「見苦しい」フランスとドイツの対立、美辞麗句ではなく弾薬と武器が欲しいウクライナの本音

「見苦しい」フランスとドイツの対立、美辞麗句ではなく弾薬と武器が欲しいウクライナの本音
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33405

『2024年4月5日

Economist誌3月2日号は、 ‘France and Germany are at loggerheads over military aid to Ukraine’(対ウクライナ軍事支援を巡る仏独の不和)題する解説記事を掲載、ウクライナへの地上兵力派遣やミサイルの供与についてのマクロン大統領発言を巡って、仏独間の不和が露呈していると解説している。要旨は次の通り。
(Konoplytska/Allexxandar/gettyimages)

 マクロン大統領は2月26日のパリでの首脳会議でウクライナに対する欧州の団結を誇示したかったのであろうが、実際には会合は対ウクライナ軍事支援を巡る仏独の見苦しい応酬をもたらした。

 マクロンは「ロシアの敗北が欧州の安全保障と安定に不可欠」と宣言し、ロシア深部を攻撃するためのミサイルの供与を約束した。更に、地上兵力のウクライナへの派遣(フランス政府関係者は後に非攻撃目的と釈明)を排除しないとも述べた。

 ドイツからは直ちに反発があり、ショルツ首相は、「欧州諸国あるいは北大西洋条約機構(NATO)からの地上兵力の派遣はない」とツイートし、ハーベック副首相は「自分は仏に軍事支援を増やせとアドバイスしたい」と述べた。同氏の反応は、ドイツ及び他の欧州諸国において仏の不十分な支援への批判が高まっていることを反映している。

 キール世界経済研究所の統計ではフランスがコミットしたウクライナ支援は18億ユーロ、うち軍事支援は6億4千万ユーロで、同盟国中14位である。国内総生産(GDP)比は0.1%で、英0.5%、独0.6%、エストニアの3.6%に見劣りする。

 英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のRym Momtazによれば、仏の支援にはCAESAR榴弾砲、SCALP巡航ミサイルのような強力な兵器が含まれるが、その数量は限られており、フランスの支援は軍事大国としての地位に見合うものではない。』

『首脳会議後の軋轢には他の理由もある。マクロンの「ミサイル連合」形成の主張はドイツにタウルス・ミサイル(ケルチ橋攻撃に特に向いている)供与を促す努力の一環と見られるが、ショルツはタウルス供与がエスカレーションにつながるとして抵抗している。

 タウルスがクリミアやロシア国内の都市を攻撃できるという技術的理由だけでなく、その使用をモニターするためにドイツの兵員を派遣する必要が出てくるとのショルツ自身の信念(この点には激しい争いがある)もある。また、ドイツの懸念には、もしタウルス供与が憲法裁判所で争われることになれば、独の支援全般への支持を損なうというものもある。

 ショルツは、「いかなる時点においても、また、いかなる場所においても、ドイツの兵員がタウルスの攻撃目標にリンクされてはならない」と強調している。理論的にはドイツがタウルスを英国またはフランスに送り、英仏の要員がその使用をモニターするということも可能ではあるが、実際にはそれに必要な信頼関係が欠落している。

*   *   *

ロシアへ与えた戦略的明快さ

 地上兵力派遣についてのマクロン発言を含め、最近の対ウクライナ支援を巡る独仏間の応酬は「見苦しい」(上掲解説記事)だけではなく、有害である。フィナンシャルタイムズ(FT)は3月6日の社説で、「優先順位はウクライナが今年、必要な武器(砲弾、巡航ミサイル、戦闘機、対空防衛など)を入手することであり、仏独の最近の批判の応酬(相手の支援が不十分)は、内容的には当たっている部分もあるが、非生産的な脇道の議論である」と断じているが、その通りであろう。

 マクロン発言への論評は当然のことながらおしなべて厳しい。FTは3月6日の社説で、「ロシアの攻勢に対してウクライナへの支援を強化する必要があるとのマクロンの基本的メッセージは正しいが、それは兵員でなく武器を送ることによるべきである」「マクロン発言は同盟国を不意打ちし、特に独との間で戦略的な亀裂を明らかにした」と批判した。
 また、同日のドイツの有力紙Frankfurter Allgemeine Zeitung の論説(Nicholas Busse 外交担当編集人)も、「NATO加盟国のほとんどがウクライナに兵員を派遣する用意がないことをロシアに知らしめることとなり、戦略的曖昧性どころか、むしろ戦略的明快さをもたらした」「ウクライナが必要としているのは美辞麗句の連射ではなく、弾薬と武器である」とコメントしている。』

『他方で、ドイツの態度もそう褒められたものではない。ドイツは昨年後半くらいから、対ウクライナ軍事支援は米国に次ぎ第二位であることを強調し、他国(主に念頭に置かれているのはフランス、イタリア、スペインあたり)に対して支援を増やすよう求めるとの姿勢を鮮明にしているが、これは「ドイツは軍事支援に慎重」との内外でのイメージに対して攻勢防御に出たものではないかと思われる。

 しかし、ドイツのウクライナ支援については、①メンテナンスが不十分なため供与された武器のうち一部しか使われていない、②対GDP比は欧州連合(EU)/NATO諸国中10位ほどにすぎない、③英仏が既に巡航ミサイルを供与したにもかかわらずタウルス巡航ミサイル供与を頑なに拒んでいる、等の批判がつきまとっており、負のイメージの払拭は容易ではない。

危機の最中という意識はあるのか

 いずれにしても、最近の独仏関係が控え目に言っても相当に深刻な状態にあることは否定しようがない。シュミットとジスカールデスタン、コールとミッテランの緊密な関係に対して、ショルツとマクロンの波長が合わないことはもはや公然の秘密であるが、問題は独仏のギクシャクがウクライナ侵攻という欧州にとっての危機の最中に続いていることである。

 本来であれば、両国は米国の支援が滞る中、欧州のウクライナ支援確保に奔走する立場にあるし、今後のロシアとの関係を見据えて欧州全体の軍備の増強、欧州の防衛産業の強化に主導的役割を果たすべきこところであるが、相手からすぐに拒否されるようなアイデアをぶち上げたり、「自国は十分に支援しているから、後は他の国がやるべき」と言い立てたり、両国の振舞は期待値からはほど遠いものがある。』