「プーチンの地政学」

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 「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和六年(2024)3月7日(木曜日)弐
       通巻第8167号  
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(読者の声2)「プーチンの地政学」

1. 地政学とは:プーチンは20世紀のソ連崩壊を地政学的な大損害だとのべて、ウクライナ侵略を始めたが、地政学とは何だろうか。

地理的な位置の作る国際関係の仮説で、証明は出来ないが、イメージにより人々に大きな影響を与えている。

そこで故倉前盛通教授の「悪の論理、地政学とは何か」から抜粋してみる。
 
2.ロシア人の特性とは

ロシア民族の歴史は独特である。

北極に近い大草原で離合集散を繰り返した諸民族の集まりで、歴史を見るとキリスト教世界のように、宗教改革、文芸復興も経験していない。

産業革命も、議会制度も、近代社会も一切経験していない。

中世というよりも古代の帝王制が続いている国である。

共産主義政権もスターリンの絶対独裁となり、これも古代の帝王制の延長になってしまった。現代のプーチンも自分用の宮殿を作っていることからこの延長と見ることができるだろう

 3.地政学/マハンの海上権力論

彼は、19世紀から20世紀初めまで生きた米国の海軍軍人で非常に有名である。彼の仮説から三大テーゼを紹介する。

(a) 海上を制する国が世界を制する。

(b)いかなる国も大海軍国と大陸軍国を兼ねることはできない。

(c)海上力を得るには、地理的位置、自然環境、国土の広さ、人口、資質、政府が必要である。

米国は彼の海軍政策にしたがって太平洋に進出し、実は日本政府もマハンの仮説を政策の参考にして戦前の国策を進めたのである。

 4.地政学/ハートランド論

英国のマッキンダーは19世紀から20世紀半ばの地政学者で次のような大仮説を提唱した。
(a)人類の歴史は海と陸の勢力の闘争の歴史である。

(b)今後は海の勢力が陸の勢力に負けるだろう。

(c)東欧を制するものはハートランドを制し、ハートランドを制する者は世界島を制し、世界島を制する者は世界を制する。

このハートランドとは、ユーラシアの大河の流れる流域で海上勢力が遡れないハートランドの聖域である、と定義している。

するとドニエプル川流域のウクライナはハートランドの聖域にあたる。これがプーチンがウクライナに執着する大きな理由なのであろう。
 
5.地政学/リムランド論

米国のスパイクマンは、マッキンダーの意見を修正して次の仮説を提唱した。

リムランドを制する者は、ハートランドを制し、ユーラシアを制する者は世界の運命を制する。リムランドとはハートランドの縁に位置する国である。

彼は、ハートランドは広大だが生活条件が厳しいため人口が少なくなり、文明を生む場としては不適当と指摘した。これはロシアのシベリヤ開発がなかなか成功しないことが良い例である。

現代ではハートランドを聖域化するのは誤りであろう。

それは航空機の発達で、聖域性が失われているからである。

彼はむしろリムランドの高い文明発達度に注目し、リムランドを制する者が世界を制すると述べた。彼は東西のリムランドの国として東の日本と西の英国を挙げ、政治軍事上の要衝としている。

(落合道夫)