ウクライナ空軍の「ミグ29」戦闘機は、誘導爆弾である「GBU-39」、すなわちSDB(細径爆弾)を、…。
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『Defense Express の2024-5-27記事「GLSDB is Affected by EW But Air-Launched SDB is Not, Even Though it’s the Same GBU-39: Why So」。
ウクライナ空軍の「ミグ29」戦闘機は、誘導爆弾である「GBU-39」、すなわちSDB(細径爆弾)を、露軍の標的に対して普通に運用できている。
それに比し、陸上から細径爆弾をロケット投射するグライダー兵器であるGLSDBは、露軍のEWにやられてしまい、全くまともに機能していない。
この違いは、何によるのか?
GLSDBは、SDB(=GBU-39)に「M26」ロケットをとりつけて、HIMARSをラーンチャーとして地上から投射するものである。
理由は単純である。
2種の兵器には誘導方式の違いはない。どっちもGPSに依存している。
だが、GLSDBは、レンジが最大150kmしかないから、それがターゲットにできる敵の目標は、最前線から130km~120kmくらいの間合いに所在するモノに限られる。
往々、そのターゲットは、弾薬デポ、燃料デポ、指揮センター、通信結節点である。
露軍としては、とうぜん、宇軍からの攻撃を予期する。そこには徹底的に分厚いEW機材を据えて待ち構えているのだ。
GLSDBは、ジャミングが強力だった場合、自動でINS誘導にきりかわる。
しかしその設定は発射前にインプットされたものだから、距離や時間に応じて狂いが積み重なる。けっきょくINSだけでは、着弾点が目標から30m~50mくらい逸れてしまう。
GBU-39は全重が93kgで、充填炸薬量は36kgである。この爆発威力では、30mの誤差を補うことは難しい。
ペンタゴンのディフェンス・タクティカル・インフォメーション・センターが公表している数値。SDBを高度1万2000mの亜音速戦闘機からリリースすると、水平飛距離は92kmである。また、高度1万5000mからリリースすれば、水平着弾距離は137kmに達する。
しかしながら、S-400の脅威があるウクライナ戦線では、宇軍戦闘機はそんな高々度を飛ぶわけにいかない。
必然的に宇軍のミグ29は、低空から最前線へアプローチし、投射前の一瞬だけ急上昇して、「トス爆撃」を試みるしかない。
その場合のSDBのレンジについての確かなデータは公表されていない。
そこでJDAM-ERの数値を参照する。
JDAM-ERは、オーストラリアが1977年から開発開始した「Kerkanya」有翼爆弾の直系子孫だ。豪州空軍は、その爆弾を高度600mからトス爆撃したら、水平着弾距離が3倍になったと言っている。そこから推定して、JDAM-ERを低空からトス爆撃した場合の水平飛翔距離は30kmだろう。
敵のAAを考慮して、安全のための数kmを差し引けば、現実的には、宇軍の「ミグ29」は、爆撃目標から20km~25km手前でSDBをリリースしているのだと考えられる。
この短かい距離であれば、INSはそんなに狂わない。敵のEWにさらされる時間も短いので、GPSの狂いもそれほどには蓄積されないだろう。
だから、SDBのほうは、当たっているのだろう。
ちなみに本家の米軍のほうは、GBU-39を「GBU-53/B」(=ストームブレーカー、別名SDB II )で更新中なので、とっくに課題も乗り越えられているのであろう。』