<死亡説>で世界が求めるベトナムの新指導者 変わり得る西側貢献と日本との友好関係

<死亡説>で世界が求めるベトナムの新指導者 変わり得る西側貢献と日本との友好関係
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32985

『Economist誌1月27日号の社説‘Vietnam needs a new leader’は、「グエン・フー・チョン書記長が、一時期公の場に姿を現わさなくなったことで、色々と憶測を呼び、彼自身がベトナムの将来に対するリスクとなっていることが浮き彫りになった。ベトナムは実務的な指導者を必要としている」と主張している。要旨は次の通り。
(Frendy Aristo Wijaya/gettyimages)

 ベトナムは、米国と中国の競争の激化にチャンスを見出している。その戦略的位置ゆえに、米中両国はベトナムを重視している。

 昨年ベトナムは、習とバイデン双方の国賓訪問を受け入れた唯一の国であった。米国はベトナムに対して沿岸警備隊の船舶を提供し、ベトナムは米国との関係を、中国およびロシアと同じ待遇(包括的戦略的パートナーシップ)へと格上げした。

 こうした巧みなバランス外交から、ベトナムは政治的にも経済的にも利益を得ている。米国は、中国経済を切り離す取り組みとして、海外投資家の事業を中国以外へ移転させる動きを主導している。ベトナムは、他のどのアジア諸国よりも、このリスク回避の動きから恩恵を受けている。

 2023 年第3四半期までの間に、ベトナムは、インドネシア、フィリピン、タイと比較して対国内総生産(GDP)比で2倍の海外直接投資を呼び込んだ。今やApple や Samsung などの大手ブランドを含む、新規参入者が、バリューチェーンを高めることに寄与している。ベトナムの支配政党は、45年までに同国を先進国にすることを目標にしている。

 「つまずき」の余地はほとんどないように見える。しかし、地政学的スイートスポットは長く続かないかもしれない。トランプが政権に復帰すれば、ベトナムとの巨額の貿易赤字に対して不服を唱えることもあり得る。

 ベトナムの経済発展の根底にある有利な人口動態は弱まってきている。10年以内に、生産年齢人口は減少に転じると予測されている。』

『そして、ベトナムの支配者たちの現実主義にとり、政治改革への抵抗は大きなハンディキャップになりつつある。このことは1月初め、共産党書記長および最高指導者でもある79歳のグエン・フー・チョン氏が公の場から姿を消した際に浮き彫りになった。

 ソーシャルメディアは、彼の健康不安説や死亡説で盛り上がった。チョン氏はその後、再登場したが、健康状態および後継者については不透明のままだ。

 投資家らは、チョン氏の主導した汚職対策の影響によるプロジェクト承認の遅れに対して、すでに不満を漏らしている。汚職対策は昨年、国家主席の解任にまで至った。上級共産党員がチョン氏後の将来に不安を感じる中、意思決定が停止してしまうこともありえる。

 チョン氏の地位は26年まで見直されることはなかろうが、この不安定な状況を終わらせるべきだ。党は現実への対応に向けた一つのステップとして、党内民主主義を導入すべきである。チョン氏は彼自身がベトナムの未来にとってリスクになっていることを認識し、党が実務的後継者を選ぶことを容認すべきである。

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日本重視の姿勢に変化はない

 チョン書記長は19年春に脳梗塞を発症し回復したものの、左半身に麻痺が残った状況で職務に復帰した。それが故に、昨年12月26日に訪越した志位和夫日本共産党委員長(当時)との面談以降その動静が不明になり、1月前半訪越したシーバンドン・ラオス首相やジョコ・インドネシア大統領の日程に含まれていなかったことから、重病説や後継者などについてさまざまな憶測を呼んだ。

 同書記長は、21年の前回党大会において、異例の形で3期目(任期5年)を務めることとなったが、病気の後遺症、年齢に鑑み、任期途中での交代もありうると噂されていたことから、多くのベトナム関係者やウオッチャーは、「その時が来た」と思ったと思われる。

 結局、書記長は1月15日開催された国会の開会式に出席し、議長の開会スピーチ後、関係者に支えられて退席した。このことを通じ、書記長の健康と後継者問題、彼が重視する汚職対策に改めて光が当てられることになった。』

『汚職対策については、21年以降23年10月までの間に、約1300の汚職事案で3500人以上が逮捕・訴追された。23年1月には2人の副首相が解任され、フック国家主席が「監督責任」を問われて辞任に追い込まれた。3人とも有能な人材であり、16年以降の高度成長の陣頭指揮を取り、新型コロナ対策でも世界に誇れる実績を上げ、さらにわが国を含む西側諸国との関係強化にも大きな貢献があった。

 こうした事案を見ると、決定権を持っている政府の高官が、将来の責任追及を恐れて、決裁を遅らせたり決定を避けるケースがこれまで以上に増えると思われ、このことがインフラ整備や外資導入、ひいては経済成長に悪影響を生むことが懸念される。

 なお、フック国家主席の後任にはチョン書記長の懐刀とも言われるトゥオン書記局常務(当時:52歳)が就任した。同氏は昨年11月に日越外交関係樹立50周年を記念して訪日し、天皇陛下および岸田文雄首相と会談した。

 さらに、トゥオン氏の後任の書記局常務には、マイ中央組織委員長が任命されたが、マイ書記局常務は越日議連会長も務めている。ベトナム側の日本重視の姿勢に変化はない。
トランプと習近平の動向も左右

 上記社説の中で、今後の懸念材料の一つとしてトランプ氏の再登板が触れられているが、トランプ氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)を軽視してはいたが、ベトナムを重視していた。貿易黒字削減要求に対して、ベトナム側は航空機購入などで誠実に対応していた。

 むしろベトナム共産党が一番恐れるべきは、「中国共産党の未来」と思われる。経済政策の失敗、人口減少、強権政治、少数民族迫害、戦狼外交など、習近平独裁政権は「国内外からの支持」を着実に失っている。

 世界で社会主義を自称する国は、中国、ベトナム、ラオス、北朝鮮、キューバの五か国である。

万が一、中国の体制に変化が起これば、統治の中身は大きく異なるとはいえ、ベトナムへの波及は避けがたいと思われる。

また、台湾や南シナ海で有事が発生すれば、それはベトナムにとっての有事でもある。』