超少子化・韓国、社会改革へ 過度な競争「生きにくさ」念頭

超少子化・韓国、社会改革へ 過度な競争「生きにくさ」念頭
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM27DG20X20C24A2000000/

『【ソウル=甲原潤之介】韓国の2023年の合計特殊出生率が「0.72」に低下した。歴代政権は17年間で37兆円を少子化対策に投じたが出生率は下げ止まらず、既存の政策の機能不全が浮き彫りになった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は韓国の社会構造に問題があるとみて抜本改革に乗り出す。

「財政の投入を増やしても効果がなかった。優れた政策で必ずしも出生率を上げられるわけではないという経験を得た」。尹氏は今…

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『尹氏は今月放送された公共放送KBSの対談番組で語った。若者の生きにくさの解消に焦点をあて「ヒューマニズムの観点で努力する」と述べた。

韓国の出生率は1984年に2を割った。1997年のアジア通貨危機による若者の就職難も影響し、2005年には1.09まで落ち込んだ。危機感を強めた当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は同年に少子化・高齢社会基本法を制定し、対策を本格化した。

以降の政権は5年計画をつくり出生数を増やす戦略を練った。李明博(イ・ミョンバク)政権は企業に保育施設の設置を義務づけるなど子育ての受け皿づくりに力を注いだ。朴槿恵(パク・クネ)政権は不妊治療の保険適用や出産医療費の負担軽減に取り組んだ。

出生率は15年まで1.1〜1.3の間で横ばいを保ったが、16年になって底が割れたように急落が始まった。18年に1を下回り、23年の0.72まで8年連続で低下した。生まれてくる子供の数は8年間でほぼ半減した。

この間にマンション価格は8割上昇し、ソウルの若者の住居費負担が増大した。文在寅(ムン・ジェイン)政権は賃貸住宅に住む新婚夫婦の支援や児童手当など給付型支援を拡充した。少子化予算は政権末期の22年に51兆ウォンとなり、発足前と比べ倍増した。

尹政権は過去の政権の取り組みを踏まえ、短期と長期の視点で策を講じる。

短期では現金給付を拡充する。児童手当の対象年齢を現行の「7歳まで」から「17歳まで」に拡大し、2〜3人目の支給額を増やす。日本も中学卒業までの対象年齢を「18歳まで」に延長する方針で、高校生までの手当支給は国際水準になりつつある。

育児とキャリアの両立に向けた制度も拡充する。男性の育児休暇取得を後押しし、夫婦双方が育休を取った場合に給付額を優遇する制度をつくった。6カ月まで上限額が段階的に増える制度を設け男性の長期取得を促す。

長期ではこうした給付型の支援策に加え、若者が多様な生き方を選択できる社会制度を模索する。ソウル近郊に住み、ソウルの企業に勤め、子供にも熾烈(しれつ)な受験競争を強いる選択肢しかない「過度な競争社会」の打破が念頭にある。

一例が小学生の保育のあり方だ。ソウルでは小学生の子供を夜まで複数の塾に通わせる家庭が多い。受験準備のためだけでなく、共働き家庭が増えて子供を夜まで預ける場所が塾しかないという現実がある。

尹氏はこうした状況を解消するため小学校の放課後保育を充実させると表明した。日本の放課後児童クラブ(学童)に相当する。まず小1児童の希望者全員を午後8時まで預かる公的サービスを整備し、順次全ての小学生に拡充するという。

27日の会議では「子供の世話を両親に任せる育児から、国家が責任を負う育児に転換させる」と述べた。「保護者は思う存分、経済社会活動をし、子供は安全に世話を受け健康に成長する」社会をめざすと説明した。

ソウル一極集中の是正もテーマになる。尹氏は13日、韓国の現状を「コート全体をまともに使えないサッカー」と例えた。首都圏への人口集中が少子化の原因だと断じ、税制支援などを通じて地方に企業を移転し、社会インフラを整える戦略を示した。

政府の直接支援だけでなく、企業を通じた社会づくりも重視する。出産支援や育休取得に積極的な企業への税制優遇を検討する。従業員の子育てを支援する企業を評価する社会の雰囲気を醸成することを狙う。

人口減少を前提に、外国人労働者の活用も一気にアクセルを踏む。ビザ取得を緩和して海外人材の呼び込みを加速するため「出入国・移民管理庁」の新設をめざす。

少子化や労働力不足は日本を含む多くの先進国にとって共通の課題だ。日本の出生率は22年に1.26と15年当時の韓国と同水準だ。深刻度で先行する韓国の取り組みの成否は日本の少子化対策においても参考になる。

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 韓国はたいへんだ。このままいくと、韓国の人口は激減する。出生率はせめて1を超えないといけない。どうして、1以下になってしまった。

子孫を残さない人種は種の消滅を意味するものである。

かといって、政府は子供を出産せよと命じることができない。子育ての環境をよくするからといって、出生率は必ずしも上がらない。

人口学者の分析を読んでも、状況の深刻さとその原因についていろいろと書かれているが、どうすればいいか、処方箋が提示されていない
2024年2月29日 8:14 』