移民や自由貿易が社会を悪くしているのか?「ナショナルな保守主義」の新たな台頭、「恨みの政治」を止めるためには
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33201
『2024年3月12日
Economist誌2月17日号が、移民を敵視し、社会的多元主義を否定し、国家の組織を支配しようとする「ナショナルな保守主義」が各国で広がりつつあることの危険を指摘する巻頭社説‘The growing peril of national conservatism’を掲載している。概要は次の通り。
2024年3月5日米のトランプ前大統領(AP/アフロ)
1980年代に米国のレーガン大統領と英国のサッチャー首相が市場と自由を旗印に新たな保守主義を構築した。
今日、ドナルド・トランプ前大統領とハンガリーのビクトル・オルバーン首相らは、そうした正統主義を破壊し、その代わりに、国家の主権を個人よりも優先し、国家主義的で「社会正義」を否定する(anti-woke)保守主義を作り出しつつある。こうした「ナショナルな保守主義」はグローバルな運動となりつつある。
「ナショナルな保守主義」は、個人が非情なグローバルな力に包囲されており、国家が個人の守り手であると見る。
多国間機関への主権の共有を嫌い、自由市場はエリートに操られていると疑い、移民を敵視する。社会的多元主義、特に、多文化主義を軽侮し、「社会正義」やグローバリズムに毒されていると見なす機関を解体することに執念を燃やしている。
「ナショナルな保守主義」はこれ以上広まらないだろうとの見方もある。脅威を与えるには一貫性に欠けているともみられている。しかし、そうした見方は許しがたいほど甘すぎる。
「ナショナルな保守主義」は、恨みの政治である。
政策が良い結果を生まなければ、政治指導者はグローバリズム擁護者と移民に非難の矛先を向けて世界が悪くなっていると主張する。
「ナショナルな保守主義者」たちは互いに手を取り合って、共通の敵である移民(特にイスラム教徒)やグローバリズム擁護者に敵意を向けてきている。
「ナショナルな保守主義」を軽く見ることができないのは、彼らが政権に就けばすべてが変わってしまうからだ。ハンガリーでの例が示す通り、彼らは、裁判所、大学、報道機関など国家の組織を掌握して権力を固めようとする。
旧来の保守主義者や古典的なリベラル派はどのように「ナショナルな保守主義」に立ち向かうべきか。一つの答えは、人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えることである。
彼らの不満には耳を傾けるべき点がある。それを鼻で笑うことは、エリートの現実感覚からの乖離を示すだけだ。リベラル派も旧来の保守主義者もこうした不満を持つ層を相手にしていかなければならない。』
『人々の生活が危機にさらされているという「ナショナルな保守主義」がかき立てる恐怖を減ずるために、不満層の考えを一部取り入れてみることも必要であろう。
リベラリズムの強みは、状況に適応できることである。奴隷制度廃止や男女平等を目指した運動は、ある者は他の者よりも重要であるとの観念を壊した。社会主義による公平や人間の尊厳についての議論が福祉国家を作ることとなった。
リバタリアンによる自由と効率性についての議論が市場の自由化と国家権力の抑制に繋がった。リベラリズムは「ナショナルな保守主義」にも順応していかなければならない。今、その点で遅れを取っている。
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ウクライナ戦争で「極右」が躍進
この論説では、「ナショナルな保守主義」との文言を用いているが、近年、「ポピュリズム」、「非リベラルな民主主義」などと呼ばれているものと重なるものだ。
「レーガンやサッチャーの新保守主義が経済面での自由主義を唱え、グローバリゼーション全盛の時代を導いたのに対し、「ナショナルな保守主義」は、自由貿易に懐疑的な態度を取り、国家の主権を強調しようとする点で異なる。その意味で「ナショナルな」との形容詞をつけているのであろう。
8年前の2016年には、「ポピュリズム」が注目を集めた。英国のブレグジット国民投票での離脱派の勝利。米国大統領選挙でのトランプの勝利。いずれも、事前の予想を覆す結果であり、ポピュリズムの勝利と言われた。
その後、21年のドイツ総選挙、22年のフランス大統領選挙などが注目されたが、いずれにおいても、この論説にいう「ナショナルな保守主義」が勝利することはなかった。そのため、ハンガリー、ポーランドの動向はあったものの、「ナショナルな保守主義」への警戒は一段落している感があった。
そこに来て現在の展開である。22年のイタリアの総選挙、23年のオランダの総選挙において「極右」とされる政党が勝利した。今後、予定されている各国での選挙において勝利や躍進が予想されている。』
『各国それぞれの事情があるが、なぜこうした潮流の変化が起こったのかを考えると、ロシアによるウクライナ侵攻が一つの引き金となったと思われる。
それが招いた物価高騰、生活苦の状況がこの論説が「恨みの政治」と呼んでいるメカニズムに再び拍車をかけたと見ることができよう。
世界の構図を変える恐れ
西側先進国では製造業の時代が過去のものとなり、国民の広い層に経済的利益を行き渡らせることが困難となった。
グローバルな競争が激化し、サービス産業が中心となり、先端的なIT技術を生かすことができるかどうかで経済的な立場に大きな差がつく時代となった。
このように低成長の中、二極分化が進む状況は、「ナショナルな保守主義」への支持を生みやすい土壌を作っている。外的な衝撃や内部の事情があれば更に増殖する素地がある。
現在、世界を①西側先進国、②権威主義国家、③グローバル・サウスの三つのカテゴリーに分けて捉える見方が一般的だが、「ナショナルな保守主義」が西側先進国を覆っていくと、世界の構図は大きく変質することになる。
「ナショナルな保守主義」からすれば、西側先進国がこれまで依拠してきた「ルールに基づく国際秩序」は、少なくとも国内で政権を取るまでは、疑問を呈し攻撃すべき対象であった。米国の大統領選挙が注目され、米国の動向は重要だが、「ナショナルな保守主義」が支配するリスクがあるのは米国だけではない。
この論説は、ナショナルな保守主義への処方箋として、政権党が「人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えること」、「相手の考えを一部取り入れてみること」を挙げている。
人々の求めているものに合わせて政策を適合させていくことは、いずれの立場にとっても重要なことであるが、「ナショナルな保守主義」の主張をどこまで現実の政策に取り入れるべきかは考えどころである。』