野菜ジュースは野菜代わりになる?

野菜ジュースは野菜代わりになる? 果汁の添加には注意
生活習慣病予防のエキスパート・野口緑の「一生ものの体の作り方」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD155ZZ0V10C24A2000000/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを大阪大学大学院の野口緑特任准教授に解説してもらう本連載。

今回は人事労務担当者に知っておいてほしいことの第3弾。日ごろなかなか野菜をとれないため野菜ジュースを飲んでいる人も多い。社員の野菜不足解消のためにと野菜ジュースの提供などを行っている会社もあるようだが、野菜ジュースは「野菜の代わり」になるのだろうか?

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。引き続き、在職中に「倒れる人」を少しでも減らすため、従業員の健康を守る立場にある人事労務担当者に知っておいてほしいことをお話ししたいと思います。

今回のテーマは野菜ジュースです。よく「健康のために野菜を食べましょう」と言われます。外食が多くてなかなか野菜をとれないため、とりあえず野菜ジュースを飲んでいる方も多いでしょう。社員の野菜不足解消の一助になればと野菜ジュースの提供などを行っている会社もあるようですが、そもそも野菜ジュースは「野菜の代わり」になるのでしょうか。

まず野菜は何のために必要なのかというと、ビタミン、ミネラル、食物繊維の補給のためです。ブドウ糖、たんぱく質、脂質という3大栄養素をきちんと代謝してエネルギーを生み出すには、ビタミンやミネラルが必要になります。それらは肉や魚にも少しは入っていますが、十分な量をとろうと思ったらどうしても野菜や果物を食べなければなりません。いつもこの連載では、血管の壁や血管内皮細胞についてお話ししていますが、これらを良い状態に維持するためにも、ビタミンはとても重要です。

食事からとったブドウ糖や脂質に過不足がないかは血糖値や中性脂肪、LDLコレステロールなどの健康診断結果を見れば分かります。ところがビタミンやミネラルが足りているかどうかは健康診断で行う一般の血液検査では分かりません。だからこそ、口から体に入れる量を目安にして、体にとっての必要量が充足しているかどうかを判断するしかないのです。しかし、毎日の食事ごとにビタミン群やミネラル成分などの細かな栄養価計算をしながら食べるわけにはいきません。だから「毎日ビタミンやミネラルをどれくらいの重量とっているか」が大切になるわけです。

(イラスト:つぼい ひろき)

いろいろな野菜を食べることで必要な栄養素がとれる

野菜の種類によって、含まれるビタミンやミネラルは違います。ビタミンCが多いもの、ビタミンKが多いもの、カルシウムが多いもの……。それぞれのビタミンやミネラルには必要な量があるので、必要な栄養をすべて満たすには1つの野菜に偏ることなく、いろいろなものを少しずつ食べる必要があります。

厚生労働省の「健康日本21」では、1日に350グラムの野菜を食べることを推奨しています。色の濃い緑黄色野菜だけではダメで、キャベツやキュウリのようなその他の野菜も必要です。緑黄色野菜を120グラム、その他の野菜を230グラムが目安になります。

原則として可食部100グラム当たりカロテン含有量が600マイクログラム以上のものを「緑黄色野菜」と呼ぶ。

ただし、トマト、ピーマンなど一部の野菜は、カロテン含有量は600マイクログラム未満であるが摂取量が多いため緑黄色野菜に分類されている

ちなみに緑黄色野菜に含まれるビタミンAやビタミンE、ビタミンKのような脂溶性ビタミンは、脂肪と一緒にとると吸収が良くなります。緑の濃い野菜をとるときは、油で炒めたり、肉と一緒に食べたりすると良いでしょう。

ビタミンやミネラルはサプリメントでとることもできますが、サプリメントでは特定の栄養素だけをとることになります。

私は決してサプリメント反対派ではなくて、ときにはサプリメントで足りない栄養素を補うことも必要だと思いますが、野菜には体に少しだけ必要な微量栄養素が入っていることもポイントです。野菜は土に含まれるミネラルを吸い込んで育ちますから、ほんの少し必要なモリブデンのような微量ミネラル[注1]も入っています。

[注1]人の体内に存在するミネラルのうち、ナトリウム、カルシウムといった多量ミネラルに比べ、含有量の少ないもの。

主な微量ミネラルの1日推奨量

野菜ジュースならどんなものを選ぶのが良い?

野菜ジュースはサプリメントと違って、特定の栄養素だけを抽出するわけではありません。そのため、野菜に含まれる栄養素がすべて入っていると思うかもしれませんが、実際はジュースに加工する段階でいくつかの栄養素が失われていることもあります。

ですから、野菜の栄養素の摂取のため、一番良いのはもちろん本物の野菜を食べること。2番目は自分でジューサーを使ってつくる自家製の野菜ジュースです。ただし、このときに出る搾りかすには食物繊維が入っているので、なるべく捨てずに食べるようにしましょう。その意味では、食材の水分だけを抽出するジューサーより、食材を細かく切り刻んで食物繊維ごとかくはんするミキサーでつくるほうが良いかもしれません。

そして、どうしても野菜が不足しがちな場合、3番目の選択肢として市販の野菜ジュースが挙げられます。市販の野菜ジュースだけでは野菜の摂取としてとても十分とは言えませんが、まったく野菜をとらないよりはマシですし、野菜不足を補うという点では意味があるということです。

注意してほしいのは、野菜ジュースに果汁が添加されていないかどうか。野菜汁だけではおいしくないので、30〜50%くらい果汁が添加されていることが多いのです。果汁は必ずしも悪くはありませんが、1日に必要な果物の量は決まっていて、果汁にするとそれよりもとり過ぎてしまいがちです。それで血糖値を上げやすくなります。市販の野菜ジュースを飲むのなら、「野菜汁100%」のものが望ましいのです。

厚生労働省では、1日200グラム程度の果物を推奨しています。一方、血糖上昇を防ぐ観点から、日本糖尿病学会では果物からとるエネルギーは1日80キロカロリーを目安にすることを推奨しており、ミカンなら1日2個、バナナなら1日1本です。バナナを1本食べたらその日は十分で、ほかの果物はいりません。オレンジや柿でも1日1個が目安になります。糖尿病でなくとも、私はこの量を推奨しています。

野菜ジュースに添加されているのが果汁ならまだマシで、甘味をつけるためにハチミツや果糖ブドウ糖液糖が入っているものもあります。野菜ジュースで野菜をとっているつもりが、実は糖分をとっていた、ということもあるのです。

特に良くないのは工業的につくった異性化糖で、果糖ブドウ糖液糖やブドウ糖果糖液糖と表示されています。これは要するに製造された果糖とブドウ糖の混合液です。血糖値を上げるだけでなく、細胞の糖化も進めてしまいます。安くて甘いので、いろいろな食品に入っているのですが、できるだけ避けることをお勧めします。

なるべく食物繊維が多いものを選ぶ

ビタミンやミネラルに加えて、野菜をとる意味としては、食物繊維の補給ということもあります。食物繊維は血糖値の急激な上昇を防いだり、コレステロールの吸収を阻害したりするといった働きがあり、しっかりとっていると血糖値やLDLコレステロール値を改善します。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」には、「生活習慣病の重症化予防に、1日25グラム以上の食物繊維の摂取が勧められる」と書かれています。

ベジタブル・ファーストといって、食事のとき「最初に野菜を食べると良い」と言われるのは、野菜に食物繊維が多いためです。空っぽの胃腸にいきなり糖質を入れると、糖がたちまち小腸で吸収されて血糖値が急上昇してしまいます。先に食物繊維をとっておくと吸収速度が緩やかになり、急上昇を防ぐことができます。

この食物繊維は野菜ジュースの加工時に捨てられやすい成分ですが、中には食物繊維の多い製品もあります。なるべくたくさん入っているものを選ぶようにしましょう。それだけを単独で飲むよりも、食事のときに一緒に飲むと、血糖値の上昇やコレステロールの吸収を抑える効果が期待できます。

やはり本物の野菜を食べるのがベスト

先ほども述べたように、会社によっては従業員の野菜不足解消の一助として野菜ジュースを提供しているところもあるようです。それ自体は悪いことではありませんが、安易に勧めるのではなく、商品によっては糖分などのとり過ぎにつながるものもあることを理解したうえで行いましょう。提供する商品を吟味して、「野菜そのものをとるのが一番大事だけれど、十分にとれていない場合は補いましょう」といったメッセージとともに提供するのも一策です。

人事労務担当者に限らず、みなさんに留意していただきたいのは、野菜ジュースはまったく野菜をとらないよりはマシというだけで、決して本物の野菜の代わりにはならないということ。野菜不足のときの応急処置のようなものです。

微量栄養素や食物繊維の量など、どうしたって本物の野菜にはかないません。

「野菜ジュースさえ飲んでいれば野菜をとらなくてもよい」なんてことは絶対にないので、そこはくれぐれも誤解されないようにお願いします。

毎日野菜料理をつくるのは、忙しい現代人には確かに大変かもしれません。

でも例えば週末など時間があるときに、野菜をカットしておき、電子レンジで加熱するだけで温野菜にできるようにしたり、ゆでたものを冷凍したりしておくなど、野菜の時短料理の準備をしておくと良いと思います。

インスタントラーメンやカップ味噌汁のような簡単な食事でも、レンジで簡単に温野菜をつくって具材として利用すれば、手軽にたくさんの野菜をとることができます。

健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと

著者 : 野口 緑
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野口緑

大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学特任准教授。1986年、兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から総務局職員部係長として、メタボに着目した独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。環境市民局課長、市民協働局部長、企画財政局部長を歴任し2020年退職。2013年から大阪大学大学院招へい准教授、現在は大阪大学の特任准教授として、生活習慣病予防、保健指導介入の効果や手法の研究を行う。医学博士。著書に『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』(日経BP)。
(まとめ:伊藤和弘=フリーライター、図版制作:増田真一)

[日経Gooday2023年12月21日付記事を再構成]

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