくく、中国が米国などに先行して資源などの情報を収集して基地を建設できれば、月面開発や安全保障において優位に立つ可能性がある。
中国の探査機「嫦娥(じょうが)6号」は5月3日、大型ロケット「長征5号」で打ち上げられた。月を周回する軌道に投入されたあと、周回機から切り離されて降下し、6月2日に裏側への着陸に成功した。岩石などの試料を採取して、探査機は6月下旬にも地球に戻る予定だ。月の裏側の試料を地球に持ち帰ることができれば、世界初となる。
月は地球の周りを約1カ月間かけて1周する間に、月自体も1回転するため、地球から見ると、いつも同じ面が表を向いている。探査機が月の表側に向かう場合は、地球と直接通信でき、地球から指示を出したり、探査機の状況を把握したりしやすい。
一方、裏側の場合は通信がしにくく、着陸が一層難しい。探査機と地球の通信を中継する衛星を事前に打ち上げて、運用する技術が必要となる。今回の着陸にあたって中国は3月に衛星「鵲橋(じゃっきょう)2号」を打ち上げて、地球と月の裏側で通信できるようにした。
中国は2013年に米国と旧ソ連に次ぐ3カ国目の月着陸に成功し、19年には世界で初めて裏側に着陸した。20年の「嫦娥5号」では、月の表側の砂や岩石を地球に持ち帰るサンプルリターンに成功した。
月は水などの資源が存在する可能性があり、人類が活動する拠点として使えるほか、より遠い火星などに進出するための足場にもなり得る。米国が有人月面探査「アルテミス計画」を打ち出して日本も参画する一方、中国は別に「国際月研究基地(ILRS)計画」を掲げる。
将来の基地建設に向けた地質調査をするため、世界各国は探査機を相次ぎ着陸させる計画だが、現状の主な競争の場は月の表側だ。中国が裏側を積極的に開拓するのはなぜか。
世界のどの国もなし遂げていない技術的、科学的な成果を出すことで国威発揚につなげるほか、月の開発を有利に進めるために裏側の資源などの情報を得る狙いがあるとみられる。
月には水資源のほかにも、核融合発電の燃料となる「ヘリウム3」や、建材などに使えるアルミニウムやチタンといった金属がある。ただ、資源がどのように分布しているかは、十分にわかっていない。
平らな地形が多い月の表に比べて、裏は凹凸が多く、隕石(いんせき)の衝突の跡がたくさん残されている。こうした地形の違いは資源にも影響を及ぼす。いち早く調査し、情報を得るメリットは大きい。
月での活動を含む宇宙関連の技術開発は安全保障にも直結する。宇宙はサイバーや電磁波と並び、安全保障の「新領域」の一つにあたる。「月の裏側」は宇宙の地政学的に重要な地位を占める可能性がある。
月の裏側は地球からは見えず、地球からの電波も届きにくい。中国が月の裏で何をしていても察知が難しい。日米欧は中国が月の裏側に軍事基地をつくろうとしているのではないかと警戒する。
中国の無人月面探査機「嫦娥6号」が着陸時に撮影したとする月の裏側の画像(中国国家宇宙局のサイトから、共同)
地球の上空を飛ぶ軍事衛星なら、戦争になれば地表からミサイルを撃って敵国の衛星を破壊できる。だが月の裏側にある構造物は地球から直接破壊することは困難だ。中国が米国などに先駆けて探査を進めることで月面を利用した安全保障で優位に立つ狙いがあるとみられる。
裏側への着陸を目指すなかで培う人工衛星のノウハウも、今後の武器となる。中国は衛星「鵲橋」シリーズを複数の異なる軌道上にそろえ、火星や金星にもネットワークを広げる構想を持つ。衛星網は宇宙領域の状況把握や資源調査にも欠かせない。まず月で通信環境を整えることは、月より遠くの宇宙開発に向けた足がかりとなる。
中国が月の裏側の探査で先行する中、日米陣営は民間の力も生かす。月面輸送サービスの構築を目指す日本のispace(アイスペース)は4月、小型人工衛星の製造を手掛ける米企業と中継用衛星の設計・製造で連携すると公表した。26年に裏側への探査機着陸を計画する。月の表と同様に、裏側でも探査競争が始まりそうだ。まずは中国が月の裏から試料を無事に持ち帰ることができるのかに注目が集まる。
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 宇宙開発は国家プロジェクトでやりやすい。あらゆる人材と巨額の資金を導入しやすいからである。月面着陸そのものの意味よりも、サンプルリターンに成功したことに重要な意味を持つ。次の目標は宇宙飛行士の月面着陸であるようだ。中国にとって宇宙開発のもう一つの意味は国威発揚である。自力更生で建設している宇宙ステーション「天宮」も完成しているようである。そこで行われるさまざまな科学的実験の結果が注目されよう。
2024年6月3日 6:54いいね
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鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察 月の裏側に構造物を作ると、どのような安全保障上の脅威となるのだろうか。将来、米国が月の裏側に行くことがあった場合、そこで米中の対立がある、という想定なのだろうか?月の裏側に軍事構造物が出来て、そこから地球に向かってミサイルを撃ってくるということなのだろうか?月の裏側に着陸することは困難だが、月の周回軌道に衛星を配置し、そこでどのような活動をしているかを監視することは可能(雲もないので定期的に監視できる)。これでも「月の裏側で何をしているかわからないから脅威である」となるのだろうか?
2024年6月2日 18:37いいね
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