【「全面戦争」は回避しつつ面子は保つ・・・緻密に練られた報復の応酬】
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『4月1日、イスラエルによると思われるミサイルで、シリアの首都ダマスカスにあるイランの大使館施設が攻撃され、イラン革命防衛隊の司令官が死亡。
これを受けての13~14日のイランによるイスラエル本土攻撃、更に、19日のイスラエルによるイランの核開発の中心地域への精密攻撃という報復の応酬は、これまでの支援組織などを使った「影の戦争」が「国家間の戦争」にエスカレートする危険を世界に知らしめました。
しかし一方で、「国家間の戦争」のリスクは当事者であるイラン・イスラエルが一番真剣に認識しているところで、今回の報復の応酬は、そうした全面戦争に発展するリスクを極力排除しつつ、国内外に対し自国の面子を保てる攻撃を行うという、“緻密に練られた”シナリオを基づくものでもありました。
*****【緻密に練られたチキンレース】イランとイスラエルの報復合戦でも「全面戦争」は回避****
米国と秘密接触し事前通告
イランの動きはイスラエルとの全面戦争も辞さないというギャンブル的な振る舞いのように見えるが、実際には水面下で周到な根回しとしたたかな計算をしているのも事実だ。それはイスラエルの後ろ盾である米国との秘密接触を重ねていたことに表れている。
ベイルート筋などによると、イランはカタールやオマーンで行われているパレスチナ自治区ガザの停戦交渉を利用、米側と秘密接触を続けていたもようだ。イスラエル攻撃の数日前には、攻撃に踏み切ることを米側に伝え、攻撃直前にも最終通告していたという。
大半の攻撃は砂漠など過疎地域を狙ったもので、時間のかかる無人機を弾道ミサイルの前に先行発射し、迎撃の準備を与えた。米側は秘密接触について否定している。
イスラエルはイランのミサイルや無人機の99%を撃墜したと発表したが、その裏には米英仏軍とヨルダンも参加した防衛作戦があった。サウジアラビアなども米国を通してイスラエルに情報提供したようだ。
米軍だけで70発以上を撃墜したが、イラン側の事前通告がなければ、イスラエルの防空網がいかに優れていても、これほどの成果は挙げられなかっただろう。
イスラエル、精密攻撃で警告
イスラエルはイランのミサイル攻撃にどう反撃するか、迷いに迷った。戦時内閣では、ガンツ元国防相らがイランへの速やかな反撃を主張、これにガラント国防相らが米国との調整が必要だとして反対し、対イラン最強硬派のネタニヤフ首相はなかなか決断できなかった。
イスラエルはイスラム組織ハマスとのガザ戦争を抱え、住民ら約150万人が避難する南部ラファへの侵攻準備を進めている。北方のレバノン国境ではヒズボラとの交戦が激化しており、いまイランと全面戦争に突入する余裕は事実上ない状況だ。頼みの綱は米国のバイデン政権だった。
だが、パレスチナ住民の犠牲を顧みないイスラエルのやり方を批判してきたバイデン大統領はネタニヤフ首相との会談で、イラン攻撃に「米国が加担しない」ことを通告、自制を強く要求した。首相は米国から支援が得られないこともあって大規模攻撃を断念、限定的な攻撃にとどめる決断を余儀なくされた。
イスラエルが選択したのはイランの“虎の子”の核施設周辺を攻撃し、「いつでも破壊できる」と警告することだった。イラン側の再報復を招かないよう損害を最小限に抑えながら、イランにイスラエルの高度な軍事力を見せつけ、直接攻撃を繰り返させない戦略だ。
イスラエルはナタンズの核施設を守る防衛システムを精密攻撃して実証した。
イスラエルはこの攻撃については一切発表していない。米国もブリンケン国務長官が「米国は攻撃には一切関与していない」と発言しただけで、ホワイトハウスは政府内に厳重なかん口令を敷いた。イランを刺激しないためだ。ガザ戦争で国際的に孤立していたイスラエルのイメージは改善、米下院は20日、約4兆円に上るイスラエル支援の緊急予算案を可決した。
攻撃をないものにしたイラン
現地メディアなどによると、イスラエルは4月19日未明、14日のイランのミサイル攻撃の反撃として、イラン中部イスファハン州の「第8シエカリ空軍基地」にミサイル3発を撃ち込んだ。ドローン(無人機)も攻撃に参加した。ミサイルのうち少なくとも1発は空軍機から発射されたという。
この攻撃でイラン側のS300対空レーダーシステムが破壊された。
イスファハン州はイランのミサイルなどの兵器生産の拠点であり、ナタンズにはイラン核開発の中核施設がある。このレーダーシステムはこうした重要施設を防衛するためのものだったが、攻撃を全く探知できなかった。
特筆されるべきはイスラエルの攻撃に対するイラン側の対応だ。
国営メディアはイスファハン近郊で侵入した「不審物」を迎撃したと報じただけで、イスラエルの攻撃であることには言及していない。革命防衛隊に近いタスムニ通信はイスラエルの攻撃を「虚偽」だと否定さえした。(中略)
「イラン側はイスラエルの反撃をなかったものにしたいのだ。経済的な苦境の中、これ以上イスラエルと事を構えるのを避けたいのが本音。ハメネイ師ら指導部にとってはイスラエル本土を直接攻撃してみせることがなにより必要だった。目的を達成した今は幕引きを図るのに必死だ」(ベイルート筋)。
中東最大の軍事大国であるイスラエルを国家として攻撃したのは1991年の湾岸戦争時のイラク以来であり、イランがイスラエルや米国と対決する「抵抗枢軸」の旗頭として、軍事力の誇示に成功したのは確かだ。
イランの「代理人」であるレバノンのシーア派組織ヒズボラやイエメンのフーシ派などはあらためてイランへの信頼感を高めるとみられる。
なによりも「イランにはうかつに手は出せない」という抑止力をイスラエル側に植え付けた意味は大きい。短期的には「勝利者はイラン」と言えるのではないか。
だが、攻撃を受け、イランの通貨リアルは対ドルレートで最安値を付け、インフレも30%を超えたまま。経済的苦境はさらに深まった格好だ。
イスラエルとアラブの和解の流れ加速も
イランとイスラエルは今回、互いの国土を直接攻撃したことで、これまでの「影の戦争」を国家同士の戦争へと変質させた。
衝突拡大には至っていないが、偶発的なきっかけで全面戦争に突入しかねない「ガラスの均衡」と言える。ガザ戦争が終結しない限り、イスラエルとヒズボラの交戦は当面続くだろう。
一方でアラブ世界には負の副産物も生まれた。イランへの恐怖心である。
ペルシャ湾岸諸国はイランの革命輸出を恐れ、それがイスラエルとの和解の一因となった。ガザ戦争の長期化でイスラエルへの忌避感が高まっていたが、イランのミサイル攻撃で潮目が変わった。
アラブの盟主であるサウジがイスラエルとの和解の気運を加速するかもしれない。
【4月24日 WEDGE(文章の順序を変更して再構成しました)】』