<親中国・ロシアから米国へ>アンゴラの〝転換〟

<親中国・ロシアから米国へ>アンゴラの〝転換〟「罰する」から「善行の引き出し」へ変わるグローバルサウス獲得の手法
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33036

『1月27日付WP紙は、‘U.S. deepens ties with Angola, a model for Washington’s ties to Africa’(米国のアフリカとの絆の好例;アンゴラとの関係強化)との解説記事を掲載し、アンゴラと米国の関係改善を説明している。要旨は以下の通り。
(Ahmed Zaggoudi/StudioM1/gettyimages)

 産油国アンゴラは、長期間インフラを中国に、武器をロシアに頼ってきた。しかし、1月下旬のブリンケン国務長官の同国訪問と米国資金による鉄道プロジェクト始動は、同国の路線変更を意味する。

 アンゴラは、2.5億ドルの鉄道プロジェクトを中国でなく米欧に頼った。アンゴラと米高官は、より幅広い経済ブームを期待している。

 昨年アンゴラ外相はロシア外相に対し、ウクライナ戦争が第3次世界大戦を引き起こす懸念を公開の場で表明。長年の支援者(ロシア)にとっては厳しい言葉だった。

 米アンゴラ関係改善はアンゴラのみならず米国に無視され地政学的対立の捨て駒にされてきたと感じている国々への経済協力のモデルでもある。ブリンケンの4日間のサブサハラ歴訪はガザ・ウクライナ紛争の最中に行われた。

 米政府高官は中露との地政学的競争という見方を否定し、競争相手と無関係に米国はアフリカと同様な関係を築いただろうとして、中国との競争関係は米国の対アフリカ政策と無関係ではないが一部に過ぎない、と言っている。

 アンゴラは独立後27年間内戦で、ソ連とキューバは政権側を米国は反政府側を支援してきた。2017年まで38年間政権にあったドス・サントス前大統領は米国に強い不信感を持った。対米不信は、港と内陸を繋ぐ鉄道を含むインフラ計画に中国他が財政援助する素地を作った。

 12年に完成したこのプロジェクトは計画通りにはならなかった。機材は粗悪品で中国は修繕しなかった。』

『ドス・サントスが指名した後継者ロレンソは、伝統的パートナー以外の支援者を模索し、10年後に鉄道拡張を検討し始めた時、中国の入札を拒否し米国主導コンソーシアムによる30年借款を選んだ。

 経済協力は米・アンゴラ関係を深化させた。アンゴラは隣国コンゴ民主共和国の紛争仲裁で重要な役割を果たし、ロシア外相への第3次世界大戦に関する警告のように、中露に立ち向かうことを厭わなくなっている。これは、両国にとり良いことだ。

 米国は米国はアンゴラと過去に無い深い外交パートナーシップを持ち、コンゴ民主共和国の問題で真剣に協力している。彼らは米国の関与を希望しているが、これは他のパートナーとは違う。

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「一石四鳥」となった米国

 内戦で反政府派を支持した米国とアンゴラ政府との関係が改善し、同政府は、鉄道プロジェクトについて、伝統的ドナーである中国の代わりに、米国主導のコンソーシアムを選択した。これは極めて良い話だ。

 このディールにより、米国は希少金属の調達先を多角化でき、両国内で雇用を創出し、気候変動対策も進み、沿線開発で経済もさらに発展する、という「一石四鳥」だ。この記事によれば、両国関係の深化はそれに留まらず、隣国コンゴ民主共和国の紛争解決のためにアンゴラは真剣に協力しているし、ウクライナ戦争を巡って、伝統的支援国であるロシアに厳しい言葉を発しているという。

 それ以上に大事なのは、ウクライナ戦争への対応から見ても、まだ世界の唯一の超大国でありながら、その力を使うだけの強い意志が減退しつつあるように見える米国、就中バイデン政権が、依然としてアフリカの将来的重要性を認め、個々の小さいが重要な国に対して選択的に関与していくだけの研ぎ澄まされた神経を有していることだ。

 約2年前、中国が赤道ギニアに接近し、大西洋に面した初めての海軍基地に使える港の使用許可を働きかけていることを米国が察知し、赤道ギニアがそれを思いとどまるように種々の働きかけを行っているとの報道があった。その後、米側の努力が功を奏して、実際中国の基地使用は実現しなかったようだ。これも、米側の張り巡らされたアンテナがいまだ麻痺していないことを示す重要な例だが、米国はその後も引き続き頑張っている。』

『制裁から友好へ、日本も進むべき外交

 実は、今回のアンゴラの件は、赤道ギニアの件以上に重要であるように思われる。なぜならば、経済支援によりウインウインの関係を築くという、今回の米国のアンゴラへのアプローチは、この記事でも指摘しているように、アンゴラのみならず「米国に無視され地政学的対立の捨て駒にされてきたと感じている国々への経済協力のモデル」にもなり得るからだ。

 さらに言えば、「悪行に対して制裁する」というアプローチから、先方が望むなら、「相互に利益のある持続可能な関係」構築を実現できるという例になるからだ。米国は、外交手段として、そろそろ「制裁」を卒業すべき時期に来ているのではないだろうか。

 それは、ウクライナの例を引くまでもなく、制裁の効果が益々限定的になっているということに加えて、今後の米国外交は、中露に比べて友人が多いという米国の強みを生かして、同盟国・同士国と役割分担しながら、グローバルサウスを含む「友人」を増やし、多数派を形成していくことに焦点を当てるべきであり、そのためには、「悪行を罰する制裁」では無く、「善行を引き出す協力」がますます重要になると思われるからだ。

 日本も当然、この流れに乗るべきだろう。今後日米で、グローバルサウス諸国の内、どの国に優先的に関与していくかと、それらの優先国への期待とその実現のための協力の在り方についてすり合わせていく中で、是非とも連携を模索すべきだろう。』