ドイツ、イスラエル支持を軌道修正 人道危機で世論後退
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR243550U4A320C2000000/
『2024年3月27日 17:30
【ベルリン=南毅郎】イスラエルへの全面支持を打ち出してきたドイツが軌道修正を迫られている。
パレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの地上侵攻を検討するイスラエルに対し、ショルツ首相を含め独政界は懸念を強める。
世論調査では「過剰な軍事行動」との回答が5割に達し、風向きが変わってきた。
「ラファへの地上攻撃で150万人以上の人々をどう保護すべきか。彼らはどこに行けばいいのか」。3月中旬、イスラエルを訪問し…
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『3月中旬、イスラエルを訪問したショルツ氏はネタニヤフ首相との共同記者会見で公然と苦言を呈した。従来通りイスラエルの自衛権を認めつつも「高い代償は正当化されるのか」と問いただした。
慎重居士のショルツ氏が外交の場で厳しい態度をあらわにするのは異例だ。
特にイスラエルに対しては、第2次世界大戦でユダヤ系住民を虐殺した歴史の贖罪(しょくざい)意識から「イスラエルの安全保障は国是」と全面支持を打ち出してきた。あえてドイツ語でなく英語で記者団に語りかけ、ネタニヤフ氏の耳にも言葉を届けた。』
『ドイツ政界でもイスラエルをけん制する発言が目立つ。
与党ドイツ社会民主党(SPD)のクリングバイル党首は、ガザでの攻撃に対する疑念を真剣に受け止める考えを示している。独ターゲスシュピーゲル紙によると「イスラエルの自衛権は国際法の尊重とガザ出撃の適正を保つ責任を伴う」と主張した。
26日まで中東諸国を歴訪したベーアボック外相は、イスラエルに攻撃を仕掛けたイスラム組織ハマスに武器を放棄するよう呼びかけつつも「この目標は軍事的には達成できないものだ」と声明で指摘。「軍事行動には国際人道法上の限度がある」との認識を示した。』
『ここにきてドイツが慎重姿勢にかじを切ったのは、人道危機への懸念を強めているためだ。ガザ保健当局によると、2023年10月の戦闘開始からの死者数は3万2千人を超えた。「信じられないほどの犠牲者が出ている。パレスチナ市民も多く亡くなった」(ショルツ氏)』
『イスラエルはラファへの地上侵攻を辞さない構えだ。戦闘の回避で北部から流れてきた避難民ら150万人が密集し、地上侵攻が始まれば犠牲者の拡大は避けられない。ドイツ政府は米国やカタールと連携しながら人道的休戦に向けて外交調整を進めてきたが、支持一辺倒に傾斜できなくなった。』
『ドイツ国民の声も変わってきた。公共放送ARDが3月上旬に実施した世論調査によると、イスラエルの軍事行動が「過剰」との回答は50%に達した。ハマスによる越境襲撃があった直後の23年11月から9ポイントの上昇だ。
逆に「適切」は28%、「不十分」は5%とそれぞれ7ポイント、3ポイント低下した。ドイツ社会では民間人の保護を優先すべきだとの考え方が根強くあり、多くの子どもや女性が犠牲になったイスラエルの攻撃が世論の風向きを変えた形だ。
最大の国政野党キリスト教民主同盟(CDU)の会派で外交・安全保障政策に精通するヨハン・バーデフール連邦議会(下院)議員は日本経済新聞の取材に「我々はイスラエルに対して民間人の犠牲を最小限に抑えるため全てのことをするよう訴える」と強調した。
現在のドイツ社会で「イスラエル批判はタブーではない」とも説明。「イスラエルという国家に疑問を呈するならばタブーだが、パレスチナ人の生存権を否定する政治家には批判が許される」と語った。』
『今後、ドイツの軌道修正は欧州連合(EU)の方針にも影響を及ぼす可能性がある。当初はドイツ出身のフォンデアライエン欧州委員長がイスラエル支持を鮮明にしていたが、ガザでの人道危機が明らかになるに連れてEU全体としての立場を修正してきた。』
『3月には中米ニカラグアがドイツを国際司法裁判所に提訴するなど、イスラエル支持のドイツの姿勢には批判も渦巻く。ドイツ政府は「イスラエルへのジェノサイド(民族大量虐殺)の非難に断固反対する」との立場を取ってきており、国際社会への発信が変わるかも焦点になる。』