ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
–近年の米海空軍のドクトリン・作戦コンセプトとの関係を中心に-
https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/pdf/2024/202403_03.pdf
『菊地茂雄
<要旨>
近年の米軍では、従来から分権型の指揮統制のアプローチであるミッションコマン
ドをドクトリン上採用してきた海兵隊と陸軍に加え、ネットワーク化の進展により指
揮統制の中央集権化が指摘されてきた空軍と海軍でもあらたにミッションコマンドが
採用された。
これは、中国やロシアとの武力紛争においては米軍の指揮統制が攻撃•
妨害を受けることが想定され、こうした状況において米軍部隊が機能不全に陥らない
ようにすることを狙ったものである。
しかしながら、海空軍が現在開発を進める作戦
コンセプトには各ドメインの能力の連携を前提とするなど指揮統制の中央集権化を必
要とする要素も含まれる上、作戦に関与する指揮官達が共通の認識に基づき行動の調
整や同期を行うなど水平的な連携の重要性が指摘される。
はじめに——軍隊の指揮統制における中央集権化と非中央集権化
軍隊の活動において「指揮統制(command and control)J 米国防省では「適切
に指定された指揮官による、任務達成のために配属あるいは指揮下に配置された部隊
に対する権限の行使と指令」と定義されている1——ほど重要な機能はない。
指揮統制
なしには軍隊が組織的行動を取ることは不可能となり「軍部隊も暴徒に堕し、軍事力
の政治への服従も行き当たりばったりの暴力へと取って代わられる」1 2ためである。
ミラン・ヴェゴ(Milan Vego)は、指揮統制には中央集権型(centralization)と非
中央集権型(decentralization)の2つのアプローチがあると説明した。
中央集権型指
揮統制においては、単一の上級指揮官•司令部に権限が集中され、線下部隊に対して
も、その個別的な行動に関して詳細にわたる指示や計画に厳格に従うことを求めるた
1 Joint Chiefs of Staff, DOD Dictionary of Military and Associated Terms (Washington, DC, November 2021),
s.v. “command and control.”
2 U.S. Marine Corps, MCDP 6 Command and Control (Washington, DC, 2018), p.1-3.
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安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
め、線下部隊指揮官が独自の判断を行う余地は大きく制限される’°
他方で、非中央集
権型指揮統制においては、命令も簡潔で、頻繁に報告を上げることも指示を待つこと
なく、達成すべき任務に関する共通の理解に基づいて線下部隊指揮官が刻一刻と変化
する状況への対応することが求められる3 4〇
マーチン・ファン•クレフェルト(Martin van Creveld)によれば、中央集権化は、
指揮官が自分自身にとっての不確実性を減少させるため、決定権限を款下部隊指揮官
から取り上げて、本来款下部隊指揮官が判断するべき事項を指揮官自ら判断すること
であり、それは他方で「ボトムにおける確実性を減少」させることも意味する。
逆に、
非中央集権化は、線下部隊指揮官に意思決定を委ねることになるが、それは「上級司
令部がより多くの不確実性を受け入れることによりはじめて可能」となる。すなわち、
指揮統制の中央集権化と非中央集権化には一定のトレードオフが存在することにな
る5 6 7〇
こうした軍隊の指揮統制における中央集権化=非中央集権化の緊張関係の存在を踏
まえれば、技術の進歩や戦いの様相の変化によっても、あるいはその軍隊の組織文化
によっても、中央集権化や非中央集権化の度合いも異なるものと考えられる。
ヴェゴ
によれば「中央集権型指揮統制にも、非中央集権型指揮統制にもメリット、デメリット」があり「すべての状況に適した手法というものは存在せず、任務と状況により手法は
選択」されるためである6〇
軍隊における分権型の指揮統制のアプローチは陸上軍種を中心に「ミッションコマ
ンド(mission command)」として概念化されてきた。
1980年代、米陸軍が開発を進
めていたエアランドバトル(ALB)ドクトリンではダイナミックに変化する戦況に対
応するためミッションコマンドが必要とされた7。
また、米海兵隊もベトナム戦争後の
改革の中で策定されたドクトリンで機動戦(maneuver warfare)思想を海兵隊の「戦
3 Milan Vego, General Naval Tactics: Theory and Practice (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2020), pp.
148-149.
4 Ibid., pp. 149-150.
5 Martin van Creveld, Command in War (Cambridge, MA: Harvard University Press,1985), pp. 270, 274.
6 Vego, General Naval Tactics, p.159.
7 Clinton J. Ancker, III, “The Evolution of Mission Command in U.S. Army Doctrine, 1905 to the Present,”
Military Review, 93, no. 2 (March/April 2013), pp. 47, 48; and Headquarters, Department of the Army, FM
100-5 Operations (Washington, DC,1982), pp. 7-2, 7-3.
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ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
いの哲学」と位置付け、その一環としてミッションコマンドを採用した8 (以下、国防
省や各軍種•機関は、特段の断りがない限り米国のそれを指す)。
さらに2000年代、
イラクおよびアフガニスタンで実施した対反乱(COIN)作戦を契機に、特に陸軍で
はあらためてミッションコマンドの重要性が認識された。
それは、ロバート・ゲイツ
(Robert M. Gates)国防長官が指摘するように、これらの作戦で「他の対反乱作戦と
同様、あまりに多くの決定的な優位性が下級士官のイニシアティブと判断によりもた
らされた」ためである七
「ミッションコマンド」の語はもっぱら陸軍や海兵隊などの陸上軍種に関連して使用
されてきたが、それがプロシア・ドイツ陸軍で使用されていたAvftragstaktik (mission
tactics =任務戦術と訳される)に起源がある概念であることを考えれば不思議ではな
い%
そうした経緯を考えた場合、2010年代以降、海軍と空軍の関係者が戦い方に関
する議論に関連してミッションコマンドを取り上げ、結果としてそれぞれのドクトリ
ンにミッションコマンドが取り入れられたのは注目すべき現象である”。
海空軍におい
てはネットワーク化の進展が顕著で、航空機や艦艇などプラットフォームが遠方の指
揮統制ノードと直接繋がり、これらの間で目標情報や命令などの情報がネットワーク
を介して直接伝達されるようになっていた。
これら長い射程•航続距離を有する能力
が戦力発揮するためには、たとえば空軍所属の攻撃機と海軍のイージス艦のトマホー
クミサイルの間で攻撃目標の配分や調整を行ったり、米本土を発進した爆撃機がペル
シャ湾に移動し、中東上空を監視する早期警戒管制機(AWACS)の管制の下イリノ
イ州に司令部を置く航空機動軍の空中給油機から給油を受けて過激派武装勢力に対す
8 Fidelion Damian, “The Road to FMFM 1:The United States Marine Corps and Maneuver Warfare Doctrine,
1979・ 1989” (mastefs thesis, Kansas State University, 2008), p. 29; Daniel Ford, A Vision So Noble: John Boyd,
the OODA Loop, and America^ War on Terror (Durham, NH: Warbird Books, 2010), pp. 36-38; Frans P.B.
Osinga, Science, Strategy and War: The Strategic Theory of John Boyd (London: Routledge, 2007), pp. 48-49;
John R. Boyd, A Discourse on Winning and Losing, ed. and comp. Grant T. Hammond (Maxwell AFB, AL: Air
University Press, 2018), p. 94; Michael D. Wyly, “Lecture II: Mission Tactics,in William S. Lind, Maneuver
Warfare Handbook (Boulder, CO: Praeger,1985), pp. 91-97; and Kevin R. Clover, ‘”Maneuver Warfare:
Where Are We Now?” Marine Corps Gazette, vol.72, no. 2 (February 1988), p. 55.
9 Robert M. Gates, ‘*Reflection on Leadership,Parameters, vol.38, no. 2 (Spring 2008), p.13.
10 Donald Vandergriff, Adopting Mission Command: Developing Leaders for a Superior Command Culture
(Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2019), pp. 25-29.
11本論文では「ドクトリン(doctrine)」の他、似た用語として「コンセプト(concept)」も使用している。両方
とも戦い方に関わるものであるカヾ、ドクトリンは軍の中においてすでに確立され、当該ドクトリンに基づいて作
戦を行うことができる状態にあるとされるもの、例外的な状況を除き、これに従うことが期待されている「権
威的な指針」である。一方、コンセプトは既存のドクトリンや能力が適切に対応できていない、差し迫った問
題に対するソリューションを提供するものであり、爾後、部隊実験等を含めて有効性の検証がなされていく。
本論文で言及する各軍の文書にはコンセプトの段階のものも、ドクトリンの段階のものもあり、その段階に応
じて書き分けているが、いずれにしても戦い方を示したものという点で共通したものとして扱っている。Joint
Chiefs of Staff, JP 1 Doctrine for the Armed Forces of the United States, Incorporating Change 112 July 2017
(Washington, DC, 2017), pp. VI-3, VI-9-VI-10.
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安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
る対地攻撃を行うなど、所属部隊も異なりしばしば地理的にも遠く離れた基地から発
進するプラットフォームの行動を同期させることが必要となる。
特に、航空作戦では、
航空機が単独で行動することはなく、さまざまなプラットフォームの支援を受ける必
要があるためであるん
そしてそのことは、しばしば戦域レベルの指揮官を中心とした
指揮統制の中央集権化を推し進めることとなり、それを可能としたのが航空戦力全体
のネットワーク化である。
こうした点を踏まえれば、現在海空軍においてミッション
コマンドが必要とされるのは、それまで中央集権化を進めてきた要因とは逆の要因が
働いていると考えるべきである。
本論文は、海空軍がミッションコマンドを採用したことに関連して以下の2点を明
らかにすることをめざすものである。
1点目は、なぜ2010年以降の時代に海空軍がミッ
ションコマンドを採用するに至ったかである。
2点目が、海空軍がミッションコマンド
を採用としたとしても「任務と状況により[指揮統制の]手法は選択」すべきとのヴェ
ゴの指摘を踏まえれば、全体としての整合やその手段としての中央集権化を必要とす
る状況は依然として存在すると考えるべきであり、それは何であるかという点である。
以上の2点を明らかとするため本論文は以下の手順で分析を進める。
第1節でミッ
ションコマンドの概要を説明した上で、第2節と第3節では、それまで指揮統制の中
央集権化が進んでいたとされる空軍と海軍で2010年代以降ミッションコマンドが強
調されるに至った要因と背景を明らかにする。
特に、2010年2月に国防省から公表さ
れた「4年毎の国防計画の見直し」(2010QDR)報告書が接近阻止•領域拒否(A2/
AD)脅威に言及して以降、米国防省で認識されるようになった中国やロシアの大国と
の武力紛争の可能性とそこでの米軍の脆弱性”、それを踏まえて両軍種が進めてきた分
散型作戦に注目しつつ分析を行う。
4節では空軍、海軍それぞれがミッションコマン
ドを志向しつつも、全体の整合を必要とする要素の存在について検討する。
特に、各
軍の作戦コンセプトが前提とするネットワーク上での火力の統合や作戦の調整と同期
が中央集権化を推し進める可能性を指摘する。
さらに、中露との武力紛争で想定され
る指揮統制への妨害の下で火力の集中の必要性を満たすため、委任や分権など指揮官
と線下部隊指揮官の間の垂直な上下関係に焦点を当てて概念化されてきたミッション
コマンドも、むしろ作戦に参加する部隊間の水平的な自発的な連携を包含するものへ
と発展する可能性を指摘する。
本論文は、以上のような検討を通じて、ミッションコ
12 Frederick Coleman, “The Limited Utility of Mission Type Orders for ACE…and a Better Way to Execute
Mission Command/’ The Mitchell Forum, no. 49 (January 2023), p. 49.
13米国防省が中国やロシアを安全保障上の脅威と捉え、これらとの武力紛争を想定するようになった経緯につい
ては、以下を参照。菊地茂雄「米国防計画におけるFPacingThreat]としての中国」FNIDSコメンタリー』第
191号(2021年 9 月 2 H)1-5 頁。
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ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
マンドに関する、よりニュアンスに富んだ、21世紀の軍事作戦により即した理解を得
ようとするものである0
1.「ミッションコマンド(mission command)」とは
一般にミッションコマンドは「線下部隊指揮官による、状況に適した意思決定と非
中央集権型執行を可能とする指揮統制へのアプローチ」などと定義されるが皿、このよ
うな分権型の指揮統制が必要とされる前提には、戦争は「本質的に混沌としていて不
確実」(陸軍ADP 6-0「ミッションコマンド——陸軍部隊の指揮統制」)との認識がある。
どのように綿密に計画を作成していても「すべての可能性に備えることはできない」、
そのため執行の段階で急な変更を余儀なくされる。
また、戦闘においては線下部隊指
揮官の方が状況をよく把握し、脅威に対応し、一瞬の好機をつかむのに有利な立場に
あるため、彼らに対して「完全な秩序」を押し付けないこと、すなわち「状況が変化
あるいは現行の命令が妥当なものでなくなったとしても、指揮官企図を達成するため
創意工夫、イノベーション、意思決定」を行う権限を付与することが必要とされる”。
ミッションコマンドにおいて命令は「任務命令(mission order)」あるいは「任務
型命令(mission-type order)」として発出される。
これは、線下部隊指揮官に対し、
どの部隊を、どのように使うかといった任務の達成方法を規定することなく「任務
(mission)」そのもの、すなわち達成すべき結果を示すものである。
「どのように任務
が達成すべきか」は「!!下部隊指揮官の領分」(ADP6-0)であり”、遂行方法まで拘
束しない形で命令を発出することで、線下部隊指揮官に最大の行動の自由を確保する
ことが必要とされる1?〇
線下部隊指揮官に対する命令で最も重要とされるのが「作戦目的と軍事的エンドス
テート」を「明確かつ簡潔」に示す「指揮官企図(eommander’s intent)」である。
指揮官企図は任務の「なぜ(why)」を示すことに最大の意義があるとされる。
すなわち、
何のためにその作戦を遂行することが必要なのか、自分に何が期待されているのか、
14 Department of the Army, ADP 6-0 Mission Command: Command and Control of the Army Forces
(Washington, DC, 2019), p.1-3.
15 Ibid., pp.1-3, 1-4, 1-5.
16 Ibid., p.1-11.
17 Jorg Muth, Command Culture: Officer Education in the U.S. Army and the German Armed Forces, 1901-
1940, and the Consequences for World War II (Denton, TX: University of North Texas Press, 2011),pp.
173-174; Robert M. Citino, The Path to Blitzkrieg: Doctrine and Training in the German Army, 1920-39
(Mechanicsburg, PA: Stackpole,1999), p.13; and Antulio J. Echevarria II, After Clausewitz: German Military
Thinkers before the Great War (Lawrence, KS: University Press of Kansas, 2000), p. 39.
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安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
なぜその任務を行う必要があるのか、どこまで行動することが許されるのかを示すも
のである。
そして、指揮官企図を理解していれば(通常、2階層上の指揮官企図を理
解することが必要とされる)、たとえ状況が変化したとしても、また、通信の妨害等で
上級司令部の判断を逐次仰ぐことができなくとも、指揮官企図から前線の状況を適切
に判断して意思決定を行うことが可能になるとされる。
これがなければミッションコ
マンドはそもそも成立しないとまでいわれる指揮官企図は、参謀ではなく指揮官自身
カヾ作成すべきものとされる18〇
ここまでの説明から明らかなように、ミッションコマンドは款下部隊指揮官の自発
性を促すものである一方で、作戦に参加する各部隊が共通の目標に沿って行動する「統
一行動(unity of effort)」を追求することも同様に重視している。
上述の指揮官企図
が重視されるのも、これに「基礎となる目的意識とフォーカスを提供することで部隊
のさまざまな行動を一緒に束ねる」機能があるためである19 20 21 22〇
またミッションコマンド
において、指揮官と線下部隊指揮官等の間で作戦環境、作戦目的、課題等について「理
解の共有」がなされることが不可欠とされているのも、それが「統一行動とイニシアティブの基盤」とされているためである2°。
そしてミッションコマンドで追求されるのが単
なるイニシアティブではなく「指揮官企図の制約内で、所望する軍事的エンドステー
卜を達成」するために線下部隊指揮官が発揮する「規律あるイニシアティブ(disciplinedinitiative)J (下線筆者)なのも同様の理由である”。
このようにミッションコマンドには、分権と統一行動の両方の要素が含まれる。
そして、統一行動を追求しながら同時に分権を行うミッションコマンドを実際に実践す
るためには、指揮官• It下部隊指揮官の間の「相互信頼」が必要とされる。
そもそも
指揮官の側が線下部隊指揮官の能力や判断力を信頼してこそ判断を委任することがで
き、逆に、線下部隊指揮官も、指揮官が彼を信頼し、その決定を受け入れるであろう
ことを確信して初めてイニシアティブを発揮することができる。
そして、その相互信
頼も指揮官と線下部隊指揮官の「力量(competencejがなければ成立しない之之。
上記の諸要素の間には相互関係がある。
上下の信頼関係や理解の共有が確立できて
いる場合、指揮官はこうした関係に基づき線下部隊指揮官の裁量を認めることもでき
るため、指揮官が発出する命令は何を達成すべきかを簡潔に示す任務命令に近くなる。
逆に、そうした信頼関係や理解の共有がなされていない場合、指揮官は線下部隊指揮
18 Department of the Army, ADP 6-0, pp.1-5, 1-9-1-10; and U.S. Marine Corps, MCDP 6, p. 3-9.
19 U.S. Marine Corps, MCDP 6, p. 3-9.
20 Department of the Army, ADP 6-0, p.1-8.
21 Ibid.,pp. 1-11-1-12.
22 Ibid., p.1-7.
50
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
官の裁量を認めることが難しくなりマイクロマネージメントに傾き、任務の達成方法
まで詳細に示した命令により款下部隊の行動を拘束しようとすることになる23。
ヴェゴ
によれば「一般論として言えば、線下部隊指揮官がイニシアティブを発揮する必要性
が少なければ、詳細な命令の必要性が増すとともに、指揮官企図を伝える必要性は少
なくなる」という24。
すなわち、命令の詳細さと線下部隊指揮官に許容される裁量は卜
レードオフの関係にある。
さらに本論文のテーマに関連して重要なのが、通信情報技
術の進歩がマイクロマネージメントを可能としているという点である25。
また、組織全
体の「一体性(cohesion) Jがないとミッションコマンドが成立しえないという点もし
ばしば指摘される。
上記の相互信頼は密接なやりとりを繰り返す中でしか形成されな
いものだからである26。
その点からは、米軍において最大の集団であり、兵科毎に形成
されるコミュニティの集合体の性格が強い陸軍より、規模も小さく全員が「海兵隊員」
とされる海兵隊の方がミッションコマンドを実践しているという指摘がしばしばなさ
れるのも一体性の差によるものである。
2.米空軍——「中央集権型統制」から「分散型統制」へ
(1)空軍力の「根本原則」としての「中央集権型統制と非中央集権型執行」(CCDE)
空軍は米軍の中でもっとも指揮統制の中央集権化が進んだ軍種であるといわれる。
これは、航空戦力を効果的、かつ効率的に運用するためには、1人の指揮官が1つの
戦域全体の航空戦力をコントロールすべきという考え方による27。
こうした考え方が生
まれる契機となったのは、第2次世界大戦中の1943年2月、チュニジア中西部で行
われたカザリン峠の戦いにおける「米国史上最大の敗北の一つ」の原因の一つが、各
航空部隊がそれぞれ支援する地上部隊の指揮下に割り振られ、航空戦力全体として有
効に活用されなかったことにあるとされたことである28。
航空戦力の指揮統制の中央集
23 Ibid., p.1-6.
24 Vego, General Naval Tactics, p.159.
25 Ibid., p.149.
26 Joe Labarbera, “The Sinews of Leadership: Mission Command Requires a Culture of Cohesion,in Mission
Command: The Who, What, Where, When and Why an Anthology, eds. Donald Vandergriff and Stephen
Webber (self-pub., 2017), pp. 3-5.
27 Clint Hinote, Centralized Control and Decentralized Execution: A Catchphrase in Crisis? (Maxwell AFB,
AL: Air Force Research Institute, 2009), p.10.
28 Ibid., pp. 7, 8; Rick Atkinson, An Army at Dawn – The War in North Africa, 1942-1943 (New York:
Owl Books, 2002), p. 390; and Leland Kinsey Cowie II, “The Ghosts of Kasserine Pass: Maximizing the
Effectiveness of Airpower,” Joint Force Quarterly. No. 92 (1st quarter 2019), pp. 75-77.
51
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
権化は1943年7月の陸軍航空軍のドクトリン文書に早速盛り込まれたが29、実際の作
戦では「第2次世界大戦の初期の戦いからベトナム戦争の全過程にいたるまで、米国
の空軍力に対する指揮権は細分化され、競合する指揮官により統制」されるなど3°、誰
が、いずれの航空戦力を、どのように指揮するかという問題は、米空軍にとっても「悩
ましい問題」であり続けた31。
その問題が決着したのは、各軍の航空機からトマホーク
巡航ミサイルまで含む航空作戦が中央空軍司令官の下に置かれた!991年の湾岸戦争
を経てである32。
こうした経緯からも分かるとおり、航空戦力の指揮統制の中央集権化
には、航空戦力の指揮は地上部隊指揮官とは別の空軍士官が行うという、地上部隊に
対する航空戦力の独立という側面と「現代戦において航空戦力に対する需要は大きく、
供給は比較的少ない」という需給の不均衡に対応するため戦域レベルの指揮官が航空
戦力全体の最適配分を行うという「戦力の節用(economy)Jの側面の2つがある’3。
さらには、こうした航空作戦の指揮の一元化の問題に加えて、戦域レベルの指揮官が
個々のアセットの行動に対してどの程度の統制を発揮するかという、マイクロマネー
ジメントの問題もここには含まれている。
空軍ドクトリンの「根本原則」として航空作戦の中央集権化を端的に示すのが「中
央集権型統制と非中央集権型執行」(CCDE)である’七
このCCDEにある「中央集権
型統制」は「1人の指揮官に軍事作戦あるいはあるグループ・カテゴリーの作戦の計画、
指示、調整の責任と権限を付与すること」を指す‘う。
2015年版AFDD1「空軍基本ド
クトリン」によれば、空軍力は「強力で、かつ高い需要がありながらも有限」であり、
これを「バランスをとり、優先順位を付けて活用」するためには、航空戦力を小分け
にするのではなく「広範で、戦略的な視点を有する1人の空軍軍人」に戦域に投入さ
れる航空戦力全体を統制させることが必要となる36。
それでこそ必要なところに適時戦
力を投入することが可能になり、そこに「中央集権的統制から生まれる柔軟性」があ
るという37。これが「中央集権型統制」である。
29 War Department, FM 100-20 Command and Employment of Air Power (Washington, DC: U.S. Government
Printing Office,1944), pp.1,2.
30 U.S. Air Force, AFDD 1 Air Force Basic Doctrine (Maxwell AFB, AL: Headquarters Air Force Doctrine
Center,1997), p. 23.
31 Hinote, Centralized Control, p.10.
32 U.S. Air Force, AFDD 7, p. 23.
33 Hinote, Centralized Control, p.13.
34 U.S. Air Force, Basic Doctrine, vol.1(Maxwell AFB, AL: LeMay Center, 2015), “Centralized Control and
Decentralized Execution.,9
35 Joint Chiefs of Staff, JP 3-30 Joint Air Operations (Washington, DC, 2021),p. GL-6.
36 U.S. Air Force, Basic Doctrine.
37 Jeffrey W. Donnithorne, Four Guardians: A Principled Agent View of American Civil-Military Relations
(Baltimore, MD: Johns Hopkins University Press, 2018), p.117.
52
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
他方、CCDEに含まれるもう一つの原則「非中央集権型執行」は「執行権限を下位
の指揮官に委ねること」を意味する38。
2015年版AFDD!では「戦術的機会を活用し、
変化する局地的な環境に対応するための柔軟性」を確保するために打撃パッケージ指
揮官、航空戦闘管理官、前方航空管制官などの「前線の意思決定者」が「現場での意
思決定」を行うことと説明されている’七
なお、ここでいう「1人の指揮官」とは、通常、統合軍において航空作戦を一元的
に指揮するために設置される統合軍航空構成部隊指揮官(JFACC。あるいは他国軍を
含む場合は連合軍航空構成部隊指揮官(CFACC)となる)を指す。
そして、JFACC
による航空作戦の指揮統制はその直下に設置される航空作戦センター(AOC)を通じ
て行われる%そのAOCは、作戦に投入する機体や部隊について「予定されるソーティ、
能力、戦力を目標や特定の任務に割り当てる」詳細な文書である航空任務命令(ATO)
を作成し、各部隊に伝達する料。このようにJFACC – AOCは、ATOを通じて、一つ
の戦域全体の航空戦力について細部にわたる統制を発揮しているといえよう。
(2) CCDE原則の見直しとミッションコマンド
前述のようにCCDEには中央集権化と非中央集権化の両方の要素が含まれるが、実
際には米軍の航空作戦のネットワーク化が進むにっれ中央集権化の傾向が強く出てい
た。
2009年の研究でクリント・ハイノート(Clint Hinote)は、1990年代に生じた情
報通信技術の進歩により戦域レベルの指揮官であるJFACC自身が「個々の航空機の
行動を指示」するなど「戦術レベルでの執行に直接関与」することカヾ「可能であるば
かりか、容易」にすらなり、1995年に行われたボスニア・ヘルツェゴビナに対する空
爆でそれが現実のものとなったと指摘した42。
JFACC • AOCを中心とする中央集権化は脆弱性ももたらすものであった。
それは、
陸上の固定的な施設であるAOCが攻撃された場合や、JFACC – AOCと各部隊の間
38 Joint Chiefs of Staff, JP 3-30. p. GL-6.
39 XJ S Air Force Basic Doctrine
40 AOCはJFACとの「上級機関」であり「空軍の航空および宇宙作戦の指揮統制を提供し、他の構成部隊や軍
種との調整を行う」ものとされる。地域別AOCとしては、インド太平洋軍向けに3個、欧州軍•アフリカ軍
向けに1個、中央軍向けに1個、北方軍向けに1個など、通常は戦域レベルで1個設置されている。また、機
能別AOCとしては航空機動軍や空軍グローバル打撃軍などにもそれぞれ設置されている。なお、インド太平
洋軍に3カ所設置されているのは、アラスカ周辺、在韓米軍、それ以外のインド太平洋軍責任区域にそれぞれ
設置されているためである。U.S. Air Force, AFDP 3-30 Command and Control (Maxwell AFB, AL: LeMay
Center, 2020), pp. 48-51; Joint Chiefs of Staff, DOD Dictionary, s.v. uair operations center^^; and “USAF Major
Commands and Air National Guard,” Air & Space Forces Magazine, vol. 106, no. 7 (June/July, 2023), pp. 77,
83, 84.
41 Joint Chiefs of Staff, JP 3-30, p. GL-6.
42 Hinote, Centralized Control, p.11.
53
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
の通信が妨害された場合、それが指揮する航空戦力全体を麻痺させかねないためであ
る。
米空軍協会ミッチェル空軍力研究所のデービッド・デプチュラ(David A. Deptu-
la)退役空軍中将は2014年の論考で、航空作戦の指揮統制の「最上位のエレメントで
あり、統合軍指揮官の航空戦略を執行可能な計画に転換」するAOCが敵対国の長距
離ミサイルに対して「きわめておいしいターゲット」になっていると指摘した43。
米空
軍戦略大学のジーン・カメナ(Gene Kamena)も同様に「現在の空軍のC2 [指揮統制]
プロセスと構造は中央集権化し、硬直的で、そして脆弱」とし「もしAOCが妨害を
受ける、あるいは破壊されれば、[空軍の]作戦は阻害され、同期されなくなってしま
う」と指摘したく七
こうした状況において空軍関係者からは中露との武力紛争における米軍の指揮統制
への妨害の可能性を前提として、中央集権化の是正を訴える議論がみられるようになっ
た。
2014年7月の共著の論文でマイケル•ホステージ(Michael Hostage III)航空戦
闘軍(ACC)司令官は、CCDEが「現代の係争•拒否環境下の作戦に当てはめた際に
不完全さを露呈」すると指摘した45。
ホステージはイラク•アフガニスタンを含めこれ
までの軍事作戦でCCDEの「不完全さ」が認識されなかったのは、CCDEの基礎となっ
ていた米軍の指揮統制、通信、データリンク、航法システムに対する妨害が存在しな
かったためであり、これらは中国等を想定した「接近阻止•領域拒否(A2/AD)環境
下ではほぼ確実に攻撃を受ける」と指摘した46。
そこで、ホステージはCCDEに代わり
「中央集権型指揮、分散型統制、非中央集権型執行(centralized command, distributed
control, and decentralized execution)」(CC-DC-DE)を提唱した 43 44 * 46 47 *〇 CC-DC-DE の特
徴は、JFACC – AOCと線下部隊の間の通信が妨害を受けた場合に「線下部隊指揮官、
機関、作戦センター、戦闘管理指揮統制(BMC2)プラットフォーム」が航空作戦の
統制を行う「分散型統制」が含まれる点であるく.。
ホステージの問題意識は2020年以降の空軍ドクトリン文書に反映されていった。
2020年3月に、統合参謀本部が進める統合全ドメイン作戦(JADO)に関連して空軍
43 David A. Deptula, “A New Era for Command and Control of Aerospace Operations?^, Air & Space Power
Journal, vol.28, no. 4 (July/August 2014), p. 7.
44 Gene Kamena, “Before Mission Command/9 Wild Blue Yonder. April 20, 2023, https://www.airuniversity
.af.eduAVild-Blue-Yonder/Articles/Article-Display/Article/3368347/before-mission-command/.
45「係争・拒否(contested and denied) Jあるいは「係争(contested)」は、米軍自体が敵対国の攻撃を受けて、
その行動が制約を受ける状況を指し「A2/AD環境」の言い換えとしてしばしば用いられる。
46 Gilmary Michael Hostage III and Larry R. Broadwell Jr., “Resilient Command and Control:rThe Need for
Distributed Control,” Joint Force Quarterly, no. 74 (3rd Quarterly, 2014), p. 38.
47 Ibid.
48ホステージらは、統制活動を引き継ぐBMC2プラットフォームとして、E-2早期警戒機、E-3早期警戒管制機、
E-8 JSTARS を挙げている。Ibid., pp. 38, 39.
54
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
が作成したAFDN 1-20「統合全ドメイン作戦における米空軍の役割」は「係争環境
では常続的なリーチバック[注:前線部隊から後方の司令部や本土にある情報にアク
セスすること]は保証されず」今後の「JADOでは、より一層の非中央集権型執行、
より高度の権限委任、中央での計画作成とミッション指示への依存を減らすことが求
められる」としたく%その上でAFDN 1-20は、指揮官が指揮官企図を明確に示し、そ
れ以上の指示がなくともこれに基づいて線下部隊が行動するミッションコマンドが必
要であると説明していた弟。
さらに、米空軍が「ミッションコマンドを空軍力の指揮統制の哲学として正式に確立」
し・それを具現化するためのCC-DC-DEを採用したのは、2021年4月に基幹ドクト
リンAFDP1「米空軍」を改訂した際においてである49 50 51 52(CC-DC-DEについては表参照)。
表2021年版AFDP1「米空軍」で規定された「中央集権型指揮、分散型統制、
非中央集権型執行」(CC-DC-DE)原則
中央集権型指揮 Centralized command ミッションコマンドの指揮統制哲学を用いて、軍事作戦の計画、指示、 調整を行う責任と権限を特定の指揮官(通常JFACCを想定)に付与。 中央集権型指揮により、線下指揮階梯におけるイニシアティブ発揮を 許容しつつ、環境の変化への対応、優先順位付け・バランスが可能。 作戦レベルでの柔軟性と多用途性を確保。
分散型統制 Distributed control 実効的なスパン•オブ・コントロールを確立するため、指揮官(通常 JFACCを想定)が、分散された場所あるいは款下指揮階梯に、計画 作成と調整活動を委任。明確に伝達された指揮官企図に基づき、款下 部隊指揮官が作戦環境の変化と一瞬の好機活用が可能。任務型命令、 否認による指揮による部下への権限付与。
非中央集権型執行 Decentralized execution 実効的なスパン•オブ・コントロールを確立し、戦術レベルでの規律 あるイニシアティブを醸成するための権限委任。ダイナミックな状況 で部下が一瞬の好機をつかむことを可能にするもの。前線の意思決定 < (打撃パッケージリーダー、航空戦闘管理官、前方航空統制官)が 現場で効果的な意思決定を行いうるようJFACC •線下指揮階梯は任 務型命令により指揮官企図を明確に伝達。
(出所)U.S. Air Force, AFDP 1 The Air Force (Maxwell AFB, AL: LeMay Center, 2021),pp.13,14.
49 U.S. Air Force, AFDN 1-20 USAF Role in Joint All-Domain Operations (Maxwell AFB, AL: LeMay Center,
2020), p. 5.
50 Ibid., p. 6.
51 CQ Brown (@GenCQBrownJr), “The New Air Force Doctrine Publication (AFDP)-1 Formally Establishes
Mission Command as the Philosophy for the Command & Control of Airpower,” Twitter, April 22, 2021,
https://twitter.com/gencqbrownjr/status/1385264895348903941.
52「基幹ドクトリン(capstone doctrine)Jは各軍の作戦の基本的な原則を示す中核的なドクトリン文書で、これ
から枝分かれして分野別にドクトリン文書が作成される。空軍のかつてのAFDD!や現行のAFDP1、海軍の
NDP1、海兵隊のMDCP h陸軍のADP 3-0などが基幹ドクトリンと位置付けられている。
55
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
それ故に、2021年の改訂は「空軍の歴史で最も抜本的な基幹ドクトリンの改訂」とさ
れる叫
なお、AFDP1は、ミッションコマンドを「空軍力の原則」の第一とした上で、
ホステージが2014年に提唱したCC-DC-DEを、ミッションコマンドを具現化するも
のと位置付けた%。
CC-DC-DEの最大の特徴は「中央集権型統制」に代わり「分散型統制」が設けられ
たことであるが、そこでは、これまで戦域レベルで設置されるAOCで行われていた「計
画作成および調整活動」を「分散された場所あるいは款下指揮階梯に委任」するとい
う形でミッションコマンドが反映されている。
この委任にあたりJFACC-AOCは「分
散された場所あるいは款下指揮階梯」に対し任務型命令により命令を伝達するあ、それ
によって示された指揮官企図の下「線下部隊指揮官が作戦環境の変化に対応し、一瞬
の好機をつかむことが可能になる」と説明される%。
AOCの脆弱性への対処法として
はその機能を物理的に分散するアプローチも模索されているがカ、他方で、AOCと款
下部隊の通信が途絶えても、空軍部隊が全体として作戦を継続できるようにすること
を狙ったのがこの分散型統制である。
空軍において分散型統制は、航空作戦の統制を
AOCからそれより下の指揮統制ノードに委任する形でミッションコマンドの分権の側
面を具体化するものとして位置付けられている53 54 55 56 57 58 59〇
さらに「分散型統制」がミッションコマンドを具体化するものとして位置付けられ
ていることと関係し、CC-DC-DEで命令は適切な場合において任務型命令として発出
することとなっている。
これまでAOCで作成されてきたATOは作戦に投入する機体
や部隊について「予定されるソーティ、能力、戦力を目標や特定の任務に割り当てる」
詳細な文書であるカヾ、前述のカメナによればATO は「指揮官企図を重視するという
点が欠落」し「仮に状況が変化した場合、あるいはした時にどうするかという点につ
いて指針が十分に示されていないため任務型命令とはなっていない」のだという弟。
前
述のヴェゴの指摘を繰り返せば「款下部隊指揮官がイニシアティブを発揮する必要性
53 Air University Public Affairs, “Air Force Rewrites Basic Doctrine, Focuses on Mission Command, Airpower
Evolution,” April 22, 2021,https://www.af.mil/News/Article-Display/Article/2581921/air-fbrce-rewrites-basic
-doctrine-focuses-on-mission-command-airpower-evolution/.
54 U.S. Air Force, AFDP 1 Air Force (Maxwell AFB, AL: Curtis E. LeMay Center, 2021),p.13.
55 Air University, “‘Visualizing ACE,” YouTube video, 5:16, https://www.youtube.com/watch?v=LKGeCpdOOjM&t=72s.
56 U.S. Air Force, AFDP 7, p.13.
57 Shaun Waterman, “Using 5G to Create a “Disaggregated and Distributed, AOC,^^ April 7, 2021, Air & Space
Forces Magazine, https://www.airandspacefdrces.com/using-5g-to-create-a-disaggregated-and-distributed-aoc/.
58 AOCが任務命令の形で指揮官企図を示し、それによって下位の指揮統制ノードが具体的な命令を作成し、航
空作戦を統制することをミッションコマンドの具体化であるとする見解は以下を参照。Trent R. Carpenter,
“Command and Control of Joint Air Operations through Mission Command,Air & Space Poyver Journal, vol.
30, no. 2 (Summer 2016), p. 56.
59 Kamena, “Before Mission Command.”
56
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
が少なければ、詳細な命令の必要性が増すとともに、指揮官企図を伝える必要性は少
なくなる」のであり、逆に現場での判断を求めるのであれば、変化する目の前の状況
に照らして判断を行う基礎となる上位の指針や「なぜ」の説明を示す必要がある。
すなわち、CC-DC-DEで任務型命令が強調されるのは、それがミッションコマンドを志
向することを示している。
(3)「機敏な戦闘運用」(ACE)におけるミッションコマンド
空軍がミッションコマンドを導入したことは「機敏な戦闘運用」(ACE)として分散
型の作戦を志向していることによっても促されている。
冷戦後に行われた米軍基地の
統廃合により海外における空軍の基地機能が「主要作戦基地」(MOB)と呼ばれる少
数の大規模な基地に集約されるようになった上に、そのMOBが長距離打撃能力の攻
撃圏内に含まれるようになったことをうけて、それがもたらすリスクを軽減する策と
してACEは導入された6°。
ACEに関する空軍ドクトリン文書AFDN 1-21「機敏な戦闘運用」(2022年)によれば、
ACEは「戦闘力を造成しつつ、強靭性と生存性を向上するため、脅威タイムラインの
中で実行される機動スキーム」と定義されるが、これまでの空軍の作戦がMOBを拠
点として行っていたところ、航空戦力を小規模なグループに分けて、大規模な施設を
持たない「簡素な拠点(austere locations)」に展開、そこから作戦を行い、必要に応
じて迅速に移動を繰り返すG】。
そうした航空戦力の分散•移動により「敵によるターゲ
ティングを複雑化」し、米軍の「生存性を増大」することがACEには期待されてい
る60 61 62〇
このACEを可能にする要素の一っとしてAFDN 1-21が挙げるのが「最も下位で能
カのある^!下部隊指揮官に、彼らのレベルにおいて決定を下し、決定的行動を取る権
限を付与」するミッションコマンドである。
そして、AFDN 1-2Iは、ミッションコマ
ンドを「将来の同格の国家との紛争」で予想される「通信拒否•劣化状況においても
機会を捉えるために求められる柔軟性と機敏性を提供」するものとして、中露との武
力紛争の可能性とミッションコマンドを結び付けている63〇
分散型作戦であるACEと空軍におけるミッションコマンドの導入が関連している
60 U.S. Air Force, AFDN 1-21 Agile Combat Employment (Maxwell AFB: LeMay Center, 2022), p.1.
61 Greg Hadley, “Brown: Air Force May Never ‘Slap the Table/ Finish Iterating ACE/9 September 27, 2022, Air
and Space Forces Association, https://www.airandspaceforces.com/brown-air-fbrce-may-never-slap-the-table
-on-ace/.
62 U.S. Air Force, AFDN 1-21,pp. 2, 3.
63 Ibid., pp. 5, 7.
57
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
ことは、ACEが太平洋空軍(PACAF)のイニシアティブとして始められた経緯から
も裏付けられる。
PACAFは、2013年以降、4機のF-22戦闘機と同機の運用に必要
な整備要員•整備資機材を搭載したC-17輸送機(1機)のパッケージをハワイあるい
はアラスカの空軍基地から西太平洋の基地に迅速に移動、展開後24時間以内にその
場所から発進できる状態にすることを目指す「ラピッド・ラプター」訓練を実施して
いた64。
ラピッド・ラプターには、数の少ないF-22の柔軟な活用という側面と中国の長
距離打撃能力への対応の両方の側面があった65。
それが、2017年以降「いかに、作戦
機動を行うか」、「それらの指揮統制をどのように実現するか」という「より大きな構
図にどのように結びつけるか」を意識したものへと発展したのがACEである66。
そして、PACAF司令官としてACEの空軍全体への普及に尽力したC-Q•ブラウン(C.Q.
Brown)空軍大将がも、2020年8月に空軍参謀総長に就任したことにともない、ACE
は全空軍の公式な取り組みとして位置付けられたのである68。
ラピッド•ラプターを推進していたPACAFは、2014年公表の戦略文書において空
軍全体に先駆けてCC-DC-DEを採用したことを明らかにしていたGん
また、スティー
ブン•バシャム(Steven L. Basham) PACAF戦略•政策•プログラム部長は2015年
の論文で、CC-DC-DEを「適切なレベルの指針、権限、および信頼」を「すべての階
梯の指揮官」に付与することで任務の完遂を可能とする「ミッションコマンドという
考え方の精神を具現化」するものと位置付け、CC-DC-DEに含まれる分散型統制を実
現する上では、ミッションコマンド、指揮官企図による統一行動の確保、機敏で柔軟
な戦域航空管制システムが必要となると説明していた7°。
さらに、2020年2月のインタ
ビューでブラウンPACAF司令官(当時)も、ACEがPACAFで引き起こした変化と
64 Amy McCullough, “Don’t Call It a Comeback,” Air Force Magazine, vol.98, no. 7 (July 2015), p. 25; and
Marc V. Schanz, “Rapid Raptor Package,September 26, 2013, Air and Space Forces Association, https://www
.airandspacefbrces.com/box092613rapid/
65 David A. Williamson, “Pacific Air Forces’ Power Projection: Sustaining Peace, Prosperity, and Freedom,” Air
& Space Poyver Journal, vol.29, no.1(January/February 2015), pp. 58-59.
66 Amy Hudson, “ACE in the Hole,” March 30, 201 7, Air and Space Forces Association, https://www
.airandspacefbrces.com/article/ace-in-the-hole/; and Amy Hudson, “Rapid Raptor 2.0,^, March 7, 2017, Air and
Space Forces Association, https://www.airandspacefbrces.com/rapid-raptor-2-0/.
67 “What’s on the Mind of Gen. C.Q. Brown,” Air Force Magazine, vol. 103, no. 4 (April 2020), p. 9;
and Jennifer Hlad and Amy McCullough, “ACE-ing the Test: WestPac Exercise Stresses Agile Combat
Employment,,9 Air Force Magazine, vol. 103, no. 5 (May 2020), p. 40.
68ブラウンの空軍参謀総長就任の翌年議会に提出された2022会計年度空軍省態勢報告は「新しいアプローチ」
としてACEを挙げたが、前年の2020年、ブラウンの前任者であるデービッド・ゴールドフィン(David L.
Goldfein)空軍大将から議会に提出された202I会計年度空軍態勢報告にはACEに関する言及はない。
69 Pacific Air Forces, Pacific Air Forces: Command Strategy (Hickam AFB, HI, 2014), p.10; and Headquarters
Pacific Air Forces Public Affairs, UPACAF Modifies Command Strategy,” October 10, 2023, PACAF, https://
http://www.pacaf.af.mil/News/Article-Display/Article/591127/pacaSmodifies-command-strategy/.
70 Steven L. Basham and Nelson D. Rouleau, “A Rebalance Strategy for Pacific Air Forces Flight Plan to
Runways and Relationships,Air & Space Power Journal, vol.29, no.1(January/February 2015), p.11.
58
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
して分権型の指揮統制の導入を挙げていた71。
これらの経緯からも、ACEはミッション
コマンドを前提として導入されたものといえよう。
本節における検討から、空軍が中国やロシアとの武力紛争を前提とした場合に指揮
統制の中央集権化がもたらすリスクを認識し、指揮統制や通信が妨害を受ける状況で
も作戦を継続できるようにするため、ミッションコマンドの採用に至ったこと、そし
てそれは、空軍がこれらの大国との武力紛争を前提にACEとして分散型作戦を追求
していることからも促されたことが明らかとなった。
3.米海軍——分散型海上作戦(DMO)とミッションコマンド
(1)海軍における指揮統制の中央集権化
英海軍から多くの伝統を引き継いだ米海軍は「独立・自律意識」が強く、「自律的
な行動とイニシアティブは海軍のエトスの重要な部分を占めている」としばしば評さ
れる72。
これは上級司令部から隔絶した海上における戦闘では、個々の指揮官による
自律的な判断が求められることによるものとされる。
それは、指揮官企図を十分に
含めた上で戦闘中の対応については線下部隊指揮官に任せる「ネルソンタッチ」や、
上官は部下の判断に問題がない限り介入を控える「否認による指揮(command by
negation)Jのような原則に象徴される?3〇
しかし、その米海軍も通信技術の発展もあり中央集権化とは無縁ではなくなった,七
第2次世界大戦中、合衆国艦隊司令官兼海軍作戦部長として海軍を率いたアーネスト・
キング(Ernest J. King)は、大西洋艦隊司令官であった194I年1月21日付で発出
した訓令「指揮権の行使——命令および指示における過剰な詳細」で「何をなすべき
か」だけではなく、それを「どのようにすべきか」についてまで命令•指示を出すと
いう行いが海軍に蔓延しているとしてこれを批判し「指揮の本質的要素」である「部
下によるイニシアティブ発揮」に立ち返ることを求めていた。
キングによれば、枢軸
国との戦争で指揮官には線下部隊の行動の細部に立ち入る時間や機会はないはずであ
り、付与した任務をどのように遂行するかは部下に任せるべきであると説いたのであ
71 “What’s on the Mind of Gen. C.Q. Brown,” p. 9.
72 S. Rebecca Zimmerman, et al., Movement and Maneuver: Culture and the Competition of Influence among
the U.S. Military Services (Santa Monica, CA: RAND, 2019), p. 53.
73 Graham Scarbro, “Go Straight at ‘Em!’: Training and Operating with Mission Command,Proceedings, vol.
145, no. 5 (May 2019), p. 23.
74 Vego, General Naval Tactics, p.152.
59
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
しかし冷戦期にはさらに海軍作戦の中央集権化が進んだと指摘される。
その背景に
は、冷戦期に開発された空母打撃群(CSG)を指揮するために用いられてきた海軍作
戦の指揮統制の枠組みである複合戦指揮(cwoの影響があるとされる。
キット・ディ
アンジェリス(Kit de Angelis)、ジェイソン・ガーフィールド(Jason Garfield)の2
人は2016年の論考で、CWCは「否認による指揮」を可能とするように開発されたも
のの、介入的な監督と上級司令部からの統制によるマイクロマネージメントの手段と
なっており、司令部が個艦の「操艦号令」に匹敵するような細かい指示をチャット上
で出すなどが行われていると指摘した76。
また、デール•リアレッジ(Dale C. Rielage)
は、海軍の航空部隊が1990年代以降、JFACCの指揮下で作戦を行うようになったこ
とで、空軍の中央集権化の影響を受けたと指摘している77。
また、ヴェゴによれば「情
報技術の進歩は、下級指揮官の行動の自由の拡大につながることはなく、むしろ実際
には下級指揮官が自身に命じられた任務を遂行するために必要なイニシアティブを発
揮する余地を減少させ、あまっさえ消滅さえさせるための非常に効果的な道具となっ
たのである」という75 76 77 78〇
(2)海軍におけるミッションコマンドに関する議論
中央集権化が進んだと批判される海軍における指揮統制の見直しは、米海軍が中
国の軍事的脅威に対応するために「分散型戦闘力(DL)」、のちに「分散型海上作戦
(DMO)Jコンセプトとして分散型の作戦を追求するようになったことにより触発さ
れた。
DLはトーマス・ ローデン(Thomas Rowden)太平洋艦隊水上部隊司令官らが
Proceedings 2015年1月号で打ち出したもので、中国の脅威増大により、米海軍が「制
海を所与のものとできなくなった」状況を踏まえ、CSGの護衛任務や対地攻撃任務に
充てられてきた水上部隊の個艦の対艦攻撃能力を強化した上で、これらをCSGから
独立した「ハンターキラー」水上行動群(SAG)として対艦攻撃任務に投入すること
を提唱した。
これは、CSGから離れて、分散して行動するSAGを敵艦艇攻撃に投入
することで「競技場を拡大する」すなわち敵に多方面からの防御に戦力を割くことを
75 Thomas B. Buell, Master of Seapower: A Biography of Fleet Admiral Ernest J. King, first Naval Institute
Press paperback edition (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2012), pp. 521,522; and Milan Vego,
Operational Warfare at Sea: Theory and Practice. 2nd ed. (London: Routledge, 2017), p. 93.
76 Kit de Angelis and Jason Garfield, “Give Commanders the Authority,Proceedings, vol. 142, no.10 (October
2016), p.19.
77 Dale C. Rielage, “Act on Commander’s Intent: The Navy Must Return to a Decentralized Command-and-
Control Culture to Produce Combat Victories,Proceedings, vol. 143, no. 4 (April 2017), pp. 32-37.
78 Vego, General Naval Tactics, p.149.
60
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
強要することをねらったものである?9〇
さらに、DLコンセプトは2017年1月の「水上部隊戦略——制海への回帰」で海軍
水上部隊のコンセプトに”、さらに、2018年12月の「海上優勢維持のためのデザイン
Version 2.0Jで、DMOとして海軍全体のコンセプトへと位置付けられた引。
2022年7
月にマイケル・ギルディ(MichaelM. Gilday)海軍作戦部長(当時)が公表した「航
海計画2022Jによれば、DMOコンセプトは以下のような特徴を持つという。
すなわち、
①「長距離精密火力をすべてのドメインとより長大なリーチを持つプラットフォーム」に分散することで「生存性を高めつつ敵対的ターゲットを打撃」、
②「戦力を地理的、
および全ドメインに分散」することにより「敵を複数の攻撃軸から脅かす」ことがで
きること、
③「すべてのドメインをまたがってセンサー、兵器、意思決定者を繋げる」
ことで「戦力を集中することなく火力と影響力を集中」するものであるという82。
また「航
海計画2022」の説明からも、DMOコンセプトはネットワーク上での接続が前提となっ
ていることがわかる。
DLさらにDMOコンセプトの検討が進むにつれて海軍中枢からもこれらとの関連
で分権型の指揮統制に言及がされるようになった。
2016年1月、ジョン・リチャード
ソン(John M. Richardson)海軍作戦部長が公表した「海上優越維持のためのデザイ
ンVersion 1.0Jは「海軍が指揮官企図に導かれる非中央集権型作戦の備えをする必要
がある」とし「この目標を達成する能力は、甘受可能なリスクに関する同僚間や指揮
官と部下の間における明確な理解に基づく信頼と信任に拠っている」と説明するなど、
ミッションコマンドの中核的な概念に言及した83。
さらに、前述の「海上優勢維持のた
めのデザインV ersion 2.0J (2018年)はDM0コンセプトを「我々のミッションコマ
ンドの文化を活性化し、引き続き強化」するものと位置付けた”七
こうした動きに触発されて海軍関係者の間では分権型の指揮統制に関する議論が活
発になった。
前述のディアンジェリスとガーフィールドは水上艦のDLコンセプトを
実現する上では「事前あるいは特に敵対行為が開始して以降の指示が上級司令部から * * * * * *
79 Thomas Rowden, Peter Gumataotao, and Peter Fanta, “‘Distributed Lethality’,” Proceedings, vol. 141, no.1
(January 2015), https://www.usni.org/magazines/proceedings/2015/january/distributed-lethality.
80 Commander, Naval Surface Force, Surface Force Strategy: Return to Sea Control (n.p., 2017), https://mediadefense.gov/2020/May/l 8/2002302052/-1/-1/1/SURFACEFORCESTRATEGY-RETURNTOSEACONTROL.
PDF.
81 John M. Richardson, A Design for Maintaining Maritime Superiority, Version 2.0 (Washington, DC: OCNO,
2018), p. 8.
82 Michael M. Gilday, Navigation Plan 2022 (Washington, DC: OCNO, 2022), p. 8.
83 John M. Richardson, A Design for Maintaining Maritime Superiority, Version 1.0 (Washington, DC: OCNO,
2016), p. 5.
84 Richardson, A Design, Version 20, pp. 8, 9.
61
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
ほとんどあるいはまったくなくとも、各艦長が自身の艦を指揮する上で必要な決定を
行う権限が付与されていることが必要」であると指摘しため。また、アンドリュー •ビーラー (Andrew Beeler)も、2017年の論考で「水上艦艇が独立した部隊として空母打
撃群から離れて敵を攻撃する」というDLコンセプトを実現するためには「艦長は自
律的に彼らの艦の戦闘指揮を執り、空母打撃群における現在のリーダーシップモデル
から脱却する権限が与えられる」ことが必要であり「分散型戦闘力には権限の分散が
必要」と主張した86。
海軍において分権型指揮統制は、中国との武力紛争で想定される敵の妨害•攻撃に
よる、通信が拒否・遮断(denied-disconnected)、間欠的(intermittent)、低帯域幅(low
bandwidth)となるD-DIL環境への対応として主張される側面もある。
ダニエル・ス
テファナス(Daniel Stefanus)は、D-DIL環境における作戦を「ダークバトル」と位
置付け、そこでは「通信が途絶した段階で適切に戦えるよう、線下部隊指揮官が指揮
官の思考、視点、許可敷居値を細かいレベルにおいて理解しておく必要」があり、そ
のためには現在の参謀と部隊の間にある「官僚的距離感」とは大きく異なる「親密な
関係」が必要であると指摘した87。
スコット•スウィフト(SeottSwift)太平洋艦隊司
令官(当時)も、2018年の論考でミッションコマンドの必要性を説いた際には将来の
大規模な戦争では通信やネットワークに対する妨害が想定されることを理由として挙
げている85 86 87 88 89〇
なお、海軍がミッションコマンドを正式に採用したのは、2020年4月に海軍が海兵隊、
沿岸警備隊とともに「海上軍種(Naval Service) Jとしての基幹ドクトリンNDP1「海
上戦」を改訂した際においてである。
NDP1は、海上戦闘のネットワーク化の効用に
言及した上で、敵の妨害や故障によりシステムが途絶したり、むしろ米軍側が敵によ
る探知を回避するために電波を発信するネットワークの使用を意図的に控えたりする
こともありうるとして「統一行動を維持しながら、非中央集権型作戦を積極的に推進」
すると述べた8%その上で、指揮に対するアプローチとして「指示による指揮」、「計画
による指揮」、「影響による指揮」の3つを挙げ、「指示による指揮」、「計画による指揮」
の2つが「不確実性をなくそうとする」ものであるのに対して「影響による指揮」す
85 De Angelis and Garfield, “Give Commanders the Authority/9 pp.19, 20.
86 Andrew Beeler, “Distributed Lethality Requires Distributing Authority: For This State-of^the Art Surface-
Warfare Concept to Work, the U.S. Navy Must Recognize the Leadership Challenges It Poses?^^ Proceedings.
vol.143, no.1(January 2017), pp. 55, 57.
87 Daniel Stefanus, “Embracing the Dark Battle: Electronic Warfare, Distributed Lethality, and the Future of
Naval Warfighting,” Proceedings, vol. 143, no. 4 (April 2017), p. 30.
88 Scott Swift, “Master the Art of Command and Control,Proceedings, vol. 144, no. 2 (February 2018), p. 31.
89 David H. Berger, Michael M. Gilday, and Karl L. Schultz, NDP 1 Naval Warfare (Washington, DC: DON,
2020), pp. 43, 44.
62
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
なわちミッションコマンドは「確実性のニーズ自体を減らそうとする」もので、これ
こそが「選好されるアプローチ」であるとした知。
NDP1では、指揮官が逐次の指示を行うことなく全体の整合を保つとともに局地的
な状況に応じた!t下部隊指揮官のイニシアティブ発揮を可能とするものとして指揮官
企図が強調され、款下部隊指揮官による「規律あるイニシアティブ」にも言及される
など、ミッションコマンドの中核的な概念も取り上げられている”°
なお、NDP1では
「規律あるイニシアティブ」の出典は「DMOコンセプト」となっており、海軍にお
けるミッションコマンドの採用とDMOコンセプトが関連していることを示唆してい
る90 91 92 93 94〇
本節でみてきたように、海軍にはネルソンタッチや否認による指揮など、分権型の
指揮統制の伝統はあったものの、近年は中央集権化が進んでいた。
それに対し、海軍
では、中国との武力紛争を想定すれば米軍自身が指揮統制や通信への妨害を受けるこ
とを前提にする必要があるとの認識が深まるとともに、中国等との武力紛争を想定し
て分散型作戦を進めていることから、ミッションコマンドの重要性が認識されるに至っ
た。
4.分散型作戦における「統一行動(unity of effort) J
(1)戦力の分散と火力の集中
海軍のDMOコンセプトに関連して海軍関係者から「分散型戦闘力には権限の分散
が必要」といった主張が展開されているように、海軍についても空軍についても、分
散型作戦と分権型指揮統制の必要性が結び付けられて論じられることが多い93。
しかし、分散型作戦に通常は中央集権化を必要とするような要素も同時に含まれる
ことにも注意が必要である。
前述のリアレッジによれば、実際には「たいていの分散
型戦力のデザイン」は威力を発揮する上で「中央集権型指揮に依存」しており、分散
型作戦が必ずしも分権型の指揮統制をもたらすことにはならない’ん
前述の「航海計画
2022」でも明らかにされているように、DM0コンセプト自体がネットワーク上での
センサー•兵器•意思決定者の接続が前提となっているためである。ドミトリー・フィ
90 Ibid., p. 45.
91 Ibid., pp. 46-47.
92 Ibid., p. 71.
93 Beeler, “Distributed Lethality Requires Distributing Authority.,, p. 54.
94 Rielage, uAct on Commander’s Intent,” pp. 32-37.
63
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
リポフ(Dmitry Filipoff)も、DM0コンセプトは「分散型」の名称が持つイメージと
は異なり「プラットフォーム中心のコンセプトではなく、ネットワーク中心のコンセプ
bjであると指摘している95 96 * 98 99 100 101 102〇
この背景には現在の海上戦闘に特徴的な構造がある。
ロバート・ルーベル(Robert
Rubel)は将来の海上戦闘とミッションコマンドとの関係を論じた論考で、海上戦闘
には①「体系的戦闘(structured battle)」、②「混戦(melee)」、③「狙撃(sniping)J
があり、どのような海上戦闘もこの3つのバリエーションとして説明できると述べ
た96。
①の「体系的戦闘」は、一体としての機動、火力の集中、相互支援を行うため、
戦闘に参加する単位間の調整を前提とする97。
これに対し、②の「混戦」は「敵の混乱
と士気喪失に乗じて、なるべく多くの敵艦艇を攻撃して、敵艦隊の無力化をねらう」
もので、いったん混戦に移行した以降は参加する各単位の間の調整は行われない98。
③の「狙撃」は伏撃戦闘(ambush warfare)であり、各単位の独立的な戦闘による点は
②の「混戦」とも共通するが、通常、敵の勢力が強く「体系的戦闘」が困難な環境で
最初から各単位が分散して行われる点が異なる”〇
ルーベルによれば「戦闘ネットワークは・••効果的なミサイル戦闘の前提条件」
であり「体系的戦闘こそが、可能な限り多くの単位による射撃調整が行われる、ベス
卜の戦闘様式」である。
特に超水平線で行われる対艦ミサイル戦闘では、遠方にある
センサーからネットワークを経由して伝達される目標情報を受け取り、目標を能動的
に識別することが必要になるが吐個艦に搭載されているセンサーだけで攻撃を行うの
であれば、その艦が持つミサイルの射程を活かすことができず「優先度の低い目標に
対してミサイルを浪費することになりかねない」ためであるゆ。
さらに、現在のミサイ
ル戦闘では1隻が発射するミサイルだけでは敵艦艇が持つ防御手段により吸収されて
しまうため1°2、ネットワーク上で繋がった複数のプラットフォームにより複数の攻撃軸から攻撃を行う共同交戦が必要になる。
こうした分析の上でルーベルは「現代の、分
散型ミサイル戦闘ではネルソン的なパラダイムは役に立たない」と結論づけたのであ
95 Dmitry Filipoff, “Fighting DM0, Pt.1:Defining Distributed Maritime Operations and the Future of Naval
Warfare,” February 20, 2023, https://cimsec.org/fighting-dmo-pt-l-defining-distributed-maritime-operations
-and-the-fiiture-of-naval-warfare/.
96 Robert C. Rubel, “Mission Command in a Future Naval Combat Environment,” Naval War College Review.
vol.71,no 2 (Spring 2018), p.110.
97Ibid.,p.111.
98 Ibid., pp.Ill, 112.
99 Ibid., p.112.
100 Ibid., p.114.
101 Ibid., p.116.
102 John C. Schulte, “An Analysis of the Historical Effectiveness of Anti-Ship Cruise Missiles in Littoral Warfare^^
(mastefs thesis, Naval Postgraduate School,1994), pp.15,16,17,18, https://calhoun.nps.edu/handle/10945/27962.
64
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
る・〇
3〇前述のフィリポフも同様に、対艦ミサイルの発射権限は個別のプラットフォーム
の指揮官が持つべきではなく、むしろより上位の指揮階梯を占め高度の状況認識能力
を持つ指揮官が持つべきとして「ミッションコマンドほど火力集中を損ねる概念はな
い」と指摘した1°4。
また、ミッションコマンドの利点としてしばしば挙げられるのカヾ、敵に直接対峙す
る前線指揮官の方が後方の上級指揮官より前線の状況を把握しているという点である。
しかし、ミサイル戦闘についてはその前提がかならずしも当てはまらないことも指摘
される。
スウィフト太平洋艦隊司令官は前述の2018年の論考で、基本的には分権型
の指揮統制を支持する一方で「全体像」を把握可能な全体の指揮官の方が「敵の弱点
を発見して、それに付け込む、そのために戦力を再配置する」ことが可能な場合もあ
ると指摘した1°5。
また、ルーベルも「自律型・半自立型情報•監視•偵察(ISR)アセッ
卜が広域に分散されていることから、遠隔の海上作戦センター(MOC)の方が、水平
線の先に敵部隊がいると考えている個艦の艦長あるいは群指揮官よりも、ローカルな
状況についてよりよい状況認識を有していることもありうるし、また、逆もこともあ
りうる」と指摘した103 104 105 106〇
こうした判断もミサイル戦闘において中央集権的な指揮が必要
とされる理由の一っとなっている。
なお、こうした傾向は海空軍のみならず、長距離
打撃能力の新規取得を目指す陸軍や海兵隊にも当てはまるだろう107〇
(2)ミッションコマンドにおける水平的な連携
本論文で説明したように、各軍種がミッションコマンドに目を向けたのは、中国や
ロシアとの武力紛争で想定される米軍の指揮統制に対する攻撃や妨害を前提とすれ
ば、上級司令部が線下部隊の個別行動を統制する中央集権的な指揮統制アプローチで
は米軍部隊が機能不全に陥る可能性を懸念したためである。
しかしながら、現在の各
軍が進める作戦コンセプトやドクトリンを見ると関係する複数の部隊の行動を共通の
目的のために整合させるという行為自体の重要性はむしろ大きくなっている。
従来から、作戦に関係する複数の部隊の行動を時間、空間、目的の点で整合させる
103 Rubel, “Mission Command,p.116.
104 Dmitry Filipoff, “Fighting DMO, Pt.10: Force Development Reform for Manifesting DM0,” May 15, 2023,
CIMSEC, https://cimsec.org/fighting-dmo-pt-10-force-development-reform-for-manifesting-dmo/.
105 Swift, “Master the Art of Command and Control,” p. 31.
106 Rubel, “Mission Command,” p.115.
107たとえば、2021年12月に海兵隊が公表した「スタンドイン部隊コンセプト」を見ても海兵隊の長距離火力
はネットワークを介して他軍種のセンサー ・兵器と連携させることが前提となっている。U.S. Marine Corps, A
Concept for Stand-in Forces (Washington, DC, 2012), p.14.
65
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
行為は「同期(synchronization) Jとして米軍のドクトリンに盛り込まれていた”ん
さらに、現在、統合参謀本部は、陸海空・宇宙•サイバー空間•電磁スペクトラムにお
ける作戦を連携させるJADO (統合全ドメイン作戦)を推進しているが、その中核的
な概念が「致死性および非致死性のイフェクツを作り出すためのキネティックおよび
非キネティックな能力の同期と統合」を意味する「集合(convergence)Jである也「同期」と呼ぶのであれ「集合」と呼ぶのであれ(前項で指摘したミサイル戦闘における火力
の集中もその一形態である)、現実の作戦でさまざまな能力を連携させるのであれば
「まったく別の計画タイムラインと資源可用性」をすり合わせることが必要となる108 109 110 111 112〇
こうした中、指揮官と部下の関係、後者による規律あるイニシアティブの発揮とい
う、上下の垂直的な関係に着目して発展したミッションコマンドの概念を拡大する必
要性が指摘されている。
アンソニー •キング(Anthony C. King)は、2017年の論
文「ミッションコマンド2.0」で「20世紀のミッションコマンド」が前線の指揮官に
対する「直近の戦術的タスクに関連した権限の限定的委譲」を中心とする「個人主義
的(individualist)Jなものであったと指摘した。
ここで線下部隊指揮官は上官の指揮
官企図に基づきそれぞれの任務と状況に応じて独自に判断を行う、すなわちそこが「個
人主義的」と言われる所以である。
それに対して「21世紀のミッションコマンド」で
重要なのは、上官と部下の縦の関係というよりむしろ作戦に関与する「指揮官達の間
の一層緊密な連携と相互依存関係」や「指揮官達の間の一層の相互作用とシナジー」
である。
キングはこれを「指揮官達を共通の概念と共有認識の下に束ねる集団主義
(collectivism) Jに基づく「ミッションコマンド2.0」と称した山。
20世紀のミッションコマンドにおけると同様「ミッションコマンド2.0」でも指揮
官の自発性が重要になるが、そこでは指揮官と^!下部隊指揮官の垂直的関係において
ではなく、指揮命令関係にない同格の「指揮官達」が、上級司令部からの個別の命令
がなくとも、あるいは仮に上級司令部との常続的な接続がなくとも、指揮官企図や認
識の共有に基づき自発的な連携を行うという点においてである。
すなわち「ミッショ
ンコマンド2.0」は、指揮官達の間の、いわば水平的な関係を強調したものといえよ
108 Robert Rose, “Preventing a Short Jump across a Wide Ditch: Fully Embracing Mission Command to Avoid
a Multi-Domain Disaster/9 Military Review, vol.100, no. 2 (March/April 2022), pp. 41,43; and Joint Chiefs of
Staff, DOD Dictionary, s.v. “synchronization.
109 Department of the Air Force, AFDP 3-99/SDP 3-99, Department of the Air Force Role in Joint All-Domain
Operations (Maxwell AFB, AL: LeMay Center, 2021),pp. 4,15.
110 Ibid., p.15.
111 Anthony C. King, “Mission Command 2.0: From an Individualist to a Collective Model,” Parameters, vol.
47, no.1(Spring 2017), pp. 8,11,12.
112 Ibid., p.19.
66
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
空軍のドクトリン文書においても水平的な連携を前提とした記述がみられる。
AFDP1-1「ミッションコマンド」は、ミッションコマンドの原則の一つである「規律
あるイニシアティブ」の意義を、^!下部隊指揮官の裁量を確保することのみならず「空
軍力の運用に必要とされる高度の調整と同期」(下線筆者)を行うことと説明している。
ここで言及されている「調整と同期」は自発的なもので、AOCに対する攻撃や通信に
対する妨害によりAOCから具体的な指示が届かない状況でも「任務目的、所望する
イフェクツ、全体の指揮官企図、そしてより広い作戦上、戦略的文脈に関する共通理解」に基づき、生き残る下位の部隊、作戦センター、BMC 2プラットフォームが相互に「調
整」や「同期」を行うことで統一行動を維持することを指している皿。
このことは、現代の航空作戦においては、誰がどこで行うかは別として、各プラッ
トフォームの行動の調整や同期自体は欠かせないことを反映している。
前述した「航
空機が単独で作戦を行うことはない」という航空作戦の特性を考えた場合、戦術レベ
ルの指揮統制においてそれぞれのプラットフォームは「少なくとも、いつ、どこにい
る必要があるかを知る必要」がある。
その点では、カメナが指摘するようにATOは
任務型命令にはならないが、逆に任務型命令もATOの代りにはならない。
さらに、
フレデリック・コールマン(Frederick Coleman)によれば、航空戦力の希少性を考え
ればFACE環境で遠征航空団司令官が効果的な航空パッケージを組むに十分なアセッ
卜を指揮下に持つことはなく」戦術レベルで航空戦力を有効に活用するためには従来
AOCで実施してきたような航空戦力全体での細部の調整が必要となる113 114〇
コールマンは航空作戦に必要な詳細な調整を行うことの必要性を強調する一方で、
これを行う上で物理的な施設であるAOCに多くの機能を集約する「場所限定の、オ
ンプレミス型」の方法から「クラウド型の環境に移行」することを提唱した。
これに
より「各航空部隊が指揮階梯を越えて協働(collaborate)することが可能」(下線筆者)
となるという。
ここで重要なのが、ロシアとの戦争におけるウクライナ側の対応が示
すように、通信が攻撃•妨害を受けた場合でも、強靭性を確保するための措置を講じ
ていれば「今日の環境で通信がゼロになる可能性はきわめて小さい」という点である。
そしてコールマンによれば、一時的に妨害を受けた場合でも「最新版の計画」に沿っ
て活動を進め、通信復旧後にあらためて計画のアップデートを行うのだという115〇
コールマンの評価の根底にあるのは、今日の武力紛争において敵による指揮統制、
通信に対する攻撃や妨害がもたらすリスクは「一つのかごにすべての卵を詰め込む(all
113 U.S. Air Force, AFDP 1-1 Mission Command (Maxwell AFB, AL: LeMay Center, 2023), p. 9.
114 Coleman, “Limited Utility,p. 5.
115 Ibid.
67
安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
eggs in one basket) JすなわちAOCにすべての計画・調整・同期の機能を集中する場
合はきわめて大きな脆弱性を生むが、その機能が分散される場合は管理可能なレベル
まで引き下げることができるという考え方である。
さらに、コールマンは、分散型統
制で想定する協働を可能とするには「それを支えられるネットワークやソフトウェア
の構築」が必要であり、空軍省が開発を進める先進型戦闘管理システム(ABMS)は
そのためのものであると指摘した任
確かに、空軍がABMS、あるいは最近では空軍
省戦闘ネットワークを協働型の作業を志向した「クラウド型の指揮統制」として進め
ようとしているのは事実である116 117 118〇
また、海軍のDMOコンセプトもそうした自発的な連携を前提としているとも指摘
されている。
トム•クラリティ(Tom Clarity)は、中露の先進的なISR能力の下で
作戦を行うには戦力の分散が必要であり、同時に分散した艦艇による火力の集中も必
要になるが、その指揮を作戦レベルの指揮官が中央集権的に行うことは難しいとして、
各艦艇間の自発的な連携を想定した。
クラリティによると、DMOを行う艦艇は当初
は分散しているものの、一時的に通信が可能となった際に目標情報を受領する、ある
いは自身が固有のセンサーにより敵を発見すると、各艦艇は目標に向けて接近、目標
に最も近い艦艇が攻撃軸と攻撃時間を設定して攻撃を開始し、それに引き続く、ある
いは遠方の艦艇はこれを受けて攻撃を行う艦艇の援護や防御を行うとしている。
こうした攻撃が成功するには、攻撃に加わる各艦艇の間の自発的な連携が前提となるが、クラリティも自身が提唱するような「アドホックな戦闘隊形を取るためには、相当な
信頼とプラットフォーム間の理解が必要である」と説明する成。
116 Frederick Coleman, “Distributed Control: Getting It Right,” The Mitchell Forum, no. 50 (January 2023), p. 3.
117 Chris Gordon, “Operational Imperative No. 2: Operationally Focused ABMS,99 Air & Space Forces
Magazine, vol. 106, no. 8 (August 2023), p. 33; and Secretary of the Air Force Public Affairs, t4ABMS Moves
Forward on Cloud-based C2?” January 9. 2023, U.S. Air Force, https://www.af.mil/News/Article-Display
/Article/3262645/abms-moves-fbrward-on-cloud-based-c2/.
118 Tom Clarity, ‘”Distribute DMO to Tactical Commanders,” Proceedings, vol.149, no.1(January 2023), pp.
27? 28.
68
ネットワーク化戦力にとってのミッションコマンド
おわりに——ミッションコマンドにおける分権と統一行動
近年米軍においては、従来からミッションコマンドをドクトリン上採用してきた海
兵隊と陸軍に加え、空軍と海軍もあらたにミッションコマンドを採用した。
空軍はミッ
ションコマンドを採用すると同時に、それを具現化するため、これまで航空作戦の「根
本原則」とされてきたCCDEを、分散型統制を中心とするCC-DC-DEに改めた。
中国やロシアとの武力紛争を前提とした場合に、戦域レベルで設置されるAOCに航空
作戦の指揮統制を集中することが脆弱性を高めることから、これをより下位の作戦
センターやBMC2プラットフォームに分散する必要性を認識したためである。
また、
ACEとして分散型作戦を推し進めていることもミッションコマンドの導入を促した。
海軍でも、中国との武力紛争においては指揮統制や通信への妨害を受けることを前提
にする必要があること、さらに、DMOコンセプトとして分散型作戦を進めているこ
とから、ミッションコマンドの重要性が認識されている。
海空軍いずれでも分散型作戦は分権型の指揮統制を前提として論じられている。
しかし、第4節で論じたように、長距離火力が戦闘力を発揮するためには、センサー ・兵器・意思決定者の間で目標の選定や配分、誘導に関する情報の共有がなされる必要があり、そこには分権より中央集権化が必要となる。
さらに、現在米軍が開発を進める作戦コ
ンセプトやドクトリンを見ても、関係する複数の部隊の行動を共通の目的のために整
合されることの重要性はむしろ大きくなっている。
ミッションコマンドの下、AOCな
ど上級司令部が一元的に各部隊の行動を統制するのではなくとも、各部隊の行動の整
合を図ることは必要である。
これまでのミッションコマンドに関する議論が、指揮官
から款下部隊指揮官に対する委任と後者による規律あるイニシアティブ発揮などもっ
ぱら上下の垂直的な関係に注目してきたところ、空軍や海軍のミッションコマンドや
分散型作戦に関する議論には、統一行動を図るため各指揮官が指揮官企図に基づいて、
自発的に調整や同期を行う水平的連携も含まれていることを踏まえ、ミッションコマ
ンドに関する理解を拡大することが必要である。
さらには、ミッションコマンドには
分権の側面と全体としての統一行動の両方が含まれていることを踏まえれば、ミッショ
ンコマンド下で全体としての整合をいかに図るかという点もミッションコマンドの持
つ二面性のいずれに着目するか過ぎないと捉えることもできる。
最後に重要と考えるものの本論文で扱うことのできなかった問題について触れたい。
本論文は、戦闘の局面におけるミッションコマンドに限定して議論を進めたが、現在、
米軍は、武力紛争まで発展しないものの、より有利な状況を求めて米国が中露と競う、
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安全保障戦略研究 第4巻第2号(2024年3月)
いわゆる「競争(competition)」段階における対応を重要視している。
こうした状況
においては作戦の目標がより政治的な性格を帯びると同時に、外交等他の手段との連
携が一層重要となるため、部隊の指揮統制が中央集権型の方向に振れる可能性も指摘
されているI”。
また、米国における政軍関係に関する議論においては「政治的考慮が関
わらない軍事行動の分野などありえない」として、政治指導者がその方針を貫徹する
ために軍事作戦の細部に至るまで介入することもありうべきとの主張もあり成、こうし
た議論がミッションコマンドとどのように関わりあうかについても本論文では取り扱
うことはできなかった。これらについては今後の課題としたい。
(防衛研究所)
119 George J. David, “Executing RXR: A MCISRE for Intelligence Operations,Marine Corps Gazette, vol.
107, no.10 (October 2023), pp.18, 20,また、ヴェゴは、作戦目標が政治的であるほど、また、敵対国との武
マ衝突に発展する可能性をはらむ危機時など、部下の錯誤を許容できない場合など、指揮統制の中央集権化が
高まると指摘する。Milan N. Vego, “‘Operational Command and Control in the Information Age,” Joint Force
Quarterly, no. 35 (October 2004), p.110.
120 Eliot A. Cohen, Supreme Command: Soldiers, Statesmen, and Leadership in Wartime (New York: Simon &
Schuster, 2003), p. 8.
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