ポピュリズムの「モグラたたき」中欧で進む非リベラル路線、スロバキアのフィツォ首相が乱す西側の結束

ポピュリズムの「モグラたたき」中欧で進む非リベラル路線、スロバキアのフィツォ首相が乱す西側の結束
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32986

『フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのトニー・バーバーが、1月24日付けの論説‘Populism rears its head once more in central Europe’で、昨年10月に首相に返り咲いたロベルト・フィツォの下でスロバキアが非リベラルの路線に転向した様子を描写し、「モグラたたき」の如く、中欧ではスロバキアでも民主主義の擁護の戦いを強いられていると論じている。要旨は次の通り。

スロバキアのロバート・フィツォ首相(AP/アフロ)

 中欧における政治的ポピュリズムを封じ込める奮闘は、時に「モグラたたき」のように見える。ある国で蓋をしたと思ったら別の国で飛び出す。最近の例はスロバキアであり、同国では首相のロベルト・フィツォが非リベラルな政策を実行しつつある。

 フィツォは、ウクライナ政府は米国の傀儡だと冷笑してウクライナ叩きをやっている。彼の文化省はクレムリンのウクライナ侵攻の後停止されていたロシアとベラルーシとの関係を回復すると発表した。

就中、フィツォは、ハンガリーのオルバンとポーランドのカチンスキに倣って、スロバキアの司法をその管理下におく計画を推進しつつある。

 フィツォは腐敗と組織犯罪に重点的に取り組む特別検察官室を解体し、内部告発者の保護を縮小することを意図している。

目的はフィツォの政党Smer(2012年から18年まで政権党)が政権を失った後に始まった捜査からSmerの幹部を保護することである。欧州議会は賛成496、反対70、棄権64でこれらの提案を批判する決議を採択した。

 スロバキアの非リベラリズムへの転向は9月に議会選挙でフィツォが勝利した時に始まる。フィツォは今や3党連立政権を率いるが、もし、彼の味方で議会議長を務めるペーター・ペレグリーニが3月23日に予定される大統領選挙に勝てば、彼の権力は強まるであろう。世論調査によれば、ペレグリーニが親欧州の元外相イヴァン・コルチョクをリードしている。』

『西側の観点からは、フィツォは外交政策においてオルバンほどには当てにならない訳ではない。

彼はウクライナに対する武器の供給を完全に止めてはいない。彼はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に拒否権を行使すると言っているが、ウクライナの欧州連合(EU)加盟交渉は支持している。スロバキアがユーロ圏のメンバーであることが、EU内部でフィツォが混乱を起こし得る程度に限界を課すことになる。

 むしろ、フィツォのプライオリティは国内にある。彼はスロバキアの政治の舞台の支配を達成したいと欲しており、そのために21世紀の中欧の非リベラルな脚本を借用しつつある。この意味で、彼の首相としての返り咲きは、欧州におけるリベラルな民主主義擁護の厳しい戦いが新たな頂点をむかえつつあることを示すものである。

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世界が警戒すべきフィツォの行動

 18年、ロベルト・フィツォはジャーナリストのヤン・クツィアクと彼のフィアンセの殺害事件を契機とする大衆の反政府デモの最中に辞任を余儀なくされたが、5年後の23年10月1日の議会選挙で彼の左派政党Smerが第一党となった。

彼は反移民で立場を同じくする中道左派Hlasと民族主義政党SNSと3党の連立政権を組むことに合意し、首相に返り咲くこととなった――議会(一院制)の150議席のうち与党3党で79議席を占める。

 フィツォの返り咲きは、ロシア制裁には反対、NATO主導のウクライナ支援はスロバキアの主権を損なう、人道支援は別としてウクライナへの更なる武器供与はしない(彼はMig29戦闘機を供与した前政権を批判した)という彼の選挙戦中の発言のゆえに、スロバキアがEUあるいはNATOにおける西側の結束を乱すことへの西側の懸念を惹起することになった。

 もっとも、彼の勝因の主たるものはこの種の国際問題では必ずしもなく、むしろ、パンデミックやウクライナ戦争がもたらす生活に係わる諸困難への対応に政治がてこずる状況で、安定、秩序と効果的なリーダーシップを約束したフィツォ(彼は06年から10年および12年から18年までの過去2回首相を務めた)に国民が期待したという側面もあったようである。

 1月20日のTV放送でフィツォは、ウクライナは「米国の絶対的な影響力」の下にあると言い、戦争を終わらせるためにウクライナがロシアに領土を割譲するよう求め、ウクライナのNATO加盟は第三次世界大戦を誘発するので反対だなど、挑発的な言辞を弄している。
彼にはハンガリーのオルバンと連携する様子もあり彼の行動が警戒を要することは変わりない。』

『以上にかかわらず、上記の論説はフィツォのプライオリティは国内にあると観察している。それは恐らく正しいであろう。

 フィツォにはオルバンのような強固な国内の政治的基盤がある訳ではなく、また、オルバンのような国際的な野心がある訳でもないであろう。彼は、オルバンやポーランドのカチンスキの非リベラリズムの手法に倣って自身の政権基盤を固めることに着手したようである。

法の支配に関する紛争が激化

 注目されているのが一連の司法改革の提案である。フィツォは就任早々に腐敗の捜査に特化した特別検察官室を廃止する意向を表明した。また、腐敗を含む深刻な犯罪に対する刑罰を軽減し、訴追が許容される時間枠を縮小する(現行の20年から最長5年に縮小する)ことが提案されている。

 これによって、Smerとその連立政党の政治家に係わる幾つかの深刻なケースが葬り去られるかも知れない。さらには、内部告発者の保護の制度の変更が提案されている。

 野党陣営はこれら提案を批判し、現大統領のチャプトヴァーは容認出来ないと述べているが、彼女の拒否権は再度の議会の議決で覆る。欧州委員会は法の支配の観点からスロバキアに慎重を期すべきことを警告している。

 1月17日、欧州議会は腐敗の事案を訴追し処罰する体制を弱体化することを批判し再考を求める決議を採択した。欧州検察庁はEU資金に係わる腐敗の事案の捜査が大きく害されることに危機感を表明している。

 この論説は「モグラたたき」だと言うが、法の支配を巡るEUとスロバキアの紛争が激化しそうな様相である。』