【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33850
『2024年5月22日
ジョージアは、ロシアと同様の「外国の代理人」を取り締まる法案を推進し、5月14日同法案を可決した。首都トビリシでは抗議運動が大規模なデモに発展している。
法案が審議入りした際の4月17日付けワシントン・ポスト紙は、国内で大きな反発が生じていることを報じるとともに、同国の欧州連合(EU)加盟の障害となるのではないかと指摘する解説記事‘Georgia pushes Russian-style ‘foreign agent’ law, putting E.U. bid at risk’を掲載している。概要は次の通り。
ジョージアの法案にロシアのプーチン大統領の関与はあるのか?(代表撮影/AP/アフロ)
ジョージアの議会は、4月17日、非常に異論の多い「外国の代理人」を取り締まる法案を前進させた。この法案は、ロシアにおいて、政治的反対勢力をつぶすために用いられてきた法律と同様の内容のものである。
ジョージアでは、この法案は、大規模の街頭デモと非難を引き起こしたが、サロメ・ズラビシヴィリ大統領も同法案を非難している一人である。同大統領は、ジョージアの議会と政府を支配している政党「ジョージアの夢」には所属していない。
ズラビシヴィリ大統領をはじめとする同法案の批判者は、この法案自体、ロシアが背後にいて、外国の介入の手段となるものであり、ジョージアが申請しているEU加盟を困難にさせる狙いのものだとしている。「国民の意思に反してこの法案を進めようとすること自体が直接の挑発であり、ジョージアを不安定化させるロシアの戦略だ」と同大統領はXに投稿した。
同法案が成立すると、資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められる。ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれた。それには、2022年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」も含まれる。』
『ジョージア政府は、同法案はジョージアの政治から外国の影響力を排除するために必要だと主張している。一方、同法案については、親露派のオリガルヒであり、元首相で与党「ジョージアの夢」の実際上の指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの方針によって、政府がロシアの勢力圏に逆戻りしつつあり、EU加盟の計画を壊そうとしていることの現れではないかとの懸念が持たれている。ジョージアは、昨年、EU加盟候補国の地位を得たが、ブリュッセルでは、ジョージアが民主化に逆行するのではないかとの懸念がある。
* * *
大国間競争の中でのジョージアの存在
ロシア・ウクライナ戦争が進行する中、その先の地域情勢を考えると、ジョージアは、バルト三国、モルドバなどとともに要注目の国である。ジョージアは、ロシアの最南西部に接する位置にあり、カスピ海と黒海に挟まれた南コーカサス地域の一国である(黒海には面しているが、カスピ海には面していない)。北はカフカス山脈を経てロシアと、南は(東から)アゼルバイジャン、アルメニア、トルコと国境を接している。
現在の国際関係は大国間競争の時代と言われるが、そこに至るまで、ジョージアは何度か重要な契機となってきた。01年、米国で同時多発テロ事件が起こったとき、プーチン大統領は直ちにブッシュ大統領に電話をし、連帯の意を表明した。米露関係は懸案もあったが、穏やかな関係であった。
一方、07年、プーチン大統領は、ミュンヘン安全保障会議に出席し、米国を痛烈に批判した。その間、プーチンの西側への姿勢の変化をもたらしたのは、北大西洋条約機構(NATO)拡大、ミサイル防衛もさることながら、いくつかの旧ソ連諸国における、いわゆるカラー革命の影響が大きいと思われる。
特に、03年のジョージアのバラ革命、04年のウクライナのオレンジ革命によって、国境を接する隣国において、民衆の街頭行動によって政権が倒され、親西欧の政権が誕生したことは、プーチンに深刻な危機感を呼び起こしたであろう。
それだけに、ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止することは、プーチンにとっては至上命題となった。08年、それが議題となったブカレストで開催されたNATO首脳会議には、プーチンが自ら赴き、反対論をぶった。』
『賛否両論がぶつかり合った結果、同首脳会議の共同声明は「いつ」「どのように」は棚上げした上で、ウクライナとジョージアは「将来加盟国となるであろう」と記す玉虫色の決着となった。NATO加盟を目指したジョージアは不満であったが、これを阻止しようとしたロシアも不満であった。ロシア・ジョージア戦争が勃発したのはその4カ月後のことであった。
続く欧州とロシアとの複雑な関係
ジョージアはロシア・ジョージア戦争で敗北し、ロシアは「凍結された紛争」の南オセチアとアブハジアの独立を承認した。ジョージアでは、南オセチアに攻め込むことでロシアに介入の機会を与えたサーカシュヴィリ大統領が率いた「統一国民運動」は12年に政権を失い、政党「ジョージアの夢」が政権の座に就いた。「ジョージアの夢」は、ロシアと関係の深いオルガルヒのビジナ・イヴァニシヴィリが創設した政党である。
ジョージアでは、一方では欧米への接近、他方ではロシアとの宥和という二つの力学が複雑にぶつかり合っている。08年の戦争以来、ロシアとの外交関係は断絶しており、国民の多くが親欧米路線を支持している。「ジョージアの夢」の下、ジョージアはEUとNATOへの加盟を目指す一方で、ウクライナ侵攻についての制裁などの対応においては、ロシアを刺激しすぎないように注意を払ってきている。
そうした中での今回の「外国の代理人」法の可決である。ジョージアでは、同法の背後に「ジョージアの夢」の創設者であるイヴァニシヴィリの影を見ての懸念が持たれている。すなわち、同法は、ロシアへの宥和でありEU加盟を挫折させようとする試みであるとの懸念であり、民主主義の圧殺に繋がるとの懸念である。
ジョージアでは、今年10月に総選挙を控えている。「ジョージアの夢」においては、前記の対ロシア関係、対EU関係からの考慮に加え、選挙戦を有利にしたいとの考慮も働いているのであろう。
NGO、メディアなどの影響力を考えると、外国からの資金は、政権与党の行動を監視する方向に使われることが多いと考えられる。ジョージアは、12年に総選挙によって政権交代が行われた国であるが、「外国の代理人」法の可決は、同国で民主主義が実質的に機能し続けるのかどうかに大きく関わるものとして注視される。』