【ロシアの敵か、味方か?】割れる旧ソ連諸国の方針。ウクライナ戦争の趨勢も左右か
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33467
『2024年4月9日
フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのトニー・バーバーが3月5日付け同紙に‘Post-Soviet neighbours navigate the orbit of Russian power’(ソ連崩壊後の隣国がロシアの軌道を航行している)と題する論説を書き、ウクライナ戦争の行方がベラルーシ、モルドバ、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアに重くのしかかっている様子を描写している。要旨は次のとおり。
(ロイター/アフロ)
1991年のソ連崩壊後、クレムリンは新たに独立した旧ソ連諸国との西側および南側国境を最重視する政策を取ってきた。この傾向は、2000年にプーチンが政権について以降、一層明白になった。その手法は、分離主義運動を支援するとともに、エネルギー、貿易、投資で隣国のロシアへの依存を確実にすることを柱とする。
ベラルーシ、モルドバ、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアにとり、ウクライナでの戦闘は将来に重くのしかかっている。現状、ロシアの影響力が強く残る国もあれば、弱まった国もある。
ロシア支配の最も顕著な例はベラルーシだ。ウクライナ戦争は同国をロシアに一層近づけた。とはいえ、ロシアは今のところ、ベラルーシを完全にロシアに統合する企てやウクライナ戦争に完全に組み込むような態度を見せていない。そうした動きは、ルカシェンコの独裁体制を不安定化させる要因になり得るからだ。
モルドバでは対照的に、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアの影響力は低下した。これに対し2月、ロシアが支援する分離地域であるトランスニストリアの指導部が緊急議会を開催し、ロシアに庇護を求めるようなアピールを出した。
背景には、モルドバが初めて同地域の再統一化に本格的に乗り出した(昨年、モルドバ議会は、「分離主義」を刑事犯罪に指定し、モルドバ政府はトランスニストリア企業に対する税関管理を強化)ことがある。』
『モルドバは慎重に対処する必要がある。トランスニストニアの多くはロシア人なので、モルドバ政府が再統一の政策で不手際をすれば、彼らはモスクワの「トロイの木馬」になる可能性がある。
アルメニアにおけるロシアの立場は、クレムリンが、(昨年)9月のアゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフへの侵攻を防ぐために何もしなかったことから急落した。この事象により、ロシアが庇護者であるというアルメニア側の認識は崩壊した。しかし、アルメニアはエネルギーをロシアに依存し、ロシアはアルメニア領内に軍事基地を展開している。
一方、ナゴルノ・カラバフ侵攻はアゼルバイジャンと西側との関係を緊張させ、アゼルバイジャンをロシアに一層近づけた。
ジョージアでは、ロシアはアブハジアと南オセチアという2つの分離地域を通じて長期にわたり影響力を保持している。また、ジョージア政府はロシアに同調的な姿勢を頻繁に見せている。他方、多くのジョージア国民は欧州連合(EU)加盟国となることを強く望んでいる。
この地域全般にわたり、ロシアの威光と力は、3年前と比較しても低下している。他方、この地域はいまだ西側民主陣営に組み込まれてはいない。ロシアと西側の競争は、ウクライナ問題を主要な焦点として続く見込みである。
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〝ロシア離れ〟のモルドバとアルメニア
この論説は、旧ソ連諸国におけるロシアの影響力の微妙な変化について、それぞれの国が抱える複雑な事情が詳細に説明されており、ロシアと旧ソ連諸国の関係を見る上で有益な分析となっている。以下では、いくつかの国につき補足説明をしておきたい。
モルドバは親欧州でEU加盟を目指しており、ロシアによるウクライナ侵略以降、ロシアとの関係がますます悪化している。トランスニストリアの指導部がロシアに庇護を求めるようなアピールを出した件は、西側に強い懸念を与えた。分離主義者がロシアに助けを求める構図はウクライナと同じだからだ。
モルドバは3月7日にフランスとの防衛協定に署名するなど、欧州との関係強化をますます鮮明にしている。モルドバ情勢は緊張が高まっており、注視する必要がある。』
『アルメニアは、18年にパシニャン首相が革命により政権を奪取する以前はロシアとの友好関係を維持し、政治、経済、安全保障の多くの部分をロシアに依存していた。
他方、20年9月1月のナゴルノ・カラバフ戦争以降、ロシアがアゼルバイジャン寄りの立場を取り続け、結果として、23年9月のアゼルバイジャン軍によるナゴルノ・カラバフへの大規模攻撃に発展したことにより、ロシアが支援する野党などの一部国民を除いて、アルメニア政府およびアルメニア国民のロシアに対する信頼はほぼ消滅した。
アルメニア政府は非公式には「ロシア離れ」を決定しているともみられる。
これを受け、米国とEUはアルメニアにおけるロシアのプレゼンスを排除すべく、政治、経済、安全保障面での関与を強めている模様である。
しかし、欧米諸国がロシアに代わってアルメニアの安全保障と経済を保障することは困難のようにも思われる。
アルメニア政府は欧米とは協調しつつも、一方でロシアとも適当に付き合って自国の安全保障と経済の安定を図り、「生き延びる」方途を検討する方が良いのかもしれない。
トルコ、イランの動きにも注目
アルメニアの敵対国、アゼルバイジャンについてはどうか。
アゼルバイジャンの庇護者はトルコであり、20年のナゴルノ・カラバフ戦争でのアゼルバイジャンの勝利はトルコの支援によるところが大きい。
ロシアは、ウクライナ制裁の「抜け道」としてトルコとアゼルバイジャンの協力を必要とすることから、ナゴルノ・カラバフ問題ではアゼルバイジャン寄りの立場を強めたとの見方が一般的だ。
一方、アルメニアと国境を接するイランはアゼルバイジャンのアルメニアへの侵攻の可能性を危惧しており、伝統的に良好な関係を維持しているアルメニアとの関係強化の姿勢を強めている。アルメニアとイランとの関係強化については、欧米諸国は神経質になっている。
南コーカサス地方においては、欧米とロシアに加えて、同地域と地政学的に直接の利害関係を持つトルコとイランの動向にも十分注視する必要がある。』