ウクライナ外相、防空システムを確保するため強硬な外交手法に変更

ウクライナ外相、防空システムを確保するため強硬な外交手法に変更
https://grandfleet.info/us-related/ukraines-foreign-minister-changes-to-tough-diplomatic-approach-to-secure-air-defense-system/

『2024.04.11

ゼレンスキー大統領は「型破りで攻撃的な外交手法」が失速したため「支援への感謝」を全面に押し出して批判を封印してきたが、ウクライナのクレバ外相は「優しく静かな外交は上手くいかなった」「より強硬な発言を伴う外交スタイルに変える」と表明した。

参考:Ukrainian Foreign Minister Dmytro Kuleba demands more Patriot air defenses
パトリオットシステムを保有している国は私の発言を不快に感じただろう

ゼレンスキー大統領は当初「過剰と受け取られかねない強気な外交戦略」で支援を引き出すことに成功、昨年7月に開催されたNATO首脳会議でも「NATOへの即時招待」を要求したものの、NATO側が準備していた文章が期待を下回るものだったため「採択される文章には期限が設定されておらず、招待の条件さえも曖昧な表現が含まれており本当に馬鹿げた内容だ」「NATOの強さを信じてリトアニアまで来た。我々の全てが、兵士、市民、母親、子どもの全てが解決策(NATO加盟)を期待している。これは大きすぎる願いなのだろうか?」などと激しく非難。

We value our allies. We value our shared security. And we always appreciate an open conversation.
Ukraine will be represented at the NATO summit in Vilnius. Because it is about respect.

But Ukraine also deserves respect. Now, on the way to Vilnius, we received signals that…

— Volodymyr Zelenskyy / Володимир Зеленський (@ZelenskyyUa) July 11, 2023

最終的にウクライナの加盟条件から加盟行動計画(MAP)を除外し「全ての加盟国がウクライナの加盟に同意して条件が整えばNATOに招待する」という内容で決着したが、加盟国の中にはゼレンスキー大統領の激しい非難に怒って「文章からの招待削除」を要求する国まで現れ、さらに英国のウォレス国防相は「新しい武器を要求し続けるのではなく、もっと提供された支援に対して感謝の気持ちを伝えた方がいい。我々は武器を配送するアマゾンではない」と発言。

“自国の備蓄を放棄するようウクライナは各国を説得することがある。彼らはロシアとの戦争が崇高なもので自分自身のためだけでなく『我々の自由を守るために戦争している』と考えているが、必要な支援を引き出すためには米議会の議員を説得するしなければならないこともあるし、戦争に懐疑的な他国の政治家にも支援に価値があることを、それによって何が得られるかを示して説得しなければならないことがある。それをウクライナ人が好むかどうかに関係なくこれが現実だ”

出典:NATO

“私は米国の政治家からウクライナ支援について『830億ドル以上のも支援したのに』という不満を時々聞くことがあり、我々はウクライナにとってのアマゾンではない。この事は支援リストをもらうため11時間かけてキーウに行った時にハッキリと彼らに伝えた。ロシアとの戦争に価値があると訴えて支援を要求する前に『国際的なパートナーが支援に何百億ポンドも費やしている』ということにもっと感謝の気持ちを伝えるべきだ”

これにゼレンスキー大統領は「常にスナク首相やウォレス国防相に感謝しているが、彼が何を言いたいのか、これ以上どう感謝を伝えれば良いのか分からない」と述べ、その場に同席していたレズニコフ国防相に「ウォレス国防相と関係が悪いのか?」と尋ね、仲は悪くないと国防相が答えると「今日中に彼に電話して感謝を伝えておいてくれ」というパフォーマンスを披露、刺々しいものになった雰囲気を和らげようとしたが、反攻作戦も失敗に終わったため強気な外交戦略も失速してしまう。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

ウクライナメディアのRBC Ukraineも昨年11月「昨年上手く機能した型破りで攻撃的な外交手法は明らかに効果を失っている。この手法で支援に消極的だったドイツを焚き付けることに成功したものの、この夏のNATO首脳会議ではゼレンスキー大統領の攻撃的な口調が裏目に出てしまった」と、Ukrainska Pravda紙も12月「ウクライナ支援に対する西側諸国の疲労は財政的な理由ではなく精神面や感情面から来ており、これは戦争の日常化が原因で、ウクライナは西側世論の高ぶった感情を支援の共感に利用していたコミュニケーション戦略を変更すべきだ」と指摘したことがある。

この頃からウクライナの外交戦略は「支援への感謝」と「支援不足への批判封印」に変更されたが、ウクライナのクレバ外相はWashington Postのインタビューに応じた中で「優しく静かな外交は上手くいかなった」「より強硬な発言を伴う外交スタイルに変える」と表明した。

出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

ウクライナの空を完璧に保護するには26セット(レーダー、管制システム、発電機、ランチャー6輌~8輌の構成が1セット)のパトリオットシステムが必要で、ゼレンスキー大統領はクレバ外相に「複数のパトリオットシステムを保有する国々にシステムを譲渡するよう説得しろ」と命じ、運用可能なパトリオットシステムが世界中に100セット以上あること、港や空港を保護するため複数のパトリオットシステムを保有している国があると確認、クレバ外相のチームはひとまず7セットの確保に注力しているらしい。

但し、パトリオットシステム譲渡についての説得は上手く行っておらず、Washington Postは「NATO創設75周年を祝う会合の場でクレバ外相は『パーティーを台無しにして申し訳ないが、世界で最も強力な軍事同盟が弾道ミサイルと毎日戦っている国にパトリオットシステムを7セットも提供出来ないなんて誰が信じると思う?』と述べた。さらに『今回の会合で最も幸運だったのはパトリオットシステムを保有していない国だ』『逆に保有している国は私の発言を不快に感じただろう』と冗談ぽく語った」と報じている。

出典:Photo by Sgt. 1st Class Jason Epperson

クレバ外相は「より強硬な発言を伴う外交スタイル」について「私は嫌われるかもしれないし当該国との関係を壊すかもしれない。外交は個人的な関係が全てだと私の心も叫んでいるが、この部分に沈黙を要求すると本当に思っていることが溢れてきた。あらゆることを試したが何も上手くいかなかった」「新しい外交スタイルが現状を打破してくれることに期待している」と述べた。

因みにクレバ外相のチームは「パトリオットシステムを今直ぐ提供できる4ヶ国を欧州とアジアで見つけた」「要請があれば提供されたパトリオットシステムを直ぐ返却する」とも述べているが、この問題はパトリオットシステムだけでなく、このシステムで使用する迎撃弾の供給量が圧倒的に足りない点も考慮すべきだろう。

出典:Lockheed Martin

弾道ミサイルを迎撃するためにはPAC-3弾が必要で、この迎撃弾の年間生産量は増産努力を経ても650発しかなく、仮に7セットを新たに供給してランチャーをフル装填状態にするなら(理論上)672発~896発ものPAC-3弾が必要になり、生産分では足りないため各国の備蓄がどんどん減ってしまうことになる。

ウクライナの現状を加味すればウクライナの失望感に共感できるものの、返却を約束してもパトリオットシステムが破壊された場合どうするのか、パトリオットシステムを新たに7セット提供した場合にPAC-3弾の供給が間に合うのか、そもそもシステムだけで10億ドル以上もするパトリオットシステムを7セットも提供する資金を誰が負担するのかなど解決すべき問題が多いため、個人的には「75周年を祝う会合で嫌味を言っても何も変わらない」と思うが効果的な代案も見当たらない。

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※アイキャッチ画像の出典:PRESIDENT OF UKRAINE
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 25  』

『 ブルーピーコック
2024年 4月 11日

返信 引用 

自国を守ろうとしているのは分かるんだが、その逆で、よほどの人じゃない限りウクライナより自国が大切なんだよクレクレ君。
1 』