成長したい男、変身したい女
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『 女と男はなぜすれ違うのか? なぜ話が合わないのか? あの人はいったい何を考えているのか? どうしてあんなことを言ったのか? この連載では、今、職場で起きているリアルな「女と男の探り合い」を、社会心理や生声エピソードなど、さまざまな視点からひもといていきます。
男は「成長」が大好き
以前、ある勉強会に参加したところ、20代の参加者(男性)が「今の職場環境はとても成長できるから、満足している」「日々、成長できている実感がある」と、しきりに「成長」という言葉を繰り返していたのが印象に残っています。
彼は有名大学を出てそのまま経営コンサルタントになったエリート。いつも前に進んでいないと、気がすまないような、セカセカとした雰囲気を醸し出していました(話し方も早口)。
彼だけでなく、男性は「成長」という言葉が大好きです。
昨日より今日、今日より明日、何かが大きくなっていく、強くなっていくことが楽しくて仕方ない。筋トレが好きなのも男性ですし、ぐいぐいと会社を急拡大しようとするのも、男性経営者の特徴です。
このあたりも「男は野球、女はままごと」が現れているのかもしれません。部活でもスポーツでも、昨日できなかったことが今日できるのは、何よりもうれしいこと。成長、上達、発展が、とてつもない快楽になっているのでしょう。
「成長させてください」と会社に頼る若者
逆に言うと、現状に満足して充足感を味わうのを、よしとしない傾向もあるように思います。いつも自分を追い立てていて、「成長しなければ敗北あるのみ」というストーリーに酔いしれる。
就職活動をしている大学生男子からも、「成長できる環境に身を置きたい」というような声をしばしば聞きます。それはまるで「頑張れば自動的に成長できるようなシステムを、会社側に整えてほしい」という要求の裏返しのように聞こえて、会社からすれば、「君の成長のために、会社があるんじゃないからね、その前にきちんと貢献してね」と言いたくもなるでしょう。』
『女には「変身願望」がある
では一方の女性たちは皆、現状に満足しているかというと、そうではありません。男性の「成長」に対して、女性が本能的に抱いている欲求が「変身」です。
同じステージで成長するより、違うステージに移行、いやそれどころかゲームさえ変えて、まったく新しい自分にリセットしてしまいたいと考えるのが女性的な考え方です。自分に合った仕事を求めて転職、会社を辞めて海外留学、電撃結婚・妊娠などなど。
この背景にはいくつかの要因があります。
まずは、女性の人生の選択肢の多様さ。結婚の経験、子どもの有無、仕事とのかかわり方……と、女性は自分の選択によってまったく違う人生を歩むことができます。非常に選びがいのある人生ゲームですが、「結婚すればクリア」「子どもを2人産んだら勝ち」というような明確なルールもゴールもないため、いつまでたっても不安が残ります。
「もしもあのとき、仕事を辞めなかったら」「もし、あの人と結婚していたら」と、「あったかもしれないもうひとつの人生」を追い求め、他人をうらやんでしまうのです。
僕はこの欲求を「生き直し」と呼んでいます。そのため、ある日突然、周囲も驚くような転身ができてしまう。本人も「そんなつもりなかったんですけどね~」とあっけらかんとしています。』
『女が「変身」に慣れている理由
さすがに「白馬の王子様に救い出される」というストーリーを鵜呑みにする人は少なくなりましたが、それでも、結婚相手で人生が大きく変わる可能性は、男性よりも高いのも事実。「今はこんなだけど、いつか突然」という気持ちを捨て切れないのは、仕方のないところです。
そう考えると、小さい頃から慣れ親しんだ「ままごと」も、そこには影響しているのかもしれません。あるときはお母さん役を、あるときはお父さん役を、またあるときには、ペットと合わせてやすやすとひとり3役を演じなければならないのが、ままごとなのですから。男たちに比べて、変身慣れしていると言えるでしょう。
また、ヘアメイクやファッションで、毎日のように「プチ変身」を体験していることも、彼女たちに「いざとなったら変われる!」という自信を与えている要因です。到底、男性が理解できるものではありません。
ですからたとえば、異動していく女性社員には「新しい部署で力をつけて、再び戻ってきてほしい」という言い方よりも、「新天地では、自分でも気づかなかったような才能が見つかるかもしれない」という励まし方のほうが刺さるはず。
がむしゃらに成長を追い求める男と、まったく違う自分を夢見て変身を願う女。どちらがいい・悪いではありませんが、こうした「変わる」ことへの意識の差もまた、職場で男女がすれ違う原因のひとつです。
五百田 達成 作家、心理カウンセラー 』