欧米劣勢のナラティブ戦 企業も不可避、21世紀のリスク

欧米劣勢のナラティブ戦 企業も不可避、21世紀のリスク
編集委員 阿部哲也
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN222WX0S4A520C2000000/

『2024年5月26日 11:30

公の場で何度も言うのだから、それだけ危機感が強いのだろう。

イエレン米財務長官は21日、ドイツのフランクフルトで講演し、こう力を込めた。「中国の産業政策はここにいる我々には一見、縁遠く感じられます。しかし戦略的かつ団結して対応しなければ、米欧および世界中の企業の存続が危うくなるのです」

電気自動車(EV)、バッテリー、鉄鋼、太陽光パネル……。同氏の念頭にあるのは中国が輸出攻勢を強める製品群である…

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『電気自動車(EV)、バッテリー、鉄鋼、太陽光パネル……。同氏の念頭にあるのは中国が輸出攻勢を強める製品群である。

国内過剰生産のはけ口として安価な製品を大量に送り出し、貿易や各国の関連産業を損ねている。4月の訪中時にも同じ懸念を示した。』

『しかし賛同する国々はどれほどあるのだろう。

国際社会ではいま、欧米が「ナラティブ戦」で劣勢に追い込まれつつあるという認識が広がる。

物語性、語りの戦いを意味する。「ナラティブとは自分たちの世界や役割とは何か、そして自分が何をなすべきか、人々が自らに問いかける物語である」。国際政治学者で米ジョンズ・ホプキンス大学のダニエル・デュードニー教授らは定義する。』

『典型は中東情勢を巡る国際世論だ。

国際刑事裁判所(ICC)が戦争犯罪などの疑いで、イスラエルのネタニヤフ首相らの逮捕状を請求すると発表した。中東やアフリカの一部、さらにはフランスなど欧州内部からも支持や理解の声が広がる。

バイデン米大統領が「言語道断だ」と非難しても、世界には響かない。

SNSでは若者らが反イスラエルの声をあげる。背後にロシアや中国の情報工作を指摘する向きも多いが、本質はもっと違うところにある。』

『バイデン米大統領が「言語道断だ」と非難しても、世界には響かない。

SNSでは若者らが反イスラエルの声をあげる。背後にロシアや中国の情報工作を指摘する向きも多いが、本質はもっと違うところにある。

1989年にベルリンの壁が打ち倒され、91年には旧ソビエト連邦が崩壊した。共産主義に競り勝った欧米流の民主主義と自由経済こそ、世界を安定させる無二のシステムであり、各国にも広げるべきだ。そんなナラティブが定説となっていた。』

『きっかけの一つはオバマ元米大統領の一言だろう。2013年にシリア内戦をめぐる演説で「米国は世界の警察官ではない」と宣言した。最強国としての米国の物語性が揺らいだ。
直前には米国発の金融危機が起き、強欲資本主義への疑心も高まっていた。米国は憧れの対象ではなく、むしろ格差や搾取を世界に振りまいていると批判が広がった。』

『ちょうど中国が台頭し始めた時期でもある。そして足元ではグローバルサウスが主役に躍り出る。代表格のインドを率いるモディ首相はかねて欧米主導の世界秩序への不満を隠さないでいる。』

『企業も価値観の大変動と無関係ではいられない。イエレン氏が警戒する中国発の製品は世界を危うくするどころか、各国で受け入れられているのだ。

たとえば比亜迪(BYD)だ。ハンガリー、ウズベキスタン、タイ、インドネシアと次々に拠点を拡張し、トヨタ自動車が数十年を要した世界進出をわずか数年でなし遂げた。

「電池材開発などに伴う汚染を新興国に押しつけ、先進国だけがきれいになっている」。背後では語りが広がる。』

『21世紀のこれからは欧米目線だけでは足をすくわれかねない。なにより当の米企業が危うい。

「このグループの目的はイスラエルが有利になるよう、ナラティブを変えることにある」
米紙ワシントン・ポストによると、米国の著名な経営者や投資家らがグループチャットでこうした謀議を重ねていた。ニューヨーク市長にコロンビア大学の学生デモを警官隊でつぶすようけしかけたとされる。

こうした情報が漏れ伝わること自体がナラティブ戦でもあるが、要は欧米側が自責点を重ねているのだ。「欧米流」を前面にした経営には逆風が吹く時代になった。

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