<米軍のイラク撤退論>弱腰か正面衝突か、板挟みのバイデン、イランの見立てと思惑とは

<米軍のイラク撤退論>弱腰か正面衝突か、板挟みのバイデン、イランの見立てと思惑とは
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32981

『Foreign Policy誌(電子版)が1月29日付けで掲載した論説‘U.S. Troops Are Dangerously Vulnerable in the Middle East’が、シリアとイラクにいる米軍は、イランの代理勢力の攻撃目標となっており、危険にさらされているので撤退させるべきであると論じている。要旨は次の通り。 

シリア北東部カミシュリにて警備に当たる米軍主導の連合軍の兵士(ロイター/アフロ)

 米軍は、「イスラム国」掃討作戦を支援し、シリア、イラク、レバノンでのイランの活動を監視するためにこの地域に駐留している。

1月下旬(ヨルダンとシリアの国境付近にある米軍基地へのドローン攻撃で)3人の米軍兵士が殺害されたが、米軍はガザの衝突が始まって以来、イランの代理勢力から100回以上攻撃され、これまでにないほど危険な状況になっている。今こそ米軍を駐留させ続けることのリスクについて考えるべきだ。

 抑止力を回復し、米国の力を示すためにイランと対決するべきだという要求が強まっており、バイデン政権は、衝突せずに済んだはずの敵対勢力(イランの代理勢力)との衝突に巻き込まれていることに気が付くだろう。

この地域に兵力を展開し続けることは米国の安全保障を改善しないが、他方、ワシントンでは、イラクとシリアに駐留する米軍兵士の直面するリスクを軽視する傾向がある。

確かにほとんどの攻撃は、米軍兵士の殺害よりも、状況を混乱させることが目的であるが、今回の攻撃(米軍兵士の死亡)が警鐘となるべきである。

 現在の脆弱な状況は、米軍の前方展開の脆弱性を示している。前方展開を進めれば進める程、敵対勢力の縄張りに近づき、より攻撃に遭いやすくなる。

 もちろん、小部隊を「おとり」として意図的に前方展開することはあるが、イラクに駐留する米軍は、「おとり」では無い。しかし、「おとり」になってしまっている。』

『本来、「おとり」というのは、攻撃されれば、大規模な反撃を招くことになるということで抑止のために配置される。仮に(イラクの)米軍が「おとり」だとすれば、問題はイラクで米軍を攻撃するイランの代理勢力がイランの差し金で攻撃しているのか、彼ら自身の利害で攻撃しているのか分からないことである。

 前者であればイランは、米側の反応について危険な誤解をしており、後者であれば、代理勢力はイランが意図しない緊張のエスカレーションを招いている。いずれにしても、シリアとイラクの米軍は「おとり」ではない。

 米国は、イランの代理勢力が米軍を狙うのを防ぎ、米軍兵士を標的とすることで米国とより大規模な衝突を引き起こすリスクを減らすためにイラクから大部分の米軍を撤退させる準備をするべきである。仮にイラクとシリアの米軍が暴力に対する避雷針になる(攻撃の対象となる)のならば、イランの代理勢力の勝利となろう。

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「弱腰」批判避けるバイデン

 この論説は、イランの代理勢力による攻撃をかわすためにイラク、シリアからの米軍の撤退を主張しているが、1月下旬の3人の米軍兵士殺害に対して、2月2日、米国はシリア、イラクのイランの代理勢力に対する空爆を開始し、今後も継続するとしている。わざわざ米国本土からB-1戦略爆撃機を投入したのは、その気になればイランも空爆出来るというメッセージであろう。

 11月に大統領選挙を控えるバイデン政権は、米兵士殺害で同政権の弱腰に対する批判が高まることを無視出来なかったが、他方、このタイミングでイランと正面切って対決し、新たな国際紛争を始めるリスクも避けたくてイランの代理勢力に対する大規模攻撃というオプションを選んだものと思われる。

 しかし、バイデン政権は「イラン本土は攻撃しない」と宣言してしまっており、イランは自国への直接攻撃は無いことを知ってしまったのでイランに対する抑止力の回復にはならず、この攻撃でイランとその代理勢力を一時的に大人しくさせることは出来ても、問題は解決されないのではないか。

 核武装に成功していない現時点でイランは、米国と対決しても勝ち目は無いことから米国との直接対決を望んでいないと思われるので、米軍の攻撃に対して批判はしても正面切って米国との対決は避けるだろう。また、代理勢力側も米軍の攻撃で武器等の資材を失い、彼等の攻撃力を一時的に低下させることは可能であろう。ただし、イラクの一部の代理勢力が攻撃に怯まずに攻撃継続を宣言しているのは気になる。』

『しかし、米軍がイラン本土を攻撃しないためにイランの武器製造ラインは無事であり、イランの代理勢力はイランから武器の補給を受けて、再びシリアとイラクの米軍に対する攻撃が再開される可能性が高い。バイデン政権としては、11月の大統領選挙までイランとその代理勢力を大人しくさせておければ良いとの計算ではないかと想像するが、中東ではメンツが重要であり、イラン側が11月まで大人しくしているとは思われない。

 イラン側は、バイデン政権が初めから「イラン本土は攻撃しない」と宣言したことに安堵し、同時にこれをバイデン政権の「弱さ」のあらわれと受け取る可能性がある。

シリアとイラクの一層の不安定化

 今後、暫く米軍の空爆は続くものと思われるが、いずれ、イランの代理勢力のシリア、イラクにある米軍の駐屯地への攻撃が再開されるだろう。米側も今回の大規模空爆で閾値が下がっており、これまでのように死者が出ない限り報復しないのではなく、イランの代理勢力が米軍を攻撃すれば即座に報復すると想像される。シリアとイラクで米軍とイランの代理勢力が攻撃の応酬を続け、この地域の情勢は一層不安定化し、不測の事態が起きる可能性も高まるものと思われる。

 この論説は、ずるずると米軍がシリアとイラクでの軍事介入に引きずり込まれるという、まさに今起きつつある事態を避けるために米軍の撤退を提言している。現在起きていることを見ると、論説の主張は正しいように思われるが、シリア、イラクから米軍が撤退すれば、イラン側に代理勢力を使った非対称戦争で米国に勝ったと確信させ、イランを一層強気にさせるのは間違いない。 』