プーチン氏、ウクライナ侵攻「優勢」強調 教書演説
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR295J70Z20C24A2000000/
『ロシアのプーチン大統領は29日、モスクワで年次教書演説をした。開始から丸2年が経過したウクライナ侵攻についてロシア軍の優勢を強調した。外交や内政の基本方針も示した。3月の大統領選の投票日が2週間後に迫り、実質的な選挙公約となる。
プーチン氏はウクライナ侵攻について「ロシア軍は着実に前進しており、新たな領土を解放している」と述べた。足元の戦況が優勢であり侵攻を継続する方針を示した。
ロシア軍はウクライナ東・南部の前線で攻勢を強めていた。東部ドネツク州の要衝アブデーフカを奪取した後の2月20日、プーチン氏はショイグ国防相に「この成功を発展させていく必要がある」と戦果拡大を指示した。
29日の演説では、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に触れ「(ロシアの国土の)西側方面への軍事強化が必要」と述べた。ロシアが保有する戦略核について「完全な準備態勢にある」と西側諸国をけん制した。
西側諸国によるウクライナへの介入強化について「核兵器による紛争を引き起こす可能性がある」と警告した。マクロン仏大統領が26日のウクライナ支援会議後、将来のウクライナへの派兵の可能性について「何も除外すべきではない」と述べたことを意識したものとみられる。
内政を巡っては「出生率の安定的な増加を達成しなければならない」と人口減少対策を進める考えを示した。
少子化対策、子育て世帯の経済支援や最低賃金の引き上げなどに言及し、大統領選での支持率上昇をにらんでバラマキ的な政策のアピールが目立った。
ロシア経済の成長にも言及した。プーチン氏は「2023年にロシアは世界経済を上回る成長を遂げた」と述べ、主要7カ国(G7)などを上回る成長だったと強調した。ロシアの同年の国内総生産(GDP、速報値)は22年に比べて3.6%増加し、2年ぶりのプラス成長となった。長期化するウクライナ侵攻で軍需関連がけん引した。
タス通信によると、教書演説は過去最長となる2時間6分だった。これまでに最長だった18年(1時間55分)を上回った。
プーチン氏は3月の大統領選挙で、通算5選となる当選が見込まれている。教書演説は国営テレビ・メディアがトップで報じ訴求効果は高い。
プーチン政権は30年までの次期任期を見据えた政策を国民に訴える場と位置づけているとみられる。前回18年の大統領選でも選挙前の3月1日に教書演説をした。
教書演説は憲法で規定された行事で、大統領が年に1度、議会や政府の代表を前に基本方針を示す。23年2月の教書演説でプーチン氏は、ロシアと米国の新戦略兵器削減条約(新START)について「履行を停止する」と表明した。核の脅威を高め、米欧をけん制する姿勢を示していた。
プーチン政権の批判を続けてきた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は今年2月16日に獄中で死亡したとロシア当局は発表した。ナワリヌイ氏の広報担当者は28日、3月1日にモスクワの教会で葬儀を執り行うとSNSで表明した。プーチン氏は演説ではナワリヌイ氏について言及しなかった。
投票日まで2週間 プーチン氏、得票率8割見通し
15〜17日に予定されるロシア大統領選の投票日まで2週間となった。直近の世論調査ではプーチン大統領の得票率の見通しは8割で当選が確実視される。
政府系の全ロシア世論調査センターによると、投票予定者における2月15日時点でのプーチン氏の得票率見通しは79%と首位だった。次いで政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長とロシア共産党のハリトノフ下院議員が4%で並ぶ。
プーチン氏の得票率は前回(8日時点)と比べて4ポイント上昇するなど、支持を固めているもようだ。今回の大統領選ではこのほか、自由民主党のスルツキー党首を含めた4人が立候補した。
プーチン氏の足元の支持が高い背景には、同氏の西側諸国がウクライナを取り込みロシアを弱体化しようとしているとの主張に国民が一定の理解を示している点があるとみられる。
大手SNSへの接続制限など国内の情報統制強化や、国営メディアによるプロパガンダも影響している。ロシアがウクライナ侵攻を開始した22年2月以降、プーチン氏の支持率は上昇し、調査機関によると支持率は8割を超えて推移している。
プーチン氏は23年秋以降、軍の兵士や学生らが集まる各地の行事への参加を積極化し実質的な選挙運動に力を入れてきた。同氏以外の立候補者はウクライナ侵攻などを含めて明確な政権批判はなく、今のところ反政権票の十分な受け皿にはなっていないとみられる。
侵攻に明確に反対する姿勢を示してきたボリス・ナデジディン元下院議員は登録に必要な署名の不備を中央選挙管理委員会に指摘され、立候補が認められなかった。同氏は選管の決定を不服として最高裁に提訴したが棄却され、立候補は難しい状況となった。
ロシア大統領府は大統領選について、プーチン氏の高支持率での「圧勝」シナリオを描いているもようだ。独立系メディアによると大統領府は得票率80%超の目標を設定しているとされる。
今回はロシアが22年秋にウクライナ東・南部4州を一方的に併合してから初めての大統領選となる。南部ザポロジエ州では今年2月25日に期日前投票が始まった。タス通信によると、選管担当者が有権者の自宅に投票用紙などを持参する在宅投票などで対応しているという。
【関連記事】
・「遠い国だった…」日本ならではの貢献 ウクライナ支える
・マクロン氏「ウクライナ派兵」発言が波紋 独首相は否定
・ナワリヌイ氏の葬儀は3月1日 モスクワの教会で 』