東南アジアの鉄道網、工費膨張恐れ 中国計画に債務の罠

東南アジアの鉄道網、工費膨張恐れ 中国計画に債務の罠
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS188PN0Y4A410C2000000/

『東南アジアで中国主導の鉄道計画に懸念が高まっている。

中国は自国内陸部とインド太平洋を結ぶ物流網の確保を目指し新計画を相次ぎ打ち出すが、工期や採算性で見通しの甘さが指摘される。

対外債務が膨張すれば、中国にインフラ権益を渡す「債務の罠(わな)」に陥る恐れもある。

「交通インフラは、ベトナムの開発戦略における戦略的突破口の一つだ」。ベトナムのグエン・チー・ズン計画投資相は3月下旬、訪問先の中国で熱弁を…

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『中国雲南省と接続するラオカイ駅(ラオカイ省)を起点に首都ハノイ市や港湾都市ハイフォン市を経由して世界自然遺産があるハロン駅(クアンニン省)につながるルートだ。既存鉄道を改良して高速化する。設計速度は貨物列車で時速80〜120キロメートルという。

地元メディアによると、ラオカイ―ハイフォン間は年728万トンの貨物需要が見込まれ、投資額は約100兆ドン(6000億円)に上る。ベトナム北部と中国南部にまたがる経済圏構想「二回廊一経済圏」の一環で、政府は30年までの着工をめざす。

ラオスの首都ビエンチャンと中国南部を結ぶ中国ラオス鉄道も延伸される。カンボジアメディアなどによると、同国政府は3月下旬までに国内の鉄道網の整備やラオスにつながる高速鉄道の敷設に向けて現地調査すると決めた。

中国ラオス鉄道は21年に開業し、中国が大半を出資する企業が調査を担う。カンボジアには首都プノンペンと南部シアヌークビルやタイ国境のポイペトを結ぶ2路線があり、これらの路線網への接続を軸に検討するもようだ。

中国は広域経済圏構想「一帯一路」の一環で域内各地で鉄道や空港などのインフラを整備し、多くの事業に融資している。中国ラオス鉄道は総事業費のおよそ7割を中国輸出入銀行からの有利子負債でまかなった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)ビエンチャン事務所の山田健一郎氏は「カンボジア・ラオスは資金力に乏しく、両国が接続する際には中国が融資する可能性が高い」と指摘する。

東南アジアで中国による鉄道計画が相次ぐのは、港湾へのルートを確保して物流を拡大したい中国と鉄道をテコに自国の経済発展を図りたい域内各国の思惑が一致しているためだ。

ベトナム北部では中国勢による大型投資が目立つ。中国(香港含む)からの直接投資はベトナム全土で91億ドル(1兆4000億円)と他国を圧倒する。製造した工業製品を世界各地に送り出すのが、北部最大のハイフォン港だ。同港は二回廊一経済圏の要になる。

ラオスと中国の貿易も拡大傾向にある。鉄道による両国の23年1〜9月の輸出入量は前年同期比2.4倍の310万㌧に達した。取扱品目数(23年12月時点)は開業前の100倍超の2700に増えた。

ミャンマーでは中国国境の北部ムセから同国第2の都市マンダレーまでの鉄道を建設し、西部のチャウピューまで延ばす構想を掲げる。ムセ・マンダレー間の総事業費の見積もりは80億㌦超とされ、国内で実権を握るミャンマー国軍は中国から資金調達する考えを示す。

もっとも、中国主導の鉄道計画には見通しの甘さもみられる。

豪シンクタンク、ロウイー研究所によると、中国は一帯一路に関して東南アジアで援助を約束した15〜21年のインフラ事業のうち6割強の547億㌦(約8兆4000億円)を履行しなかった。政情不安や利害関係者との調整不足が主な原因だ。

一帯一路の主要事業の一つであるインドネシア高速鉄道の総工費は72億㌦と当初計画から3割ほど膨張した。工期延長や土地収用の難航が影響した。23年10月に開業したが首都移転計画のために利用者が見込みより減り、高速鉄道が利益を出すまでに40年かかるとの試算もある。

工費が計画外に膨らんだり、採算を見誤ったりすれば域内後発国は特に影響を受けかねない。

ラオスの対外公的債務は22年末時点で105億㌦程度と、国内総生産(GDP)比84%に達する。対外債務の半分を中国が占めるとされ、債務の返済が滞れば債務の罠に陥るとの懸念は根強い。

シンガポールの南洋理工大学の古賀慶准教授は「中国が東南アジアの主要路線を押さえれば、域内経済は中国依存を高めることになりかねない。経済力のない国々は政治的な影響も受けやすくなる可能性がある」と指摘する。

(バンコク=井上航介、ハノイ=新田祐司)

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