エクスカリバー砲弾の命中率、2023年8月までに55%から6%に低下

エクスカリバー砲弾の命中率、2023年8月までに55%から6%に低下
https://grandfleet.info/us-related/excalibur-shell-accuracy-will-drop-from-55-to-6-by-august-2023/

『2024.05.26

Washington Postは「米国製のGPS誘導兵器はロシア軍の妨害技術に耐えられず、ウクライナ軍は一部兵器の使用を中止せざるを得なかった」と報じたが、New York Timesも25日「エクスカリバー砲弾の命中率は55%から6%に低下した」と報じた。

参考:Some U.S. Weapons Stymied by Russian Jamming in Ukraine
敵が無能でない限り「想定された効果」は投入直後から失われて行く

Washington Postは24日、入手したウクライナの機密資料を引用して「米国製のGPS誘導兵器はロシア軍の妨害技術に耐えられず、ウクライナ軍は一部兵器の使用を中止せざるを得なかった」

「GPS誘導のエクスカリバー砲弾は戦場で有効性を示し、2023年初頭までの命中率は50%以上だったが数ヶ月後には10%以下に低下してエクスカリバー砲弾の供給を停止した」と報じていたが、New York Timesも25日「エクスカリバー砲弾の命中率は55%から6%まで低下し、ロシア軍の電子妨害によって事実上無力化された」と報じている。

出典:U.S. Army Reserve photo by 1st Sgt. Michel Sauret

2022年12月から2023年8月までにM777から発射されたエクスカリバー砲弾は約3,000発で、静的目標に対して55%の命中率を誇ったものの、昨年夏の反攻作戦がピークに達した7月までに7%、8月には6%まで低下し、この報告書に詳しい人物は「エクスカリバー砲弾を19発発射して得られた命中弾が1発の時もあった」と、第45砲兵旅団の指揮官も「エクスカリバー砲弾の性能は非常に好評だったが、命中精度に問題が生じたため、第45旅団では2023年初頭までに使用を中止した」「その代わりに目標を破壊するため多数の弾薬が必要となる通常砲弾を使用した」と述べた。

ロシア軍は精密誘導兵器の攻撃対象になる静的目標の周囲に電子戦システムを配備しており、このシステムについて英国王立防衛安全保障研究所のアナリストは「エクスカリバー砲弾を目標に誘導するGPS誘導をかき消してしまうほどの妨害電波を飛ばしている」と指摘した。

GPS誘導のJDAM、HIMARSで使用するロケット弾、GLSDBも妨害電波の影響を受けており、ウクライナのシンクタンク(Center for Defense Strategies)も「ウクライナ軍はGLSDBの戦場配備を中止した」と明かした。

出典:SAAB GLSDB

Hudson Instituteのアナリストは「電子戦分野におけるロシア側の適応スピードが上がっているため、ウクライナにおける電波技術のライフサイクルは3ヶ月ほどしかない」

「新しいシステムの効果が最大限発揮されるのは対抗策が登場するまでの2週間程度だ」と述べ、

New York Timesは「兵器システム側の適応力が欠如すると直ぐに戦場で効果を失うとエクスカリバー砲弾の経験が示唆しており、Hudson Instituteのアナリストは迅速な戦場の変化に適応できるだけの対応力と俊敏性の文化を育成するよう国防総省に促した」と報じている。

つまり兵器システムの性能や効果は固定されたものではなく相対的なもので、敵が無能でない限り「想定された効果」は投入直後から失われて行くため「作りっぱなしの兵器システム」では役に立たず、敵を打ち負かすまで「適応作業を延々と繰り返さなければならない」という意味だ。

勿論、登場した兵器システムに対する適応とは電子戦技術だけを指しているのではなく、運用、戦術、対抗技術など広い意味のでの適応力のことだ。

関連記事:戦争は適応力の勝負、現在効果を発揮している兵器も1年後に効果が減少
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※アイキャッチ画像の出典:Photo by Catherine Deran
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 58 』

『 つぐみ
2024年 5月 26日

返信 引用 

ロシア軍って2024年現在で世界で最も強いと言わずとも、世界で最も洗練された軍隊と言っても過言ではないと思うんですけど、実際のところどうなんでしょうね。

欧米諸国はロシアを疲弊させる当初の目論見が外れたどころか、むしろ強靭な軍事国家を育てるのに寄与してしまったのだと自己反省すべきでなかろうか。
54

    名無し
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

砲兵戦力はまず文句無しで世界トップレベルでしょうね
更に実戦でのドローン運用の練度とドローン運用数、そのドローンと砲兵火力やミサイル発射プラットフォームとの連携面でもトップレベルと言っていいでしょうね。
51
    たむごん
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

仰る通りと思います。
単純に陸軍戦力だけれ見れば、アメリカよりも強いかもしれません。

アメリカは、弾薬生産量が年間100万発の増産に手間取っていますし、各種ミサイルも価格高騰で苦しくなっています。

(2023.09.16米国の155mm砲弾増産、2025会計年度までに月10万発を達成する 航空万能論)
(2024.01.19 安価な無人機やミサイルの迎撃コスト問題、米海軍も紅海でジレンマに直面 航空万能論) 』

『 サンイ
2024年 5月 27日

返信 引用 

結局、第一次湾岸戦争以降、アメリカや西側が目指した、テクノロジーで物量を補おうというドクトリンは、大国間同士の戦争には通用しないということ。総力戦を戦う上で、国力や地理的条件からもロシアに残念ながら分がある戦いだと思います。
45

    ガーネット・シルク
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

まぁ、だって大国間同士の戦争の起こらないと思ってたしね。  ここ居る人たちや軍事の専門家や本職の人たちですら、まさかホントにロシアがウクライナに攻め込んで、ズルズルと戦争するなんて思ってなかったしな。 実際問題、マトモな判断力がある国家元首ならこんなことしないし、プーチン(の思考)があまりに規格外だったからね。 

侵攻開始直後ですら、キエフどころか主要都市殆ど取れなくて、ここまでコテンパンにされて、ありとあらゆる制裁くらいまくったら、さすがのロシアの折れて引き返すだろ。って思ってたしね。 戦争が1年くらい続いて、あっこれ意固地になって絶対引かないパターンだ…って世界が薄々気づきはじめてるからね。 今はもう確信に近く、互いがソ・フィン戦争みたいに国力がスッカラカンにまでやるんだろうなって目で見てるよね。
9
          
        2024年 5月 27日
        返信 引用 

     西側の動きを全然見ていない。なぜプーチンのキャラクターのみで説明するのか。
     NATO拡大論じゃプーチン嫌いのバイデンが大統領になって確率が爆上がり。
     クリミアを奪還するためのクリミアプラットフォーム作って、ウクライナの軍事支援強化して、ドンバス紛争活性化した段階で、バイデンが引かない限り戦争なんだよね。
     ウクライナがドンバスを武力で制圧した後は、経済制裁とクリミア侵攻があるわけだから。
     プーチンから見れば、受けか先に手を打つかの選択肢なんだよ。
     西側は相手のリアクションを考えない正義病だよ。
    33
            名無し
            2024年 5月 27日
            返信 引用 

        ロシアのプロパガンダを右から左というのも、芸がないですね
        5 』

『 ろみ
2024年 5月 27日

返信 引用 

ATACMSは弾道弾なので終末誘導段階でしかGPS誘導を使わず突入速度も速いので電波妨害に晒される時間が短いのが理由と思われます。

ただATACMSの発射とされる映像は10発以上まとめて発射してるのに実際に着弾する時は2、3発にまで減っている事から電波妨害よりも被迎撃率の高さが目立つ印象があるので対策しなければ数ヵ月で適応されてしまうというのは他の兵器と変わらないでしょうね。
20

    M
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

数が少ないからロシアが適応するより先に撃ち尽くすのが早そうだけどね
9
    T.T
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

ATACMSが比較的戦果を挙げているように見えますが、妨害を受けにくいのと飽和攻撃の成果って感じですかね。

実際S-400の同時対処能力は単独では6目標とされていますから、10発撃ち込めば迎撃を突破出来る公算は高い。
3 』

『 58式素人
2024年 5月 27日

返信 引用 

翼安定式砲弾は誘導を切ると砲撃精度はあてにできないのでしょうね。

少し前の記事で有った、妨害電波発生源にホーミングされる弾頭を
GPS誘導砲弾に先立って多数打ち込んでおかないとでしょうか。

誘導が切れること(無誘導)を想定するなら、別のことを考えないと。

無誘導で撃つなら、翼安定でなく、旋動でないとでしょうか。
元々、砲身には施条をしているのですから。

RAP弾がありますが、これでは未だ射程が不足するのでしょう。
となると、ラムジェット方式の旋動翼安定式が開発されるのかな。
誘導するなら、弾頭部分を旋動をキャンセルする形で何かを付けるのでしょうか。
APKWのそれのように。

    バーナーキング
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

噴進は(慣性誘導を考慮しても)翼安定よりはるかに静安定を損ねるかと。
4
    58式素人
    2024年 5月 27日
    返信 引用 

滑空以外で射程を延ばすには、何らかの噴進が必要では、と思います。
安定方法は、ハイドラ70のように折り畳み尾翼で旋動を維持することを想像しました。
ハイドラ70の尾翼は、空気抵抗で2,100rpmの回転を与えるそうです。
噴進終了後も飛行中は必要な旋動維持が期待できないかな、と想像します。

        バーナーキング
        2024年 5月 27日
        返信 引用 

    元々下手な鉄砲数打ちゃ当たる式のばら撒きロケット弾なのに、そこまでしても10km足らずの射程一杯だと命中率が低過ぎる、とテコ入れ入ってる、ってのが答えかと。
    3 』