韓国政府、医学部教授1000人増案 対立の医療界に融和策提示

韓国政府、医学部教授1000人増案 対立の医療界に融和策提示
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『【ソウル=甲原潤之介】韓国政府は29日、国立大学の医学部の教授を2027年までに1000人増やす案を打ち出した。若手医師の就職口を増やす融和策を提示し、大学医学部の入学定員増に反発する医療界との対立解消に向けた糸口を探る。

李祥敏(イ・サンミン)行政安全相が同日の対策会議で「医学教育の質の向上」を掲げ、教授ポストを増やす方針を表明した。

保健福祉省は「医師の増員と教授の増員を同時に推進する」と説…

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『保健福祉省は「医師の増員と教授の増員を同時に推進する」と説明した。教授を増やして医学生や研修医に質の高い教育を提供するほか「若い医師に国立大学病院の教授になる機会の扉を広げ、良い働き口を提供する」と強調した。

韓国の聯合ニュースによると、増員対象とされた9つの国立大の医学部教授は現在1200〜1300人いるという。1000人の増員は教授職を2倍近く増やすことを意味する。

20日、閣議で発言する韓国の尹錫悦大統領(中央)=聯合・共同

政府はこれに先立ち、医学部の学生の定員を2025年度の入学から2000人増やし、約5000人にする方針を示した。医師不足を解消すると説明するが、医療界は医師不足はないと主張する。病院で訓練中の研修医を中心に抵抗の動きが広がった。

全研修医の8割にあたる約1万人が辞表を提出した。辞表は受理されていないが、およそ9000人が勤務地を離脱している。政府は29日までに復帰しなければ法的措置をとる構えを示していた。28日時点で294人が医療現場に戻ったが、多くは抵抗を続けている。

医師不足の状況認識は政治側と医師側でずれがある。呉世勲(オ・セフン)ソウル市長は28日の記者会見で「ソウルも深刻だ。市内の公共医療機関は定員を満たしていない。破格の待遇を提示しても志願者がいない」と明かした。

医師側は診療科による医師の偏在を課題に挙げる。研修医に人気があるのは眼科や皮膚科、美容外科などで、いずれも定員を超す応募がある。逆に産婦人科や小児科は定員割れしている。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は昨年10月の会議で、小児科の医師不足の原因に「訴訟リスク」を挙げた。「訴訟にいつも巻き込まれ、裁判所、検察庁、警察署を行ったり来たりする。政府が保険システムのようなものをつくり刑事訴訟リスクを緩和させる」と話した。

尹氏は17年にソウル市内の病院で集中治療室の新生児が死亡し、医療スタッフが業務上過失致死容疑で裁判にかけられた事件に言及した。最高裁は22年に医療スタッフ側を無罪とした。

韓国政府は医療事故に関する医療スタッフ側の法的負担を減らす法整備に意欲を示し、医師側に配慮する。29日に法案に関する公聴会を開いた。保険に加入した医療スタッフが医療行為の過失で患者に損害を与えた際、刑事処罰の負担を減らす内容だという。

韓国の医療政策研究院によると13〜18年に韓国で検事が医師を業務上過失致死傷で起訴した件数が年平均754.8件。日本で医療事故などで警察に届け出があった件数が年平均82.5件で、韓国が9倍を超すとしている。

世論調査会社の韓国ギャラップによると、研修医の離脱が始まった後の2月第4週の調査で、尹氏の支持率は34%と前週の33%と大きな変化はなかった。最大野党「共に民主党」は「尹政権が医療大乱をあおった。患者の生命と安全が脅かされている」と批判する。今後の世論の動向が医療改革の行方を左右する。』