ウクライナ、女性兵士4000人が前線に 北欧は徴兵議論
欧州安保「大転換」の現場④
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR16BWB0W4A410C2000000/
『2024年4月26日 5:00
「ほとんどの仕事は女性でもできるわ」。ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムト近郊。「クリス」というコールサインを持つクリスティーナ・メイヤーさん(30)はこの2年、大半の期間を衛生兵として前線近くで過ごしてきた。
「男が尻込みする仕事も」
前線では3〜4日ごとに最前線に掘られた塹壕(ざんごう)や救急医療拠点でほぼ寝ずの勤務に当たる。つらいのは気温が氷点下20度にも下がる冬だ。温度センサーを備え…
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『温度センサーを備えるロシア軍のドローン(無人機)の攻撃を避けるため、食料を温めることすらできない。
そうした状況下でも女性であることのハンディは「月経の時の衛生環境の厳しさと、重い負傷兵を運ぶ難しさの2点」にとどまると語る。「戦友の遺体の処理など、多くの男が尻込みする仕事もやっている」と胸を張る。』
『ウクライナ軍によると22年春から2年で女性の要員は4割超の伸びを示した。クリスティーナさんのような志願者が増えたためだ。約6万5000人の女性要員のうち、4千人は前線で戦闘任務に就いている。
深刻な兵員不足に苦しむウクライナ軍は動員を強化する構えだが、女性はなお徴兵対象に含めていない。クリスティーナさんは「女性は補給など後方任務でもっと軍の任務を担える」と語る。』
『女性比率、日本はNATO下回る
女性の軍への参画が最も進んでいる国の一つがイスラエルだ。建国以来、周辺国の脅威にさらされてきたことから国民の国防意識が高く、女性にも兵役を義務付けている。現在、イスラエル国防軍の要員の3分の1は女性が占めている。
防衛省の発表によると日本の自衛隊に占める女性要員の割合は21年時点で8.3%で、北大西洋条約機構(NATO)全体や米軍を下回る。女性の参画度合いは各国の文化的な要因も映す。性差別が深刻なインドの軍の女性要員は全体の0.5%程度にとどまる。』
『ウクライナの女性兵士の活躍に触発され、欧州各国の軍隊でも女性参画の議論が進んでいる。深刻化する人手不足に加え、防衛でも責任や権利を男女が同等に分かち合うべきだという意識の高まりも背景にある。
「完全な男女平等をめざす」。デンマークのフレデリクセン首相は3月、同国の徴兵対象に女性を加える方針を発表した。実現すれば、欧州ではノルウェーやスウェーデンに続き3カ国目となる。
ノルウェーではすでに女性初のヘリコプター操縦士や戦闘機パイロット、潜水艦の艦長が誕生している。世論には賛否もあるが、軍では男女共用部屋も導入した。』
『世界最大の軍事同盟であるNATOも女性の人材を安保分野に取り込もうとしている。「今後5年間でNATOに実現してほしい研究アイデアは何か」。24年2月、NATOの研究機関、科学技術機構は加盟国の女性の大学生や若手研究者が発想を競うコンテストの開催を発表した。
NATOが課すテーマで女性研究者らがアイデアを披露する。優勝者にはNATOの実験センターでの研修機会などを与える。STEM(科学・技術・工学・数学)分野の女性を後押ししつつ、NATOの安保分野の技術革新を狙う。
エネルギー情勢や気候変動が安保に与える影響といった構想を求めており、想定する内容は幅広い。安保分野への関心を高めることで、NATO加盟国全体で1割にとどまる女性の要員の割合を引き上げたい思惑もある。
(ウィーン=田中孝幸、ブリュッセル=辻隆史)』