迫る日経平均の最高値更新 株価急騰の背景を探る

迫る日経平均の最高値更新 株価急騰の背景を探る
広木隆のザ・相場道
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1670M0W4A210C2000000/

『1989年に付けた日経平均株価の史上最高値(3万8915円87銭)更新が視野に入ってきた。改めてこの株高の背景を整理してみたい。前回(1月17日付)の「ザ・相場道」では年明けの急ピッチな上昇について短期の要因を指摘したので、今回はより大きなフレームワークでこの相場を捉えよう。

まず国内のマクロ的な観点では、長らく日本経済をむしばんできたデフレが終焉(しゅうえん)し、マイルドなインフレが定着しつつあることが挙げられる。それにより値上げが通りやすくなり、企業が原価を適切に価格に反映し、利益を上げやすい構造になってきた。実際、足元で一巡した決算発表を見ても、値上げによる好業績の事例は非常に多い。

またインフレそのものが株高要因である。米経済学者のジェレミー・シーゲル氏は著書「株式投資」の中で、「期待インフレ率の上昇は株主が手に入れる将来の期待キャッシュフローも増加させる」と述べている。簡単な話、インフレになればその分だけ原材料価格も上昇するが、販売価格に転嫁できれば売上高が上がり、利益も増える。それを反映する株価も、結局はインフレの影響を受ける名目の値だという説明で十分だろう。

【連載「広木隆のザ・相場道」の最新記事】

・バブル後高値更新の日本株相場 上昇はどこまで続くか?
・足元で出遅れた日本株 円高の影響は早晩やわらぎ反発へ
・米国出張で実感した 海外投資家が日本株を買い進む条件

日本企業の変化を海外投資家が評価した

次は、「ザ・相場道」の連載でも再三触れてきた日本企業の変化だ。昨年3月の東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請を機に、PBR(株価純資産倍率)改善期待が一大テーマとなって相場を押し上げてきたのは周知の通りだが、それ以外にも日本企業の経営を取り巻く大きな変化が次々と顕在化している。

直近の話題から振り返れば政策保有株、いわゆる株式の持ち合いの解消だ。金融庁が政策保有株の売却加速を求めた損害保険各社の株価が大幅高になったのをはじめ、昨年の秋には日本型グループ経営の象徴とも見られてきたトヨタ自動車グループの持ち合い解消の動きが大きく報じられた。

また、第一生命ホールディングス(HD)による、福利厚生代行のベネフィット・ワンへのTOB(株式公開買い付け)も衝撃的なニュースだった。医療情報サイト運営のエムスリーに買収されることで合意していたベネワンを、「後出し」でより高い値段で買い取った。
これまでの日本のM&A(合併・買収)は企業同士が事前に合意し、株主はそれに従うというのが当たり前だったが、今回の第一生命HDのケースは被買収企業との合意ではなく、株主の支持を取り付けたところがポイントだ。これまで「日本市場は異質」と見られていたものが次々と覆り、いわば資本の論理が通じる「当たり前の資本市場」に生まれ変わろうとしている。

この変化の兆しに海外投資家も気づいたのだろう。彼らは1月だけで2兆円強の現物株を買い越した。この中には中国からの資金シフトも含まれている。政治の不透明感に加え、成長に陰りが見えた中国から投資家のマネーが逃げ出している。全世界株指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」に含まれていた中国株66銘柄が除外されることになった。海外投資家はアジアの中でアロケーション(資産配分)を見直しており、日本がインドなどと並んでその受け皿になっていると見られる。

もちろん海外投資家の選好する市場はいまも米国がトップだ。米国経済のソフトランディング(軟着陸)の見通しが強まり、米国株は史上最高値を更新し続けている。米S&P500種株価指数は史上初めて5000の大台を突破した。米国株高も無論、日本株相場の追い風である。
金融政策と企業業績も追い風

金融政策について言えば、日銀幹部の発言でマイナス金利政策の解除後も金融緩和的なスタンスが維持されることが確認された。一方、米国は景気が予想以上に強く、市場が期待する早期利下げの実現性が不確かになってきた。これらを受けて外国為替市場では円安・ドル高が加速。円相場は再び1ドル=150円に乗せてきた。円安による日本企業の業績押し上げ効果はまだ続く。

そして最後にその企業業績。日本経済新聞は東証プライム市場に上場する約1020社(変則決算や親子上場の子会社などを除く)について、2024年3月期の純利益が3期連続で過去最高を更新する見通しだと報じた(当該記事)。43.5兆円と前期比13%増え、昨年5月の期初予想から3.5兆円上振れするという。売上高純利益率も改善し、日本企業が着実に「稼ぐ力」を高めている証しだ。

これらをまとめると①デフレからインフレへの転換②日本型企業経営の変革=グローバルスタンダードな資本市場へ③それを評価した海外投資家の買い④中国からの資金シフト⑤米国株の最高値更新⑥日本の金融緩和の継続観測=それを背景とした円安⑦好調な企業業績――となる。これだけ並ぶ要因を眺めれば、日本株の上昇は至極当然と受け止められるだろう。
「一部銘柄に偏った株高」との指摘は当たらない

懸念としてよく指摘されるのが、「今の相場は半導体関連株など日経平均への寄与度が高い一部の銘柄だけが買い上げられている偏った相場であり、持続性がないだろう」という点だ。確かに半導体関連株の上昇率は際立っているが、それらが「けん引役」を果たして相場を引っ張っていると前向きに解釈することもできる。

実際、日経平均が下落して半導体関連株が一服した局面では、堅調な業績の内需株が逆行高を演じ、相場を下支えすることもあった。東証の業種別に年初来のパフォーマンスを見ると、輸送用機器がトップだ。2月16日時点の上昇率は24%と東証株価指数(TOPIX)の2倍以上。今般の決算で自動車メーカーの好業績は際立っており、それを素直に反映した結果である。

つまり、足元の日本株相場はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を背景としたまっとうな循環物色がなされており、一部の銘柄にだけ偏った相場だという指摘は当たらない。この先、日経平均が史上最高値を更新する可能性は十分にあるだろう。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。

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