[FT]AIの「夢物語」に要注意 費用増や著作権など課題

[FT]AIの「夢物語」に要注意 費用増や著作権など課題
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB280G40Y4A320C2000000/

『2024年3月29日 8:22

米株価がほぼ毎週、史上最高値を更新している。先週は米連邦準備理事会(FRB)が示した方針を受け、投資家の間に想定以上の利下げがあるとの観測が広がり株価を押し上げた。

だがこの強気ムードにはより根本的な要因が2つある。第一は株式市場で時価総額の大きな比率を占める巨大テック各社が手元資金を潤沢に抱えていること。第二はテック各社が人工知能(AI)からいずれ巨額の利益を上げるという期待だ。

AIは「世界…

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『AIは「世界を変える」といわれる。生産性を飛躍的に向上させ(膨大な数の職が失われるが)、それにより巨額の富を新たに生み出すことになる。

世界GDPを6100兆円押し上げるとの試算も

米運用会社アークインベストは21日公表のリポートで、AIは2030年までに世界の国内総生産(GDP)を40兆ドル(約6100兆円)押し上げ、「あらゆる業界を変貌させ、全企業に影響を与え、技術革新をあまねく促進する」と予測した。』

『この単純なロジックと一種のユーフォリア(陶酔感)に筆者は不安を覚える。』

『AIはかつての電気やインターネットの登場と同様の影響をもたらす可能性がある。だが我々はAIが何十年も複雑に変化をもたらす過程のまだ初期段階にいるにすぎないわけで、絶対にそうなるとは言えない。

にもかかわらず今のテック各社の株価はこの変革のすべてか、それ以上のものを織り込んでいる。米市場調査会社カレンシー・リサーチ・アソシエイツは2月の報告書で、AI向け半導体大手の米エヌビディアの今の株価は今後4500年間、配当を出し続けなければ正当化できないと指摘した。』

『エヌビディアはITバブルで倒産した米ペット用品販売のペッツ・ドット・コムと異なり、商品を販売し売り上げを計上している。だがAIで世界がどう変わるかという全体的な話には不確実な前提が多い。』

『膨大な水と電力を必要とするだけにコスト増不可避

例えば、AIを動かすには膨大な水とエネルギーが必要なため、米国と欧州連合(EU)では企業にその使用量を開示するよう求める動きがある。

企業の二酸化炭素排出に課金するカーボンプライシングや、資源の利用に課税するなど、どんな形態になるかわからないが、AIを動かすための投入コストは今後大幅に上がる可能性がかなり高い。』

『AI開発企業は現段階ではモデルを学習させるのに使うコンテンツの著作権を取得する必要がなく、AIで利益を上げる必要もない。莫大な利益を将来上げるだろうという前提だけで、バブルをあおるには十分だ。』

『技術革新への根強い楽観論と、それが必ず大変革を生むという幻想でシリコンバレーの企業は自社の評価額を押し上げてきた。だが今後「どこでもAI」の時代が来ると語る人の多くは、最近までネットの新潮流「ウェブ3」や暗号資産(仮想通貨)、メタバース(仮想空間)への期待を強く訴え、ギグエコノミー到来の素晴らしさを叫んでいたのを思い出してほしい。』

『これらの新技術とAIが大きく違うのはマイクロソフトやグーグル、アマゾン・ドット・コムなど、資金が潤沢で市場をけん引してきた米巨大企業がその開発を進めている点だ。
だが、これら企業の開発者でもAIの今後には懸念を持つ。あるAI大手の幹部は先日、AI関連の利益の見通しは「実態というより臆測」に基づいており、依然、解決すべき重大な問題が複数あることを認めた。』

『不確定要素は依然、多い

大規模言語モデルの実験をしたことがある人なら誰もがうなずくだろう。筆者は仕事で調べ物をする際は、AIのチャットボット(自動応答システム)には絶対に頼らない。与えられた情報が正確か心配するのは避けたいからだ。自分がどの情報を参考にするか判断、整理するのを他者任せにしたくない。

筆者はホワイトカラー労働者の中では高いレベルの仕事をしていると思う。だがもっと機械的な中間層の仕事でもAIをどう業務に組み込むか、AIが仕事を取って代わる場合、本当に人間より生産性が高くなるのかなど疑問は多く浮上している。』

『AIへの抵抗も始まった。米ハリウッドの脚本家らがストライキをしたのはAI利用を制限することが主眼で、多くの労働組合はAIを含めた多くの技術について規制を求めている。』

『著作権問題に関しAIへの逆風も強くなっている。フランスの競争委員会(日本の公正取引委員会に相当)は20日、グーグルに報道各社の記事をAIアルゴリズムの学習に無断で使い、記事使用料を巡り誠実な協議をしなかったとして2億5000万ユーロ(約410億円)の罰金を科すと発表した。

昨年12月には米ニューヨーク・タイムズ(NYT)が米オープンAIとマイクロソフトを著作権法侵害で提訴した。AIは企業各社が持つ独自データも扱い始めているため、その著作権を巡り今後、訴訟が起きる可能性も確実に高まる。

企業による働き方などの監視を不服とする従業員からの訴えも出てくるだろう。』

『独占の問題もある。コミュニケーションアプリを提供する米シグナルファウンデーションの代表で、AIの社会的影響などを調べる米AIナウ研究所の共同創立者メレディス・ウィテカー氏は、21年の論文でAIが進歩したのは「少数の巨大テックにデータと演算資源が極端に集中したことが主な原動力になった」と指摘した。

同氏はAIへの一般社会の依存度が高まっていることで、「我々の生活や制度を支配する過剰な権力をごく一部のテック企業に譲り渡すことになる」と警鐘も鳴らした。』

『「マグニフィセントセブン(壮大な7社)」と呼ばれる米巨大テック7社はこの1年、AI熱をあおり株価高騰をけん引してきた。S&P500種株価指数に占める7社の時価総額の合計が過去最大に達するほど7社への集中度は高まっている。

だが、米モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントは最近の報告書で「株価指数を構成する企業の一部に時価総額が集中する過去の例をみると、規制当局からの働きかけや市場・競争の原理、景気循環などの要因が合わさって自動調整されるため、支配的企業がその地位にずっととどまることはない」と指摘。「分析の結果、株式投資の収益率は株価指数を構成する企業間での集中度がピークを打った直後に低迷する傾向が判明した」と警告している。』

『この自動調整要因には米独占禁止法当局による巨大テックへの提訴の増加やカーボンプライシング、著作権絡みの罰金など、AIで利益を上げるために必要な学習費用が「無料」でなくなる可能性も含まれるかもしれない。

AIを17世紀のチューリップバブルの再来とみるか、人々の生活を一変させた内燃機関と同様にみるかはそれぞれだが、AIを巡る夢のような物語を市場がどう受け止めていくかは注視に値する。

By Rana Foroohar

(2024年3月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』