[FT]中ロの結束、揺るがぬ構造 静かな緊張、水面下潜む
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB230O40T20C24A5000000/
『2024年5月24日 0:00
米国の元国務長官である故ヘンリー・キッシンジャー氏が、外交の天才としての名声を確立したとりわけ大きな成果の一つが1970年代前半の米中の和解だった。
交渉は徹底して秘密裏に進められ、やがて世界を驚かせた中国との国交正常化に向けた米国の動きは、冷戦の力学を一変させた。ソ連は突如として孤立を深めていった。
その記憶は今も国際政治に影を落としている。ロシアが2022年2月にウクライナに本格的な侵略をし…
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『だがロシアを中国から引き離すという具体性を欠く議論は、どちらの国に接近するべきかについての意見の相違を見過ごしている。
多くの欧州諸国は、ウクライナを巡ってプーチン氏に厳しい態度を取るよう習氏を説得したいと考えている。つまり、彼らの狙いはロシアを孤立させることだ。
一方、米政府では長期的な敵対国としては中国の方が危険だというのが一致した見解だ。米国の戦略家の中には、ロシアが中国に取り込まれれば世界の勢力バランスが中国にとって有利になると懸念する人もいる。キッシンジャー氏も長年にわたって中国を称賛はしていたが、個人的にはこうした見方をしていたようだ。
同氏は亡くなる直前、筆者に対し、弱体化したロシアが中国の事実上の衛星国となれば、その結果として、中国の勢力範囲がポーランドの首都ワルシャワから東に数百マイルのところまで拡大するのを懸念していると語っていた。
理屈の上では、ロシアと中国が再び分断するよう画策することは、こうした不安の解決策となるだろう。だが残念ながら、そのような地政学的な動きが実際に実現する可能性は少なくとも当面の間は極めて低い。』
『16〜17日に北京を訪問したプーチン氏に対する温かい歓迎は、中ロ関係が永続的で強固であることを物語っている。
習氏とプーチン氏の結束が今も強いのは、共通の世界観に基づいているからだ。両者はともに米国を主な脅威とみなす独裁的な国家主義者だ。プーチン氏の訪中時に発表された共同声明で両者は、米国がロシアと中国を標的とした「二重の封じ込め」政策を追求しており、「覇権主義的」な行動をしていると非難した。』
『ロシアと中国は、米国が敵対的な軍事同盟によって自国を包囲しようとしていると考えている。その軍事同盟とは、欧州における北大西洋条約機構(NATO)であり、インド太平洋では日本や韓国、フィリピン、オーストラリアと米国との2国間同盟だ。
もちろん米国が欧州とアジアに多くの同盟国を持つ理由は、ロシアと中国がともに近隣諸国の多くに恐怖心を抱かせているからだ。プーチン氏と習氏はこの現実を認識したがらない。
代わりに彼らは、拡張主義の米国から自国を守っていると主張する。おそらく彼らは本当にそう思っているのだろう。』
『ロシアと中国は、それぞれの地域の米同盟国に疑念の目を向ける一方、互いを比較的信頼できる隣国とみなしている。中ロは長い国境を接しており、そのため中ロが友好関係を維持することは、米国と米国の同盟各国による「二重の封じ込め」を阻止するのに極めて重要だと考えられている。』
『中国からみれば、ロシアの敗北は中国を危険なまでに孤立させるリスクがある。中国のある外交官が皮肉を込めて語ったように、中国に対する米国の提案はこう要約できるだろう。
「あなたの一番緊密な友好国を倒す手助けをしてもらいたい、そしたら次はあなたを倒しにかかれる」――。 同様に、プーチン氏はロシアがウクライナで戦争を遂行するには、中国の支援が絶対に不可欠だと知っている。
この相互依存は、中ロ関係の根底にどんな緊張があろうと両国が結束し続けることを意味する。』
『それでも両国の間に緊張が存在することに疑いの余地はない。世界観は似ていても、ロシアと中国は地政学的にはまったく異なる状況にある。プーチン氏はロシアを西側諸国からのけ者扱いされる国家にしてしまった。対照的に中国は今も米国と欧州の最大の貿易相手国の一つであり続けている。
この違いが、中国が無謀だとみなすようなリスクをロシアが進んで取る理由だ。最近北京を訪れた筆者に対し、複数の中国人アナリストが、ロシアと北朝鮮の軍事関係がますます緊密になっていることに不安を感じていると語った。
懸念の一つが、ロシアが北朝鮮から砲弾を受け取る引き換えに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権と先端軍事技術を不用意に共有していることだという。』
『長期的にみればロシア政府は、自国が中国への依存を強めていること、さらには両国間の勢力バランスが崩れていることに不安を感じているはずだ。ロシア人は、19世紀にかなり領土が中国から割譲されたことを十分承知している。
だが中国は最近、地図上ではそうしたロシアのいくつかの都市を昔の中国名で記載するようになった。この変化にロシアが気づいていないはずがない。』
『こうした緊張の大半は、今は水面下にとどまっている。これは1971〜72年当時、中国とソ連の分裂が広く公になり、ニクソン米大統領(当時)とキッシンジャー氏が中国に接近する明らかなチャンスがあったときの状況とは決定的に異なる。
米国は70年代にそのチャンスをつかむため、中国の世界観に大きく譲歩する必要があった。台湾を巡る認識がその最たるものだ。
ロシアと中国の枢軸を西側諸国が今、再び分断するには、台湾については再度、あるいはウクライナを巡ってさらに難しい政策転換が必要になるだろう。だが、少なくとも現段階で米政府にそうした行動を起こす意欲はほとんどないだろう。
By Gideon Rachman
(2024年5月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』