ハイブリッド化する新興国政治 民主主義と権威主義併存
Polar Shift サウスの論理
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB299Y80Z20C24A5000000/


『2024年6月3日 5:00
グローバルサウスと呼ばれる新興国の間で、欧米型の自由な民主主義とは一線を画す「オルタナ(代替)民主主義」が広がっている。指導者が自らの正統性を主張するために選挙制度を整備しつつも、実質的に権威主義体制を続ける国が目立つ。
スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所は年次報告書「民主主義リポート2024」で世界各国・地域の政治体制を自由度の高い方から「自由民主主義」「選挙民主主義」「選挙権威主義」「閉鎖権威主義」の4つに分類する。
新興国で構成する国連の枠組み「77カ国グループ(G77)と中国」の134カ国のうち、データのある119カ国でみると、最新2023年時点で「選挙権威主義」が最多の45カ国を占めた。「閉鎖権威主義」は30カ国と、この数年で急増している。
選挙の仕組みが整っていても、野党が立候補する際に非公式で圧力を受けたり、政権の圧力でメディアの独立性が損なわれたりしている点が「自由民主主義」と異なる。
5年に1度の総選挙の投票を1日に終え、4日の開票を待つインドが代表例だ。野党指導者の一人で、モディ首相を「独裁者」と非難してきたデリー首都圏政府トップのケジリワル氏は汚職に関与した疑いで3月に逮捕された。ケジリワル氏の所属する庶民党(AAP)は不当な逮捕だと訴え、支持者からは「政治的陰謀」との声があがる。
モディ首相率いる与党・インド人民党本部の近くで抗議する野党・庶民党の党員ら(5月、ニューデリー)=ロイター
7月に大統領選が開かれる南米ベネズエラでは野党候補者が選挙への候補者登録ができない事態が発生した。公正な選挙の実施を条件に経済制裁を緩和していた米国は4月、制裁を復活させた。
V-Dem研究所で23年まで「民主主義リポート」の作成に携わった早稲田大学高等研究所の佐藤祐子講師は「民主主義と権威主義の両面を兼ね備えた『ハイブリッド型』体制は冷戦後の西欧諸国の支援の中で増えた」と指摘する。
先進国は新興国に融資や経済的援助を実施する際に、選挙制度の整備や財政規律の順守といったコンディショナリティー(条件)を要求してきた。これに応じて、新興国側でも支援を受けるために選挙など形式を整える動きが広がった。ただ、自らの正統性を強調したい権威主義的な政治指導者に選挙制度が利用されたケースも多い。
近年は選挙実施などの見返りを求めない中国やロシアによる新興国支援も広がる。無条件の支援が独裁色の強い政治体制を許容し、権威主義体制の復活を招いている側面がある。
ハンガリーのオルバン首相㊨は中国との関係を強化する(5月、ブダペスト)=ロイター
権威主義化に対する反発も起きている。東欧のハンガリーでは強権的なオルバン政権に対する市民の抗議活動が強まっており、ポーランドでは23年12月に8年ぶりの政権交代が実現した。
一方、自由な民主主義を理念に掲げてきた欧米諸国も曲がり角にある。V-Dem研究所が調査する179カ国・地域のうち、「自由民主主義」に分類されるのは23年時点で32カ国となり、約30年ぶりに4つの政治体制のなかで最下位に転落した。
特に不安視されるのがソーシャルメディアの存在だ。米国のトランプ前大統領や欧州の極右政党のように国民が抱える経済的な不満や移民増加への不安をあおり、分断を助長する主張が各国で目立つようになってきた。
偽情報を流したり、過激なメッセージで支持を集めたりと、民主主義に逆行する流れに警戒が広がる。早大の佐藤氏は「表現の自由を認めているからこその民主主義体制の弱点であり、最終的には国民のリテラシーが問われる課題だ」と指摘する。
(犬嶋瑛、五艘志織)
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